アブソリュート・エゴ・レビュー

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愛ゆえに

2009-01-07 21:36:30 | 音楽
『愛ゆえに』 10cc   ☆☆☆★

 『How Dare You!』に続く10cc5枚目のアルバムである。前作を最後にゴドレー&クレームが抜け、エリックとグレアムの二人10ccとなったわけだが、その影響はサウンド面に如実に現れており、デビューアルバムから前作まで10ccを10ccたらしめていた過剰な実験精神がぐっと後退している。そのかわりに前面に出てきたのがメロディアスなラブソング路線である。

 とにかくシンプルなサウンド。一曲目の「Good Morning Judge」からドラム、ベース、ギターのナチュラルな響きが印象的だ。エリックの溌剌としたヴォーカルが気持ちいい。そして二曲目の「The Things We Do for Love」以降、「Marriage Bureau Rendezvous」「People in Love」とさっそく甘美なラブソングが連発される。しかしやはり多彩なコーラスが売り物だった10ccからケヴィンとロルの声が消えてしまったのは痛い。特に売り物でもあったケヴィンの美声の喪失は大きい。おなじみのキラキラしたギズモ・サウンドが聴けないのも寂しい。

 しかし『How dare you!』では実験性に傾きポップさを失っていたゴドレー&クレーム楽曲がエリック・グレアム組のポップソングに置き換わったことで、アルバム全体のキャッチーさは大幅に向上している。また10cc的なアイロニー精神やお遊びもすっかり失われてしまったわけではなく、「Modern Man Blues」「I Bought a Flat Guitar Tutor」「You've Got a Cold」などでその片鱗を見ることができる。特にどんより暗いAメロと陽気なサビの組み合わせで「彼女は行っちゃった、万歳!」と歌う「Modern Man Blues」はかなり笑える。
 それから最後の「Feel the Benefit」は10分を越える組曲で力が入っている。ジョン・レノンの「Dear Prudence」そっくりのイントロからピアノに乗せてエリックが歌うこの曲はストリングスも入ってかなり盛り上がる。この曲ではアルバムで唯一「I'm Not in Love」でおなじみの加工されたシームレス・コーラスが聴ける。

 エリックとグレアムのソングライティングのキレは相変わらずで、「10ccはおれら二人が支えてたんや! これからも二人でやったるで!」という自信と意気込みが伝わってくる。実際に曲は良く、茶目っ気もあり、決して駄作ではない。そして何といってもアルバム・ジャケットが美しい。本作が10ccのアルバムの中でもっともゴージャスで、エレガントで、美しいジャケットを持ったアルバムであることは間違いない。

 しかし、ゴドレー&クレームの脱退はこの後ボディ・ブローのようにきいてくることになる。やはりあの四人が揃ってこそのマジックだったのだ。10ccをあれほど魅力的な、特別なバンドにしていたエスプリとひらめき、そして軽やかな実験精神はこの後どんどん失われていき、もはや二度と初期の輝きを取り戻すことはないのである。


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