『クライマーズ・ハイ』 大森寿美男監督 ☆☆☆☆
小説を読んであらためて感動したら、映画より評判が良いらしいTVドラマ版を観たくて仕方なくなり、AmazonでDVDを購入してしまった。こちらは主人公の悠木・佐藤浩市、佐山記者・大森南朋、等々力部長・岸部一徳、社長・杉浦直樹というキャストである。
映画版との違いは、原作に忠実。もうこれに尽きる。ごく一部のアレンジを除き(たとえば事故原因のネタを拾って来る記者と、佐山と一緒に初日の現場を踏む記者が同一人物になっている)、原作の通りに物語が進んで行き、悠木の心情も佐藤浩市のナレーションによって原作とほぼ同じ言い回しで表現される。映画ではカットされていた、オートバイ事故で死んだ部下のエピソード、それを踏まえたラストの女子大生の投書のエピソードも、小説の通りに映像化されている。だから小説に感動してこれを映像で観たいと思った人は、映画よりこのテレビ版の方が良いかも知れない。
また、テレビ版においては映像が全体的に地味である。たとえば北関東新聞社のオフィスは、映画版では現代的な大企業オフィスのイメージだったが、テレビ版では一昔前のうらぶれた地方新聞社の雰囲気が滲み出ている。最初ぱっとオフィスの光景が出た時はその印象の違いに驚いたが、中央にコンプレックスを持っている地味な地方紙、という設定にはこっちの方がふさわしい気がする。まあ、地方紙のオフィスがどんな感じなのか本当のところは知らないが。
それからNHKドラマに多いパターンだが、祈りにも似た静謐で荘重な音楽が喧騒の多いこのドラマに厳かなムードをもたらしていて、なかなか良い。人間の営みの崇高さ、愚かしさがじわじわと迫ってくる。佐藤浩市の悠木は映画版の堤真一に勝るとも劣らないはまり役で、この激しいドラマを支えている。佐山記者の大森南朋、等々力部長の岸部一徳は映画版の堺雅人、遠藤憲一とは違うムードで、これもまた面白かった。ただ大森南朋の佐山記者はおとなしい印象で、もうちょっと曲者ぶりを出してもよかったと思う。命がけで送った雑感が新聞に載らなかったと知った時の悠木への反発は、映画版の堺雅人の方が迫力があった。等々力部長は映画版の遠藤憲一がヤクザっぽいコワさだったのに対し、岸部一徳はのらりくらりした不気味なイメージ。これは甲乙つけがたい。
小説と比べると、さすがに人々の思いや細かな背景、たとえばこの事故で地方紙がネタを抜くことのあまりにも大きな意味、中曽根と福田の政治的バランスの話、それから最後の投書の話の難しさなどは、映像だけでは充分に伝わりきれない感じだ。新聞社を辞めることになるかも知れないという悠木の葛藤が小説ほどみっちり伝わってこないため、ラストのエピソードがどうしても弱く思えてしまう。しかし、あの小説『クライマーズ・ハイ』の映像化としては、充分に健闘していると思う。かなりプロットに手を加えてある映画版とは方向性が違うので一概に比較はできないが、総合的には、地味な雰囲気の中に熱く荘厳なドラマを凝縮したテレビドラマ版の方が好みだった。
小説を読んであらためて感動したら、映画より評判が良いらしいTVドラマ版を観たくて仕方なくなり、AmazonでDVDを購入してしまった。こちらは主人公の悠木・佐藤浩市、佐山記者・大森南朋、等々力部長・岸部一徳、社長・杉浦直樹というキャストである。
映画版との違いは、原作に忠実。もうこれに尽きる。ごく一部のアレンジを除き(たとえば事故原因のネタを拾って来る記者と、佐山と一緒に初日の現場を踏む記者が同一人物になっている)、原作の通りに物語が進んで行き、悠木の心情も佐藤浩市のナレーションによって原作とほぼ同じ言い回しで表現される。映画ではカットされていた、オートバイ事故で死んだ部下のエピソード、それを踏まえたラストの女子大生の投書のエピソードも、小説の通りに映像化されている。だから小説に感動してこれを映像で観たいと思った人は、映画よりこのテレビ版の方が良いかも知れない。
また、テレビ版においては映像が全体的に地味である。たとえば北関東新聞社のオフィスは、映画版では現代的な大企業オフィスのイメージだったが、テレビ版では一昔前のうらぶれた地方新聞社の雰囲気が滲み出ている。最初ぱっとオフィスの光景が出た時はその印象の違いに驚いたが、中央にコンプレックスを持っている地味な地方紙、という設定にはこっちの方がふさわしい気がする。まあ、地方紙のオフィスがどんな感じなのか本当のところは知らないが。
それからNHKドラマに多いパターンだが、祈りにも似た静謐で荘重な音楽が喧騒の多いこのドラマに厳かなムードをもたらしていて、なかなか良い。人間の営みの崇高さ、愚かしさがじわじわと迫ってくる。佐藤浩市の悠木は映画版の堤真一に勝るとも劣らないはまり役で、この激しいドラマを支えている。佐山記者の大森南朋、等々力部長の岸部一徳は映画版の堺雅人、遠藤憲一とは違うムードで、これもまた面白かった。ただ大森南朋の佐山記者はおとなしい印象で、もうちょっと曲者ぶりを出してもよかったと思う。命がけで送った雑感が新聞に載らなかったと知った時の悠木への反発は、映画版の堺雅人の方が迫力があった。等々力部長は映画版の遠藤憲一がヤクザっぽいコワさだったのに対し、岸部一徳はのらりくらりした不気味なイメージ。これは甲乙つけがたい。
小説と比べると、さすがに人々の思いや細かな背景、たとえばこの事故で地方紙がネタを抜くことのあまりにも大きな意味、中曽根と福田の政治的バランスの話、それから最後の投書の話の難しさなどは、映像だけでは充分に伝わりきれない感じだ。新聞社を辞めることになるかも知れないという悠木の葛藤が小説ほどみっちり伝わってこないため、ラストのエピソードがどうしても弱く思えてしまう。しかし、あの小説『クライマーズ・ハイ』の映像化としては、充分に健闘していると思う。かなりプロットに手を加えてある映画版とは方向性が違うので一概に比較はできないが、総合的には、地味な雰囲気の中に熱く荘厳なドラマを凝縮したテレビドラマ版の方が好みだった。
小説の厚み・深みは望むべくもありませんが、配役の妙など別の愉しみを得られた様に感じます。私としては杉浦直樹の白河社長が、従来のイメージを裏切って印象的でした。
小説・コミックの映像化に対しては、まるで原作者のように(笑)相違をあげつらってばかりでしたが、一部の作品ではようやく別物として鑑賞する余裕が出来てきました。
「空飛ぶタイヤ」や「下町ロケット」のドラマもWOWOWならではの良さがあります。とりあえず仲村トオルや三上博史のカッコ良さも目障りではありませんでしたし、根っから文科系の私には、部品などの技術的内容を映像化してもらえるのはありがたいので。
明日、みまーす。
ego-danceさんは、買ってしまわれたのですね。
アメリカじゃ、そりゃ借りられませんよね。
楽しみです!
佐山記者については、堺正人に軍配が上がりました。
大久保連赤事件という単語の示す内容、その時代についての説明が、映画版でもドラマ版でも一切ないので、ちょっと戸惑いますが、その辺は映像の限界なのでしょうか。
自分の至らなさから部下を亡くす、というきつさを背負って生きるつらさ苦さを、佐藤浩一はうまく演じ切っていたと思います。
実は「空飛ぶタイヤ」もTV版を観ました。近日感想をUPしますが、最高でした。「下町ロケット」も良さそうですね。DVD買おうかどうしようか迷っています。
>sugar momさん
佐山記者は私も堺正人の方が好きでした。他は全般にTV版の方が好印象と思いましたが、まあ一番いいのはやはり小説ですね。