アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

帰らない夜明け

2016-09-05 22:45:58 | 映画
『帰らない夜明け』 ピエール・グラニエ・ドフェール監督   ☆☆★

 アラン・ドロンの映画を何か観たくなり、日本版DVDを購入して鑑賞。フランスの田舎を舞台にしたメロドラマである。印象派の絵に出てくるような跳ね上げ式の橋や田園風景が出てきて、なかなかいい雰囲気だ。このムードはやはりフランス映画しか出せないだろう。甘美なストリングスの映画音楽に、美しい田舎の風景、そして色男のアラン・ドロン。これでメロドラマをやられたら、どんな適当な脚本でもまあまあ浸れてしまう。

 アラン・ドロンは青年時代の輝くような美貌に渋みが加わってきた、一番かっこいい時期である。最初は鼻髭を生やしていてちょっとキザな感じだが、途中で剃ってさっぱりする。相手役はもうおばさんのシモーヌ・シニョレで、この手のメロドラマにしては珍しいパターンだ。若い娘も出てきてドロンとラブシーンを演じたりもするが、主役はドロンとシモーヌ・シニョレである。さすがにシモーヌ・シニョレとの露骨なラブシーンはない。シニョレは風来坊のドロンを家に泊めて働かせる女主人だが、やがて彼に惹かれていく。もう若くない彼女が女の本能を再び呼び覚ましていく過程と、その苦さ、若い女への嫉妬、などを描き出している。そういう意味では甘々のメロドラマではなく、大人向けのビターなドラマと言えるだろう。

 冒頭、村の道を歩くドロンと、その横を通り過ぎるバスの座席から振り返って彼を見るシモーヌ・シニョレが映る。シニョレがバスを降り、通りかかったドランが荷物運びを申し出て、一緒に彼女の家に行く。ワインを一杯だけ飲んで出て行こうとするドロンに、「仕事が欲しいの?」と尋ねるシニョレ。こうしてドロンが住み込みで働くことになる。ドロンは大工仕事をしたり、草を刈ったりして働く。このあたりの雰囲気は、なんとなく高倉健と倍賞千恵子の『遙かなる山の呼び声』みたいだ。シモーヌ・シニョレは倍賞千恵子みたいにきれいじゃないけれども。

 シニョレはドロンに惹かれ、やがてドロンとそれなりにいい感じになるが、ドロンは近所の若い娘とも関係を持つ。シニョレは「私を若い気持ちにさせておいて、どうして」と泣きながらドロンを責める。「若い気持ちにさせておいて」とはなんとも身につまされるセリフである。次第に年を取り、もう恋愛をあきらめていた女性が思いがけずめぐりあった最後の恋。ビターだなあ。

 さて、得体の知れない風来坊のドロンは実は殺人犯で、最後は警官隊がやってきて包囲されることになる。当然、悲劇的な結末を迎える。この手のメロドラマにありがちな結末である。牧歌的な風景、甘い旋律の映画音楽、感傷的なラブストーリー、そしてやるせない結末。正直どうってことない小粒なメロドラマで、脚本も凡庸だ。ドロンの存在感と、シニョレの繊細な芝居によってまあまあ見れる程度だと思う。が、こういうフランス映画のメロドラマを、週末の深夜にぼけっと観るのもまあ乙なものである。



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