アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

Thinking Of You

2015-09-06 09:44:23 | 音楽
『Thinking Of You』 寺井尚子   ☆☆☆☆

 日本人の女性ジャズ・ヴァイオリニストのデビュー・アルバム。1998年発表。Amazonのレビューで好評だったのを見て前知識なく買ってみたのだが、これが良い。最近ヘヴィロテ中だ。最初聴いた時は、ヴァイオリンの音は細すぎてジャズには今一つ合わないな、と思ったのだが、何度か聴いているうちにハマッた。

 やはりヴァイオリンの音はよくも悪くも繊細である。だからホーンの激しいブロウや叩きつけるピアノみたいな、骨太な力強さを求めると物足りなく感じるが、この繊細さを生かした曲、音の中に静謐さが美しく張りつめたような曲には見事にフィットする。それに、もっとも人間の肉声に近い音を出せるというこの楽器はやはり感情表現が豊かで、すーっと伸びる音とそのかすかな震えだけの中に、万感の思いを込めることが可能なのである。まあそんなことは私が今更言うまでもなく、普段クラシックなどでヴァイオリンの音に親しんでいる人には常識だろうが、そういうところに着目して聴くと、このジャズ・アルバムにおける演奏も深みがあって、味わい深い。

 基本的にジャズ・コンボの演奏なので、楽器の構成はヴァイオリン以外にドラム、ダブルベース、ピアノである。一部ストリングス系のシンセサイザーも入っているが、ほぼすべてアコースティックで、それがこのアルバムの癒し効果を高めている。感情を慰撫するような曲が多いので「癒し系」の音楽といっていいと思うが、ただ表面的にきれいで耳あたりがいいだけではなく、音楽的な深みをもった上質な「癒し系」だ。それからヴァイオリンという楽器の内省的かつ繊細な音色のせいか、ジャズっぽさの中にもクラシカルな玲瓏たる情感があり、そのバランスがこのアルバムの魅力といえるだろう。曲の構成も、ジャズっぽいスイングする曲と、静かで抒情的な曲が交互に並べられている。

 しみじみする夕べや、ちょっとメランコリックな気分とけだるい幸福感が入り混じったような夜に聴くと最高だ。今のところこの一枚しか持っていないが、他のアルバムも入手したいと思っている。






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