アブソリュート・エゴ・レビュー

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Look Hear

2013-06-28 23:02:00 | 音楽
『Look Hear』 10cc   ☆☆☆★

 『Bloody Tourist』に続く6枚目のアルバム。前作と同じ6人メンバーで制作されている。この頃からめっきりバンドに勢いがなくなり、注目もされなくなり、もはや第一線のアーティストとは呼べなくなってしまった。まあエリックが交通事故に遭ったりと不幸なアクシデントもあったのだけれども、アルバムの内容もまた一つ華がなくなったという感じがする。

 曲は決して悪くない。相変わらずポップでメロディアスだし、コーラスワークも達者だ。アルバムジャケットもなんだかシュールで、昔の邦盤ジャケットには「Are you normal?」なんてフレーズが印刷されていたり、歌詞には社会風刺が盛り込まれていたり、10ccの「曲者バンド」「屈折したポップ・ミュージック」というイメージを裏切らない作りにはなっている。が、音楽そのもののアイデア量とウィット量が、明らかに減退してしまった。どの曲も手堅く様々な手法で作られてはいるが、かつて10ccの魅力だったあのキラキラしたアイデアのきらめきはもはや見られず、その代わり職人技で曲を作るバンドへとシフトしたことが分かる。

 おそらくこれは、ゴドレー&クレーム組が抜けてエリック&グレアム組が残った時に必然的に定められたバンドのコースだったのだ。エリック&グレアム組ももちろん才能ある作り手には違いないのだが、やはり彼らは職人だ。ウィット溢れる10ccのイメージを維持するため『愛ゆえに』『Bloody Tourist』とがんばってきたが、ゴドレー&クレーム組が得意とした自由で常識に縛られない発想は、彼らにはない。

 一方で、演奏力は以前より増している。というか、もはやバンドはアイデア不足を演奏テクニックで補うしかないのである。またエリック&グレアム組は、このアルバムで明確にそれを意図し、かつ実践したのではないかという気がする。特にキーボードのダンカン・マッケイはあちこちでプログレっぽい演奏を披露していて、「Lovers Anonymous」の中間部や「Strange Lover」の中間部ではチャーチオルガンなんぞも使って荘厳さを演出しているし、「L.A. Inflatable」でも達者なオルガンを聴かせる。この人はキャメルにいたこともあり、もともとプログレ者なのである。また「Welcome To The World」ではキーボードだけでなくグレアムのベースもがんばっていて、ちょっとフュージョン風の、かなりテクニカルなアレンジになっている。

 というわけで、楽曲のポップさキャッチーさはそのままだけれども、演奏に関してはこれまでになかったフュージョン的な、あるいはプログレ的な味わいが出ているのが本作の特徴だろう。前作にあった華やかさ、甘さが後退した代わりに職人技と手堅さをこれまで以上に感じさせる。

 と書くとまるでつまらないアルバムだと言っているように聞こえるかも知れないが、最初に書いたように曲のメロディは悪くないし、アレンジも職人的に練りこまれているので、実のところこれはこれで悪くないと思っている。4人の頃のオリジナル10ccには及ばないにしても、前作『Bloody Tourist』には充分張り合える出来ではないだろうか。一般には『Bloody Tourist』の方が人気があるようだが、私は甘ったるい『Bloody Tourist』より、この『Look Hear』を聴くことの方がむしろ多い。エリック&グレアム組の職人技を割り切って愉しむ気になりさえすれば、聴き所は色々とある一枚である。



 


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