アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

新必殺仕置人(寅之巻)

2006-01-03 21:40:43 | 必殺シリーズ
新必殺仕置人(寅之巻)   ☆☆☆☆☆

 ついに、念願の新仕置人最終回を観ることができた。感無量である。いやー生きてて良かった。

 伝説的な最終回ということで、期待はパンパンに膨れ上がっていた。あまりに膨れ上がっていたせいで、実際観たら「こんなもんか」程度になってしまうだろうな、とこっそり自分に言い聞かせていたほどだ。『新仕置人』自体もここまで観て来て、『仕置人』や『仕業人』の方が個人的には好きだな、と思っていたし、だから最終回の評判も多少割引きして考える必要があるな、と思っていた。思ってはいたが、やはり伝説的な最終回ということでどうしても期待してしまう。そういう期待と不安が入りまじった状態での鑑賞だった。

 ところがなんと、実際はその膨れ上がった期待を上回る素晴らしさだった。実を言うと、不覚にも泣いてしまったのである。私は映画やテレビでは滅多に泣かないので、これには我ながら驚いた。

 最後のディスク(第38話~第41話)は一気見だったが、40話と41話が最終回二部作という位置づけになっている。まず40話では、寅の回崩壊の序曲として死神の死が描かれる。死神はこれまで、たまにモリを使った殺しの場面がある程度だったが、今回最初で最後の主役である。仕置人のお徳と愛し合い、殺されたお徳の仇を討って自分も後を追って死ぬ、要するにそれだけの話なのだが、話の流れがすっきりしているし、これまでただ恐れられるだけだった死神のキャラクターが最大限に活かされていて感動的だ。

 いきなり最初にお徳が死んでしまうので、あれっと思ったのだが、この話は基本的にお徳が死んだ後の死神の物語である。最初に愛し合う二人を描き、その後に悲惨な展開になるという典型的な展開ではない。だから死神とお徳、二人のシーンはまったくない。しかしお徳の死の直前の行動、そしてお徳の死後の死神の行動から、この二人の絆は充分に伝わってくる。死神は姿を消し、目撃者である正八にコンタクトして犯人を突き止めると、ただちに犯人を殺す。犯人も仕置人なのだが死神の敵ではない。そして正八に頼んでお徳の亡骸を身請けしてもらい、二人だけで弔いをする。

 一方、正八が亡骸を身請けするときに巳代松の名前を使ったせいで巳代松の身が危うくなり、寅の会では寅が責任を追及される。結果、鉄達が死神を仕置する羽目になる。クライマックスは、死神がお徳の亡骸と一緒にいるはずの廃屋の外。お徳を殺した仕置人チームと鉄チームが対決、鉄チームの完勝。そして死神を殺すべく鉄チームが廃屋になだれこんだ時、彼らが見たのは床の上に並んで横たわるお徳と死神の遺体であった。正八は泣く。「死神が後追い自殺をするなんて」と鉄は笑う。正八は二人の髪を藁の船に乗せ、もう離れるんじゃないぞ、といって河に流す。

 要するに死神は犯人を殺し、お徳の遺体をもらってきて自殺するだけなのだが、そこに寅の会や鉄チームの危機が絡んできて、哀切な結末に向けて実にうまく盛り上げてくれる。

 そして最終回。いきなり巳代松が仕置の現行犯で捕まる。拷問を受け、仲間を白状しろと責められる。『仕事屋』や『仕業人』、それから『助け人』の『悲痛大解散』と似た展開だが、その後が凄い。寅の会の獅子身中の虫、辰蔵の差し金で部下の吉蔵に裏切られ、寅が殺される。度重なる拷問で巳代松が廃人になってしまう。それから一発逆転を狙って辰蔵を襲った鉄も、辰蔵の手下どもに寄ってたかって取り押さえられ、右手を焼かれて気絶してしまう。ほくそえむ辰蔵と同心の師岡。「巳代松も鉄も、もはや仕置人としては終わりだな」

 なんと巳代松に続き、あの鉄までがやられてしまうのである。壮絶過ぎる展開だ。そして最後の切り札、主水。鉄チームの三人目の仕置人、主水の存在はこれまで誰にも知られていない。この設定が、最後の最後になって恐ろしいまでに生きてくる。師岡を訪ねていく主水。「師岡様。巳代松に逃げられました」「そんな馬鹿な」辰蔵が師岡に言う。「ひょっとして、例の三人目の仕置人の仕業かも」「よし、とにかく行ってみよう」外に出て、主水と二人きりになる師岡。「……待てよ、中村、どうして私がここにいることが分かった?」「さて、どうしてですかなあ」ぎょっとして主水を見る師岡。「貴様、まさか……」

 「そう。あんたの思った通りだよ、師岡さん」

 ここからラストまでの約10分弱、これこそ必殺史上最高の殺陣とドラマが凝縮された至高の10分間である。師岡をぶった切る主水の完璧な殺陣、そしてそのまま辰蔵のアジトになだれ込み、手下数人を一瞬のうちに切り捨てるその鮮やかさ。泡を食って逃げ出す吉蔵と辰蔵。逃げ出した吉蔵を追うのは、なんと植物人間となった巳代松と、正八、おていである。巳代松を荷車に乗せ、その手に竹鉄砲を握らせ、正八が荷車を押し、おていが狙いをつける。顔をくしゃくしゃにして荷車を押す正八。鉄砲が吉蔵を仕留めたとき、正八は巳代松に抱きつく。「やったよ、松っつぁん!」
 この時点でもう涙で画面がぼやけているが、目をこすって見続ける。最後に残った辰蔵は、主水から逃げて地下へやってくる。そこには、手を焼かれて無力となったはずの鉄がいる。暗闇に浮かび上がる鉄の右手のシルエット、そこにかぶさってくるこれが最後の『仕置のテーマ』。もはや私の涙腺は決壊したダム状態。辰蔵はドスを抜いて鉄の左手、そして腹を刺す。鉄は刺されたまま辰蔵を抱え込み、焼け爛れた右手を振りかぶって最後の「骨はずし」を行う。辰蔵は死ぬ。鉄はそのままフラフラと女郎屋へ歩いて行き、蒲団の中で息絶える。

 怒涛のような感動が観る者を襲う最終回。これは伝説になるのも無理はない。テレビ番組でここまで感動したのは生まれて初めてだ。私はDVDでまとめて観たわけだが、リアルタイムで観た人は一週間に一話ずつ、何ヶ月もかけてこの最終回にたどり着くわけで、それまでにキャラクター達にたっぷり感情移入している。その果てにこれを観た時の衝撃と感動はどれほどだったか。想像にあまりある。

 かくして『新必殺仕置人』は終わり、かくして念仏の鉄は葬られた。寂しい。しかし女郎屋で目をむいたまま死んでいったあの鉄の姿は、私の脳裏に焼きついて決して消えることはない。
 


最新の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
「鉄」を演じた山崎努さんは (オタクイーン)
2006-10-30 22:01:20
私にとってはもう、特別な存在です。

今までの生涯でただ一度だけ、「鉄」の役作りに関する質問も兼ねたファンレターを送り、ご返事まで頂きました。

恐ろしく濃いご返事の内容は、以後の私の人生を決定付けてしまった程です。

過去にも、記事に何度かアップ致しました。

失礼ながらTBさせて頂きます。

またお時間あるときにでもご覧下さい。

日々記事のようなおバカの連続でお恥ずかしい限り(笑)。
返信する
羨ましい (ego_dance)
2006-11-01 10:41:51
山崎努さんの手紙の件は、貴ブログで読ませていただきました。いやほんとに羨ましいです。鉄の役作りの話なんかすごく興味深いですね。しかもそれを本人直筆の手紙で読めるなんて…。

返信する
わたくしも (masaerc)
2010-03-20 14:01:47
私も必殺シリーズで、最高傑作は、新必殺仕置人の最終回だと思っていました。見ていない人に熱く語ってもなかなか理解されないんですが…(^_^;)
初回放送は、まだ私が小学生低学年でして、その後のスカパーの再放送で、まあ、最後の主水の殺しっぷりには、大大興奮しましたよ~
DVDもあるんですね、いま、テレビ埼玉で再放送やっているので、毎日録画して、夜帰ってみるのがサイコーの楽しみです。
返信する
ですね (ego_dance)
2010-03-21 11:30:57
あの最後の主水の殺陣はすごいですね。鳥肌立ちます。私はおとなになってようやく観れたのですが、あれを子供の時に観たらとんでもないことになるんじゃないでしょうか。
熱く語りたくなるお気持ち、分かります。
返信する
Unknown (OZZY)
2015-01-13 17:12:23
素晴らしい作品、素晴らしい(仕置人らしい)最期ですよね。

触れられていないようなので、おせっかいな解説をさせていただくと、鉄が右手を焼かれた際、決して「掌」を握らなかったところに改めて注目して再見してみてください。

掌を握ってしまうと指が固まってしまって、骨外しができなくなっちゃうのです。

鉄は、最後にこの外道(辰蔵)を自分の手で仕置きするために、あと1回だけ骨外しをするために、痛みを堪えて指を握らなかったんですよ。

あー、こうして書いているだけでウルウルしてしまいます。

骨外しをできる形で焼かれてしまったために、暗闇の中で右腕がスーッと浮かび上がった時の不気味さたるや。

そして、鉄の状況を知っているからこそ、あえて声をかけずに去ってゆく主水。

唯一と言っていい、対等の盟友を失った主水は、1人生き残った罪を自覚し、それまでは「出世」のことも考えていたのに、そういう煩悩を捨て、「昼行灯」に徹することになりました。

そういう意味で、「新必殺仕置人」はシリーズ全体のターニングポイントと言えますね。



返信する
最後の骨外し (ego_dance)
2015-01-19 08:51:29
なるほど、そういえばそうですね。しばらく見返していないので、この最終回をもう一度見てみたいと思います。
返信する

コメントを投稿