生かされて

乳癌闘病記、エッセイ、詩、童話、小説を通して生かされている喜びを綴っていきます。 by土筆文香(つくしふみか)

チーターパシュルと虹(その3)

2008-12-19 12:06:29 | 童話

「パシュル、外を見てごらん」
パシュルが窓に前足をかけて外をみたとき、口をあけたままかたまってしまいました。パルシュルは置物のようにひげ一本、ぴくりとも動きません。時間がこおりついてしまった感じです。
窓の外は、見渡すかぎり一面が水におおわれていました。さえぎるものは何もなく、どこまでも続く水が小さなさざ波をたてていました。

「み、水……」
パシュルはやっとそれだけいうと黙りこみ、床にぺったりと尻をつけてすわりこんでしまいました。

「外に出てみるかい?」
おじいさんがニコニコしてパシュルの背中をポンとたたきました。パシュルは首をこきざみに横に振りました。
やがてハトがもどってきました。

「もうしばらくすれば、水がひいて必ず出られるからな」
「あの……、箱舟に乗らなかった動物たちは?」
パシュルは気になっていたことをたずねました。
「大洪水でみんなほろびてしまった。箱舟に乗ったもの以外はみんな……」

「えーっ!」
パシュルは血の気がひいていくのがわかりました。大洪水がくるなんて知らなかったのです。箱舟に入れば守られるといったメルダの言葉を思い出しました。

「神様のさばきじゃよ。神様がこの世界を水でほろぼされたのじゃ」
パシュルはショックを受けてヨロヨロとメルダのところへもどりました。パシュルはその日からすっかりふさぎこんでしまいました。メルダが話しかけても、返事すらしません。

一週間後、ハトがオリーブの葉をくわえてきて、舟中が喜びに満ちたときも、パシュルだけは床をみつめて伏せっていました。

それから何日かたって、とうとう舟から降りる日がきました。おじいさんが一年近くも閉じられていたとびらを大きく開きました。
「さあ、みんな。降りるんじゃ。降りて全世界に散らばっていくのじゃ」
おじいさんがいうと、動物たちがせきをきったようにわれ先にとびらへ向かい、外にとび出してきました。

パシュルは箱舟の隅でじっとしています。
「パシュル、わたしたちもいきましょう」
メルダが立ち上がってパシュルの尻を鼻でつつきました。
「オレはここにいる。お前はすきなところへいけよ」
「どうして? 前は早く降りたいって言ってたのに……」
「気が変わったんだ。ほっといてくれ」
「そんなこといわないで、いっしょに降りましょうよ」
「いやだね」

6 約束のしるし

パシュルとメルダが言い争いっていると、おじいさんがやってきました。
「パシュル、こわいのだな」
おじいさんにはかないません。心の中をいいあてられて、パシュルはもぞもぞ体を動かし、照れかくしに前足で顔をなでました。

パシュルは舟が水に囲まれているのをみたとき、心底恐ろしくなってしまったのです。前はこわいものなんかありませんでした。足も速く、体もじょうぶなので自信に満ちていました。でも、川に落ちてから、水が恐ろしくなりました。そして、こんな洪水がこれからも起こるかもしれないと思うと、箱舟から出られなくなってしまったのです。

「だいじょうぶじゃ。こわければ、ずうっとわしらといっしょにいればいい」
おじいさんはパシュルの首をだいてやさしくいいました。
パシュルは、おじいさんと奥さん、三人の息子とお嫁さんたち八人のあとについていきました。もちろんメルダもいっしょです。

おじいさんたちは、箱舟を降りると、石を積み上げてさいだんを作りました。そしてひざまずくと手を組んで目を閉じました。
「おじいさんたち何をしているんだろう?」
「さあ……」
パシュルとメルダにはわかりませんでしたが、人間たちは神様に礼拝をささげていたのです。二匹は人間のまねをして頭を下げ、目をとじました。

「あっ、虹だ」
おじいさんの声で目を開けると、空に半円形の光の帯がみえました。七色のしまもようです。そのとき、天からパシュルの耳にはっきりと言葉が聞こえてきました。
「わたしは、もう二度と洪水でこの世界をほろぼさない。この虹は約束のしるしだ」

パシュルの心がふるえ、涙があとからあとから流れ落ちました。神様が命を守るために自分たちを箱舟に入れて下さったことがはっきりわかったからです。
パシュルはそっとメルダによりそいました。メルダのことを初めていとおしいと思いました。メルダの目にも涙がありました。虹がメルダのひとみに映って輝いていました。

                   おわり





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8 コメント

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いやいや (さわちん)
2008-12-20 00:17:17
微笑ましい話で、温かい気持になりました。
動物が人間の真似をして礼拝する場面なんて微笑ましいじゃないですかぁ
「息のあるものすべて、主に祈れ」というような内容のワーシップソングがあるんですけど、それを思い起こしました。
出エジプト記で、神様がエジプトの家を打った時、イスラエルの家だけは打たないで過ぎ越されたことや、創世記で、ロトとその家族をソドムから連れ出したこと、アブラムを父の家から離れさせ信仰の道に導かれたこと、等、神様の哀れみを思い起こしながら読んでました。
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さわちんさんへ (文香)
2008-12-20 17:07:26
童話、最後まで読んでくださってありがとうございます。

大自然の中にいると、造られたものすべてが神様を讃美し、礼拝をささげているような気がしてくることがあります。

この童話のテーマは、あわれみ深い神様の守りに気づくことと自分の無力さに気づくことです。
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しっかり (さわちん)
2008-12-21 01:26:16
伝わりましたよ、テーマが
また、ノアじいさんの優しさも心温まりました。

大自然の中にいると、そうですね。
私は特に、マタイの福音書前半、6章ぐらいでしたか、忘れましたが、何を食べるか気にしてはならない、草や花は神様によって着飾らせてもらってる
というあの箇所を意識しますね

話は変わりますが、今レビ記を読んでます。8章まで読みましたが、頭の中の整理が追い付いていかず、もう一回、1章から読み返してます。
本当に難しいですね~
意味が理解できないことばっかりで
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さわちんさんへ (文香)
2008-12-21 17:19:01
「なぜ着物のことで心配するのですか。野のゆりがどうして育つのか、よくわきまえなさい。働きもせず、紡ぎもしません。(マタイ6:28)」の箇所ですね。神様の造られた草花に教えられますね。

レビ記は難しいですね。わたしもわからない箇所がたくさんあります。理解できないところがあっても、いつかわかるときがきますので、あせらずに読んでいってください。
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Unknown (N.K)
2008-12-23 11:50:29
今日は、私も天からの声を聞いたなら、心がふるえ、涙が溢れるだろうと思います。時が流れて虹のかわりに私達のもとに主イエス様を神様がくださったことに改めて感謝の気持ちでいっぱいになりました。
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N.Kさんへ (文香)
2008-12-23 22:02:41
アーメンです。
虹は神様の約束のしるし。そして、イエスさまの誕生も神様が約束してくださったことですね。

約束を必ず遂行してくださる神様に心から感謝!
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そうです (さわちん)
2008-12-24 11:08:06
その箇所です。私は若干勘違いして覚えてましたが…

レビ記の注解書、買って持ってはいるんですけどね、その注解も、いまいち分かりにくい感じで。
いつか分かるんですね。
聖霊の力を借りながらじっくり時間かけて読んでいきます。
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さわちんさんへ (文香)
2008-12-24 12:38:50
>聖霊の力を借りながらじっくり時間かけて読んでいきます。

その姿勢を保つことが大切ですね。聖霊の働きがありますように祈っています。

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