『男はつらいよ』 山田洋次監督 ☆☆☆☆★
『男はつらいよ』記念すべきシリーズ第一作である。正確にいえばテレビ版があるらしいが、とりあえず寅さん映画の歴史はここから始まった。
二作目もそうだが、やはりこの一作目の寅さんは特にヤクザ度が高い。後の「優しい叔父さん」的面影はなく、破壊力抜群である。さくらの見合いの席をぶち壊すシーンやおいちゃんおばちゃんとのケンカシーンもそうだが、目があった博に小声で凄むなど、後の寅さんでは考えられない言動も目につく。ひたすら乱暴者である。けれども寅が乱暴者であればあるほど、泣かせるシーンが生きてくる。たとえばさくらが博と結婚する、と寅に告げ、「いいでしょお兄ちゃん?」と聞くシーン。寅は何も言わずにうなずき、後ろを向いて涙をこらえる。この時の渥美清の表情は絶品である。乱暴者の寅だからこそ、この繊細さが生きる。
それからラスト、旅に出るためとらやを飛び出し、ついてきた舎弟の昇も「おれみてえな馬鹿になりてえのか!」と怒鳴って追い払い、一人ぼっちになってラーメンをすすりながら泣く寅。この寅の涙はおそらくシリーズ中寅が流すもっとも悲痛な涙である。これは単なる失恋の涙ではない。寅にはさくらやおいちゃんやおばちゃんがいるように見える、けれども寅は本質的に孤独なのである。寅は最後にはいつも一人ぼっちで人生に立ち向かわねばならない。シリーズ中どの作品でも、彼はラストシーンで必ず旅をしている。彼は渡世人で、他の人々が所属する場所に彼だけは所属していない。とらやの人々とも違うし、マドンナ・冬子とも違うし、まだ若い昇とも違う。ここで寅が流す涙は耐えがたい孤独の涙だ。破壊力抜群の乱暴者であるが故にこの涙はとても痛ましい。
この一作目のメインのエピソードはさくらと博のラブストーリーである。寅の恋愛はほとんどつけたし扱いだ。最後に、それまで影も形もなかった冬子の婚約者が突然現れて失恋という運びになる。それに比べてさくら・博の方はまずさくらの見合い、博とさくらが互いに寄せるほのかな想い、そして寅の仲介の失敗(というか仲介になっていない)、そして博の告白シーン、と丁寧に盛り上がっていく。博の告白シーンは感動的だ。ふられたと思った博はさくらに想いのたけを告白し、飛び出していく。「ぼくの部屋の窓から、あなたの部屋が見えるんです……本を読んで涙ぐんでいたり、時には歌を歌ったり……ぼくはこの三年間、それだけを楽しみにして……ぼくは出ていきます、お幸せに」
いまどきこんな純情な告白をする男もいないだろうが、こんな告白をされたら女冥利に尽きるだろう。これを聞くさくらの表情がまたいい。
そして結婚式、博と絶縁しているはずの父が現れる。志村喬である。黙りこくって下を向いている志村喬。大学の名誉教授という肩書きに寅は「どうせ貧乏人の結婚式だと馬鹿にしてるにちげえねえ」と偏見ばりばりだが、この志村喬のスピーチがまた泣かせる。
そしてなんといっても特筆すべきはさくらの可愛らしさ、美しさ。私は寅さんシリーズ全体の真のマドンナはさくらだと思っているが、この第一作では名実ともにさくらがマドンナである。倍賞千恵子の演技も良く、博の告白を聞く、博を駅まで追いかける、そして戻ってきて寅に結婚を報告する、という一連のシーンが特に素晴らしい。こんな女性が身近にいたら好きにならずにはいられないぞ、いやマジで。
作品全体の出来は二作目に一歩譲るというのが私の感想だが、しかし爆笑シーン、感動シーンてんこ盛りのアッツアツの寅さん第一作である。なんといってもここまでさくらがフィーチャーされた作品は他にない。日本人全員必見。
『男はつらいよ』記念すべきシリーズ第一作である。正確にいえばテレビ版があるらしいが、とりあえず寅さん映画の歴史はここから始まった。
二作目もそうだが、やはりこの一作目の寅さんは特にヤクザ度が高い。後の「優しい叔父さん」的面影はなく、破壊力抜群である。さくらの見合いの席をぶち壊すシーンやおいちゃんおばちゃんとのケンカシーンもそうだが、目があった博に小声で凄むなど、後の寅さんでは考えられない言動も目につく。ひたすら乱暴者である。けれども寅が乱暴者であればあるほど、泣かせるシーンが生きてくる。たとえばさくらが博と結婚する、と寅に告げ、「いいでしょお兄ちゃん?」と聞くシーン。寅は何も言わずにうなずき、後ろを向いて涙をこらえる。この時の渥美清の表情は絶品である。乱暴者の寅だからこそ、この繊細さが生きる。
それからラスト、旅に出るためとらやを飛び出し、ついてきた舎弟の昇も「おれみてえな馬鹿になりてえのか!」と怒鳴って追い払い、一人ぼっちになってラーメンをすすりながら泣く寅。この寅の涙はおそらくシリーズ中寅が流すもっとも悲痛な涙である。これは単なる失恋の涙ではない。寅にはさくらやおいちゃんやおばちゃんがいるように見える、けれども寅は本質的に孤独なのである。寅は最後にはいつも一人ぼっちで人生に立ち向かわねばならない。シリーズ中どの作品でも、彼はラストシーンで必ず旅をしている。彼は渡世人で、他の人々が所属する場所に彼だけは所属していない。とらやの人々とも違うし、マドンナ・冬子とも違うし、まだ若い昇とも違う。ここで寅が流す涙は耐えがたい孤独の涙だ。破壊力抜群の乱暴者であるが故にこの涙はとても痛ましい。
この一作目のメインのエピソードはさくらと博のラブストーリーである。寅の恋愛はほとんどつけたし扱いだ。最後に、それまで影も形もなかった冬子の婚約者が突然現れて失恋という運びになる。それに比べてさくら・博の方はまずさくらの見合い、博とさくらが互いに寄せるほのかな想い、そして寅の仲介の失敗(というか仲介になっていない)、そして博の告白シーン、と丁寧に盛り上がっていく。博の告白シーンは感動的だ。ふられたと思った博はさくらに想いのたけを告白し、飛び出していく。「ぼくの部屋の窓から、あなたの部屋が見えるんです……本を読んで涙ぐんでいたり、時には歌を歌ったり……ぼくはこの三年間、それだけを楽しみにして……ぼくは出ていきます、お幸せに」
いまどきこんな純情な告白をする男もいないだろうが、こんな告白をされたら女冥利に尽きるだろう。これを聞くさくらの表情がまたいい。
そして結婚式、博と絶縁しているはずの父が現れる。志村喬である。黙りこくって下を向いている志村喬。大学の名誉教授という肩書きに寅は「どうせ貧乏人の結婚式だと馬鹿にしてるにちげえねえ」と偏見ばりばりだが、この志村喬のスピーチがまた泣かせる。
そしてなんといっても特筆すべきはさくらの可愛らしさ、美しさ。私は寅さんシリーズ全体の真のマドンナはさくらだと思っているが、この第一作では名実ともにさくらがマドンナである。倍賞千恵子の演技も良く、博の告白を聞く、博を駅まで追いかける、そして戻ってきて寅に結婚を報告する、という一連のシーンが特に素晴らしい。こんな女性が身近にいたら好きにならずにはいられないぞ、いやマジで。
作品全体の出来は二作目に一歩譲るというのが私の感想だが、しかし爆笑シーン、感動シーンてんこ盛りのアッツアツの寅さん第一作である。なんといってもここまでさくらがフィーチャーされた作品は他にない。日本人全員必見。
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