アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

墓地を見おろす家

2018-07-14 09:32:26 | 
『墓地を見おろす家』 小池真理子   ☆☆☆

 小池真理子初期のホラー小説を読了。私はグロい系のスプラッタ小説は駄目だが、初期のスティーヴン・キングみたいなモダンホラーは大好きで、時々無性に読みたくなる。しかしキングは今や昔の輝きを失い、日本の大御所・貴志祐介も最近は違う方向だ。高品質なホラー小説というのはなかなか難しい。そういうわけで、小池真理子の初期作品に手を伸ばしてみた。表紙のイラストが初期キングの装丁にちょっと似ているのも期待感をそそる。

 それにしても、なんともいやなタイトルである。直球勝負といっていいだろう。これで表紙が窓から墓地を見おろす女性の後ろ姿なのだから、どんだけベタやねんという話である。が、キングの『シャイニング』にしても『呪われた町』にしても、ホラー小説は凝りまくった世界観よりむしろベタな設定の方が面白かったりするので油断できない。本書は要するに「幽霊屋敷」系で、つまり呪われた家に引っ越してきた家族が怖い思いをする話なんだな、というのは読む前から分かる。設定としてはホラーの王道である。

 最初のページを開くと、いきなり「入居者募集!」の広告が。こういうパスティーシュ・スタイルも悪くない。本編を読み始めると、すでに引っ越しがすんだところから物語が始まる。意外とテンポがはやい。引っ越しの翌日にいきなり飼っていた小鳥が死ぬ、というのが最初のエピソードだ。なぜだろう、昨日はあんなに元気だったのに、といぶかしむ若い夫婦。来た来た、来たよ。いかにもモダンホラーなこの導入部。

 という感じで、気味の悪いエピソードや過去の因縁話みたいなものを小出しにしていく前半はなかなかうまい。ヒロインが近所の店に買い物に行ってあそこのマンションに引っ越してきたというと、意味ありげな目くばせをされたりする。まあ、あまりに王道的で想定内のエピソードが多いということと、それを力づくで膨らませるキングみたいな粘った書き込みはないので小粒感は否めないが、ストーリーテリングは手堅い。色々起きるが本当の超自然現象が起きるまでかなり引っ張るという、そのあたりのタメも悪くない。何か起きそうでなかなか起きない怖さを味わえる。

 もともと数少なかった入居者がどんどん引っ越していってしまうのも不気味だ。私はこれを自分の部屋で深夜に一人きりで読んでいたので、たまらなく怖くなった。ホラー小説を読む醍醐味である。

 しかし、だ。後半、いよいよ怪奇現象が猛威を振るい始めてからがいただけない。まず、敵があまりに万能である。もうなんでもアリ、神のレベルである。あれじゃ、主人公一家がどうあがいても無駄だし、そもそも後半に至るまで生かされていた理由も分からない。敵の意のままに、いつでも瞬時に皆殺しに出来るはずということになってしまう。興ざめである。

 それから、怪奇現象が起きた時の人間のリアクションがよろしくない。いきなり声もかれよと絶叫するパターンが多いが、まるでB級ホラー映画みたいで嘘くさい。本当に怖い時の人間の反応ってもっと色々あるはずだし、そこのリアリティがホラー作家としては腕の見せどころのはずだ。

 やっぱりホラー小説って前菜で不安を煽っているうちはいいけれども、どかんとメインディッシュを出すところが難しいんだな、ということがよく分かる。あまり荒唐無稽に飛び過ぎても白けてしまうし、かといって地味なままじゃ盛り上がらない。そのへんのさじ加減が実に難しく、そこにこそアイデアとテクニックが必要になってくる。やっぱり『シャイニング』や『呪われた町』や『ペット・セマタリー』を書いた頃のキングは偉大だった。

 というわけで、本書もそう悪くはないものの、総合すると努力賞というところだろうか。しかし解説によれば小池真理子もキングのホラー小説が好きで、またこの手の小説を書きたいと言っているそうだ。本書が初期の作であることを考えると、今書けばもっといいものが期待できる。是非がんばって、ホラー小説の名作をものにして欲しい。



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