アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

Her

2017-03-14 09:56:28 | 映画
『Her』 スパイク・ジョーンズ監督   ☆☆☆

 iTunesのレンタルで鑑賞。近未来のLAを舞台に、孤独な男とAIが恋に落ちるちょっとSF的な物語である。といってももはやAIがどんどん実用化されつつある現在、映画の中の世界は今の私たちの世界をほんのちょっと先に進めたぐらいのリアル感だ。すなわち、スマホも兼ねた小型のタブレット、音声認識、ホログラムのゲーム画面、AI制御の住居、などなど。

 主人公セオドアはbeautifulletters.comという手紙の代筆サービス会社に勤めていて、他人が愛する人々に宛てて送るさまざまな手紙の代筆をしている。この世界ではもうキーボード入力というものはなくなっているらしく、すべて音声入力である。セオドアが口述するとファンシーなフォントで文字が画面に現れる。メールをチェックする時も音声コマンド、メール内容はバーチャルなパーソナルアシスタントが読み上げる。デリートもセンドもすべて音声。しかし世の中がこういう方向へ進んでいくと、英語を書けてもネイティヴな発音が苦手な非英語圏の人間にはつらいな。

 さて、セオドアは妻のキャサリンと別居し、離婚手続き中。社交が苦手な彼は、仕事が終わればまっすぐ家に帰ってゲームで時間をつぶす毎日。性の欲求は、時々あやしげなサイトに行って見知らぬ女性とテレフォンセックスをしてまぎらわせる。なんじゃそりゃ。

 そんなセオドアがある日新発売のAI OSをインストールすると、セクシーな女性の声が「ハイ、私はサマンサよ」と語りかけてくる。ちなみにこのAIアシスタントの声はスカーレット・ヨハンソンおねいさま。セクシーなのも当然だ。そして有能で快活、知的でオタク趣味にも理解があり、どこまでも思いやり深いサマンサに惹かれていくセオドア。ある日、落ち込んでいるところをサマンサに慰められていたセオドアは彼女への愛情を告白し、そのままサマンサとテレフォンセックス(つまり声だけ)に及んでしまうのだった。なんじゃそりゃ。

 まあその後の展開はご想像にお任せするが、AIと言えば不気味さや怖さを強調した映画が多い昨今、これは人間とAIの恋愛をわりとマジメに、真正面から描いた点がユニークだ。サマンサもセオドアに愛を告白し、嫉妬し、取り乱したりもする。もちろん、AIがそれをやるということは機械学習の結果ということになるが、人間だって学習して相手を喜ばせようとするのではなかろうか。いずれにせよ、この映画ではサマンサの愛情がはっきりニセモノという扱いになっていない。ただ、人間の愛情とは根本的に違うということが終盤に判明し、セオドアにショックを与えてしまう。

 イマイチな点としては、セオドアがサマンサを好きになっていく過程にAI相手という戸惑いがあまり感じられないこと。基本的に最初から人間として扱っている。あれじゃスリルがない。それから下ネタが多過ぎる。サマンサともお互いにコクッたあといきなりバーチャルセックスをしてしまうが、あれじゃ、寂しさをまぎらわすためにエロゲーにはまってしまう奴と大して変わらないように見えてしまう。

 そういう点も含め、全体的にセオドアがいささか精神的に幼稚な人間に見えてしまったのが残念だ。人間とAIの恋愛を美しくロマンティックに描こうとする試みは悪くないが、突っ込み方が足りない。しかし、現実にこんな奴すぐ出てくるぞ。



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