アブソリュート・エゴ・レビュー

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新必殺仕置人(子之巻)第四話~第九話

2005-08-18 04:43:43 | 必殺シリーズ
新必殺仕置人(子之巻)

第四話~第九話   ☆☆☆☆

 新仕置人子之巻もあったという間にDisk3まで観終わってしまった。あと一枚しかない。これを観終わったらまた10月まで待つのである。はあ。

 さて、三話観た時点で違和感があると書いたが、だんだんキャラクターや設定になじんできて面白くなってきた。それに四話ぐらいまで観て気づいたのだが、新仕置人では仕置が終わってから後が長い。他のシリーズでは仕置が終わり、仕置人達が闇にまぎれたところで終わり、というあっけないパターンも多いが、これまでのところほとんどそういうエピソードがない。どれもちゃんと後日談のような締めくくりがついている。これは丁寧に物語が作られているということだと思うが、とてもいいと思う。

 そういう意味で『暴徒無用』は印象的だった。変則的な旅物で、鉄、松、主水がある村へ出て行って仕事をするのだが、仕置の後、悪人=伊右衛門の手から奪回した娘が江戸へ買われて行く前の宴が設けられる。助けはしたものの、どうせ娘は金のために売られていく運命なのだ。主水はその席で、舞う娘を見ながら、どうして伊右衛門に娘を売らなかったのかと村長に尋ねる。村長は、高貴なものでなければこの村の娘を買う資格はない、と言い放つ。理不尽で残酷な村の掟。仕置人はただ、他のところへ売られていくために娘を助けたことになるのである。う~ん、この後味の悪さ。これぞ必殺。

 『王手無用』も変則で、仕置が最後にまとめてでなく話の中でちょっとずつ進行する。今回の仕置は本編最後に出てくる「煙詰め」という詰め将棋に見立てられているのだ。これも面白い。

 『貸借無用』は、オリジナル仕置人を彷彿とさせるパワフルかつ残酷な一篇である。いきなり女風呂の覗きから始まったと思ったら、鉄が女に体を洗わせつつ股に手を突っ込んでいる。その後デバガメ男は女の後をつけ、首をしめて殺し、死姦する。さらにその後カミソリを取り出して、女の体をズタズタにする。
 これだけではない。デバガメ男の父親である羅漢寺の政五郎はヤクザの大親分なのだが、同心村上と結託してこの罪を薪売りの仙太にかぶせてしまう。仙太を殴る蹴るして自白を強要する村上。やがて仙太が真犯人を目撃したことを知るや、無理やり怪しげな液体を飲ませて喉を焼き、喋れなくしてしまう。いやー、凄い話だ。こんなの放映して大丈夫なのだろうか。しかしこの同心の村上、主水にも威張りまくりで、久々に仕置されがいのある悪党、という感じである。
 一方、仙太の姉から仕置人を探してくれと頼まれた正八は、「かわいそうだ」といって二両で引き受けてくるが、安い仕置料にキレた鉄に殴る蹴るされる。結果的に仕置料は五十両に増額されるが、ターゲットの羅漢寺の政五郎は大物なので、虎の会でも「千両箱を積まれてもお断りだ」といって誰も引き受けようとしない。鉄は一人これを競り落として戻ってくる。そして物騒な笑みをたたえながら言い放つ。「縄張りや百人の身内がなんだってんだ。ぶっ殺してやる」
 これぞ念仏の鉄、男がしびれる男である。
 そして仕置シーン。政五郎は手入れの捕方に変装してやってきた鉄にアバラを外され、デバガメ息子は松の鉄砲であの世行き。そして主水は村上に「お忘れかと思いまして……私に下さるものを」そしてバッサリ。息絶える村上。「……おめえの命だ」
 そして仕置の後、とある部屋で睦みあう男女。「政五郎もいなくなって、身代は全部俺達のもんだ」「五十両で仕置人か。安いもんだ」
 なんと、頼み人はこいつらで、今回の仕置は単に政五郎一家の内紛だったというオチである。まあ、結果的に仙太と姉の恨みを晴らしたのだから結果オーライとは言え、この皮肉なエンディング。やはり新仕置人、ただものではない。

 そして『裏切無用』。これも周到に伏線が張られた傑作だが、何と言ってもショッキングなのは仲間にリンチされる主水である。表の仕事で捕まえなくちゃいけない下手人と裏の仕事のターゲットがバッティングしてしまい、あそこは岡っ引きがたくさんいて危ないとかなんとか鉄たちに嘘をつき、その隙にターゲットを捕まえてしまう。主水としては、捕まえたあと牢で仕置をすればいいと思っていたのだが、悪党どもはとある大名のコネで保護されてしまったのだ。これを主水の計算ずくだと思った鉄たちは、主水を呼び出し、刀を取り上げ、リンチにかける。鉄が主水の腕の骨を外し、松と一緒に殴る蹴るする。この時の鉄は本当に恐い。
 しかし、この巳代松というキャラクターもかなり変である。見かけはまともで、人が良く、鉄に純情とか冷やかされるような奴なので、てっきり質実剛健で、沈着冷静なキャラクターかと思っていたら、実は意外とお調子もんなのである。
 このリンチの際も、裏切りがよっぽど頭に来たのか、鉄と一緒に狂ったように殴る蹴るし、あげくの果てはでかい石を頭上に持ち上げて主水の頭をカチ割ろうとする。さらに鉄が刃物を出して主水にとどめを刺そうとすると、「おれにやらせてくれ!」と言って刃物を奪い取ろうとする。おいおい。
 もともと主水が嫌いだったのか、巳代松?
 まあとにかく誤解が晴れ、鉄は「痛かっただろー? ごめんよ」と言って骨を入れてやる。ちなみに巳代松が主水に謝った形跡はない。
 ところで今回の話も、仕置後に頼み人が分かって鉄が唖然となるというオチがついている。私は虎の会という組織の存在意義が最初は良く分からなかったが、頼み人が誰だか分からないという、これまでの必殺シリーズのフォーマットでは難しい演出が可能になっている。なるほど、そういうことか。
 
 『悪縁無用』は巳代松メインのエピソードである。巳代松があこがれる芸者のおりくが、昔の亭主である極悪人の音吉にまとわりつかれ、子供を誘拐され、犯され、その姿をアブナ絵に描かれるという、もう散々な目に合わされてしまう。怒り心頭に発した巳代松は五連発の竹筒を作成し、音吉に五発の鉛玉をぶち込んで「ザマミロ!」
 しかし今回の話、仕置をセリ落としてから仕置するまで時間がかかり過ぎて、死神に「トラガ オコッテイル」と叱られてしまうが、これはなぜかというと巳代松がわざわざ手の込んだ五連発の竹筒なんか作ろうとしたからで、普通に仕置をしていたらおりくはアブナ絵なんて描かれずにすんでいたと思うのだが、そこいらへん、巳代松はどう思っているのだろうか。

 しかしこうやって観ていると、新仕置人は必殺特有のやるせなさ、シリアスさと、鉄の言動に代表される爽快さとコミカルさが、非常にバランス良くミックスされている感じがする。虎がバットで仕置きするシーンなんてシャレ以外の何物でもないが、それをやっても安っぽくならないのは、一本一本が丁寧に作られているからだと思う。フォーマットを破るような変則的な作劇が多いのもそのせいだろう。



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