アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

鬼畜

2008-09-08 21:06:38 | 
『鬼畜』 松本清張   ☆☆☆☆

 またまた松本清張。これは短編集だ。映画化作品集と銘打たれていて、要するに映画化された短篇ばかりを集めたもの。収録作品は以下の通り。

「潜在光景」
「顔」
「鬼畜」
「寒流」
「共犯者」

 『寒流』と『共犯者』は既読だった。『潜在光景』は前にレビューを書いた『影の車』の原作。『影の車』はいい映画だったので原作がどんなものか興味津々だったが、かなりあっさりした短篇だった。これはこれで悪くない。映画の方がかなりエグく引き伸ばしてある。映画では岩下志麻が演じた超美人母が、小説では普通の中年女みたいに書かれていたのが意外だった。
 「顔」は岡田茉莉子主演で映画化されているらしいが観たことはない。原作の主役は男だ。俳優で売れ出した男が、ある秘密から自分の顔が全国に知れ渡ることを恐れる、という話。どんでん返しがあってまあまあ面白い。

 『鬼畜』は名作の誉れ高い緒方拳主演の映画も観たことあるが、私にはなんだか暑苦しくて見ているのが辛い映画だった。原作は基本的に映画と同じだが、主人公の男が印刷工として身を立てていく経緯から書かれていて、映画ほど湿った感じがしない。むしろ乾いている。文章は淡々としているがゆえに凄みがあり、私は原作の方が気に入った。知らない人のために言っておくと、これは親が子供を虐待する話である。小説では最後があっさり終わっているのもいい。映画はこの後に緒方拳が子供と再会するクライマックスを用意してあり、ここぞとばかりに観客の涙を絞り取るが、原作にはその部分がまったく存在しない。親子の情念にどっぷり浸りたい人は映画の方がいいかも知れない。

 『寒流』は既読だったが、再読してもやはり面白かった。収録作の中で一番長い作品だが、会社の上司に女を取られ、かつ左遷させられ、メラメラと復讐の念を燃やす銀行員の話だ。松本清張はやっぱりこういうのがうまい。映画化されているとは知らなかったが、調べてみるとキャストが池部良、新珠三千代、平田昭彦、志村喬、宮口精二、丹波哲郎とえらく魅力的だ。ぜひ観てみたいが、残念ながらDVDは出ていないようだ。


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4 コメント

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鬼畜は (xenon)
2008-09-09 23:19:01
小説の方は読んだことがないのだけれど、緒方拳主演の映画をTVで昔みました。

岩下志麻が…
『ほら!さっさと食べなさい!』
と、本気で泣き叫ぶ子供の口に、シャモジでご飯をギュウギュウ押し込む場面が印象に残ってます。
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岩下志麻 (ego_dance)
2008-09-11 12:19:56
そうそう。あのシーンはほんとイヤですね。
岩下志麻は美人だし『影の車』なんかでは充分チャーミングなのに、こういう役ではほんとコワイです。緒方拳の父ちゃんがまた情けなくて気が滅入ります。
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緒方拳 (xenon)
2008-10-07 10:45:43
つい今し方、緒方拳さん(71歳)の訃報ニュースを知りました。
好きな俳優でしたので、とても残念で悲しいです。
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訃報 (ego_dance)
2008-10-10 12:01:38
衝撃的な訃報でした。

私は必殺シリーズが大好きで、ある意味初期必殺の顔だった緒方拳さんは特別な役者さんでした。特に『必殺必中仕事屋稼業』が忘れられません。

今週末は緒方拳さんの『必殺』を観ながら過したいと思います。
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