アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

死都ブリュージュ

2005-07-15 08:30:06 | 
『死都ブリュージュ』 ジョルジュ・ローデンバック   ☆☆☆★

 昨日読了。短いのであっという間に読めた。ブリュージュというのは、知らない人はあまりいないと思うがベルギーはフランドル地方の古都である。現在でも中世の面影を残す美しい町らしい。いつか行ってみたい。

 以下、ネタばれあり。まあストーリーを知っていたからといって楽しめなくなるような小説じゃないと思うが……。

 本書は憂愁の都ブリュージュを舞台に、淡々と展開する愛と死の物語である。ブリュージュの風景を描いた写実的な挿絵が30枚以上入っていて、雰囲気を盛り上げる。ストーリーは単純で、愛する妻を亡くした男がブリュージュに住んでいる。今でも妻の持ち物や髪の毛を宝物のように扱っている。ある日、妻とそっくりの女を町で見かける。男は女を追いかけ、彼女に溺れていくが、女は性根が卑しく、男を金づるぐらいにしか思っていない。しかし男はますます女に溺れていき、最後には妻の遺物を冒涜した女を絞め殺してしまう。呆然とたたずむ男の上に、ブリュージュの沈痛な鐘の音が鳴り響く……。

 全体に、憂愁に満ちた、沈鬱な、灰色のトーンで貫かれている。この小説の目的はブリュージュという古都の雰囲気を描き出すことであって、物語はそのための方便に過ぎない。だから展開も淡々としていて、メロドラマ臭からは免れている。結果的にこれで良かったと私は思う。こういう古風な、詩人気質の文学は嫌いじゃない。ブリュージュという古都を散策しているような気分になれる。

 美しいくせに心が卑しい女というのはリラダンの『未来のイヴ』でも重要なモチーフとして使われている。19世紀末デカダン作家お気に入りのモチーフなのかも知れない。

 ちなみにこのローデンバックという人の作品は最近読んだ『フランス幻想小説傑作集』にも入っている。『鏡の友』という短篇である。これも同じように憂愁に包まれた、象徴主義的な物語で、なかなか良かった。こういう雰囲気がこの人の持ち味なのだろう。

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