アブソリュート・エゴ・レビュー

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桐島、部活やめるってよ

2016-02-29 22:28:11 | 映画
『桐島、部活やめるってよ』 吉田大八監督   ☆☆☆

 日系レンタルビデオ店のDVDで鑑賞。かなり高評価なヒット映画だと聞いたが、個人的にはまあまあレベルだった。最近はスクールカーストという言葉があるらしく、それがテーマになっている。スクールカーストとは要するに学校生活の中でイケてる奴・イケてない奴という他人の評価によって形成される身分制度のことで、つまり他人から羨まれる人気者グループに所属すれば天国、蔑まれるグループに所属すれば地獄という、高校生にとっての大問題のことである。

 この映画はそのスクールカーストの最上位に君臨するスター生徒、バレー部のキャプテンにしてイケメン、何をやらせてもソツなく誰からも頼られるという「桐島」が突然バレー部を辞め、そのニュースが学校中を駆け巡ってカーストの様々な階層にいる生徒たちに波紋を投げかける、という物語である。たとえば桐島と同じ人気者グループの女性徒たちは「何か知ってるんでしょ!」と男友達に詰めより、バレー部は試合に負けて険悪な空気になる。スクールカーストだけでなく、「才能のある・なし」の残酷さもテーマの一つのようだ。ちなみに、桐島本人は登場しない。

 桐島が部を辞めたら女生徒が青い顔で駆け回ったり、「桐島が学校に来た」というと生徒が大勢で駆け出していったり、まるで誰かが交通事故にでもあったような騒ぎで、いかにも大げさである。なんだかことさらにスクールカーストというものを重要視する意図が感じられ、私などは結構な違和感があった。いくら人気者だといっても一生徒が部活やめたぐらいでこんな騒ぎになるか? なるとしたら、それは単なる高校生の幼さではないか? その幼さに観客である我々もつきあう必要があるのか?

 とはいえ、実は桐島がどうこういうのはストーリーにはあまり関係ない。スクールカーストというものを皆に意識させる象徴としての意味合いが強いようだ。ストーリーはいわば群像劇だが、メインとなるのは、いつも周囲から白い目で見られている映画部が「自分たちが好きなものを作ろう」とゾンビ映画を作る話、人気者の男子生徒(桐島グループの一人)に憧れストーカー的に窃視するブラスバンド部女性徒の話、グループから仲間はずれにならないために自分を偽っていた女性徒がその下らなさに気づいて正直になる話、などである。ほのかな恋や友情、人間関係など青春の断片的あれこれが盛り込まれていて、要するに、スクールカースト部分を除けばわりと普通の青春群像劇である。

 ラストシーン、桐島グループの一人でありモテモテの男子生徒(東出昌大)が、みんなからバカにされている映画部の部長(神木隆之介)が映画に打ち込んでいるのを見て自己嫌悪にかられ涙を流す、という図で映画のテーマは締めくくられる。つまり、最終的には好きなことに打ち込んでいる奴の勝ち、万能でもしらけている奴の負け、というメッセージである。きわめて当たり前かつ図式的で、面白くもなんともない。

 ほのかな恋や幻滅などの青春群像劇としてはまあまあだったが、テーマであるスクールカーストの扱いが妙に大仰で空疎なため、幼稚さを感じてしまった。高校生にとってはこれが現実であり、大問題なのだといわれればそうかも知れないが、数年待って成長してもらうしかないだろう。しばらく日本にいないのでよく分からないが、これも日本的な行き過ぎた「KY」思想の一つの症例ではないだろうか。一緒におひるを食べる友人がいないからといって、勝手に気にしてトイレでランチしてしまうようなマインドにはつきあいきれない。



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2 コメント

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Unknown (キルシュ)
2016-03-02 00:50:25
はじめまして。
僕もこの映画はイマイチでした。
初めて視聴した時僕は近い年齢である学生でしたが、なんだか「(現代の若者の苦い)あるある」な感じを手掛かりにした作品で最後まで物語が矮小してる感じがして手応えがありませんでした。
ちなみにこの映画は日本だと所謂「サブカル好き」な人たちの評価が高いようです。
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Unknown (ego_dance)
2016-03-05 11:37:08
そうですね。。。確かにかなりの部分「あるある」感に頼ってる映画のような気がします。サブカル好きに受けるのは、「ロメロぐらい見ろよ」とか、「鉄男」の上映シーンとか、ああいう部分がアピールするんでしょうか。
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