アブソリュート・エゴ・レビュー

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婚期

2012-09-13 21:32:14 | 映画
『婚期』 吉村公三郎監督   ☆☆☆☆

 日本版DVDで再見。1961年作品、コミカルなホームドラマである。キャストは京マチ子、若尾文子、野添ひとみ、高峰三枝子と女優陣が豪華だ。男優は船越英二が孤軍奮闘している。この人は昔の映画を観るとよくもてる男、またはプレイボーイっぽい役で出てくるが、個人的には「いい人」のイメージの方が強くてあまりピンと来ない。女性にとっては魅力的なのだろうか。あと、女中のばあや役の北林谷栄もすごくいい味を出している。

 京都の名家らしき家の主人が船越英二、その嫁が京マチ子。高峰三枝子、若尾文子、野添ひとみは船越英二の妹たちで、離婚歴ありの高峰三枝子は家を出て一人で暮らしている。若尾文子、野添ひとみは兄夫婦と同居していて、嫁の京マチ子をいびりまくっている。『女系家族』では京マチ子が若尾文子をいびっていたが、今回は逆である。若尾文子のいびり方も堂に入っていて大したもんだ。とにかく、この妹二人がわがままなんである。若尾文子は目が悪い習字の先生で、めがねをかけているか、かけていない時は近眼の人がよくやるように時々目を細める。若尾ファンはめがね萌え、もしくは近眼萌えして下さい。三女の野添ひとみは劇団で役者をしている。端役しかもらえないらしい。

 この二人が京マチ子に「あなたのご主人は浮気している」という匿名の手紙を出したり、劇団の友人に頼んで愛人を装って電話をかけたり、色んな嫌がらせをする。ところが、船越英二には実際に愛人が(二人も)いて……という話。

 それともう一つの柱は、若尾文子のお見合い話。もうすぐ30ということで「行き遅れ」という言葉に敏感になっている若尾文子は、相手のレベルを下げたくないと言いながらも気にはしている。だから嫌いな京マチ子が持ってきた話でも、縁談となれば熱心に聞く。この映画で最高におかしい場面はなんといっても、船越英二、京マチ子、若尾文子、野添ひとみがこたつを囲んで、若尾文子がお見合いした歯医者のことを議論する場面である。まあ要するに、歯医者さんの頭髪がないことが問題になるのだが、そこから飛び火して家庭内の色んな問題について論争が繰り広げられる。この話の飛び方や各人の切り返し方は、脚本も演技もしっかりしていて非常に見ごたえがある。

 コミカルで滑稽でありつつも、京マチ子のいたぶられ方はかなり痛々しい。最近のコメディドラマみたいに演技がコント的、紋切り型ではないからだ。この痛々しさと滑稽さのブレンドがこの映画の味わいを深くしている。単に笑えるだけでなく、その底には哀感がある。キャラクターが記号ではなく実体の重みを持っている。特に、強がっている中に時折寂しさを覗かせる、めがね萌えの若尾文子がいい。この頃の役者さんは本当に芸達者だなあ。

 京マチ子がかわいそうなままで話が進み、最後はどうなるのかと思っていると意外に清々しい終わり方をする。非常に気持ちがいい。このラストで評価が三割増しである。


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