崔吉城との対話

日々考えていること、感じていることを書きます。

死後結婚

2013年10月23日 04時43分28秒 | エッセイ
1999年6月11~12日韓国東海岸村の清河で行われた死霊祭。ビジュアルフォークロアの北村皆雄氏の撮影の映像作品の解説を書いている。今は亡き金石出氏がセナプで伴奏した映像、写真家金秀男氏が参加した懐かしい映像である。2005年10月4日金氏が祀られるオググッも行われて私は両方とも北村皆雄氏と同行して調査を行った。秀男氏が2006年に亡くならたりして研究者などの状況も変わった。彼とは日本語と韓国語での共著も出したが、不帰の客となって冥福を祈る心で、今私の日記と神野氏の分析ノート(写真)を参考にして書いている。私の作業遅れで年内の発行が難しくなりそうであせっている。
 1970年を前後にして調査中、朴大統領政権のセマウル運動が強化され、迷信打破政策が激しく、予定した村祭りが中断されたこともあった。その後キリスト教化などが拍車をかけ、巫俗信仰は「迷信打破」でなくなるのではないかと思ったが今では人間文化財とされ、盛況である。だと打ち明けた金氏は人間文化財として82歳で栄光なる人物としてこの世を去った。
 この映像は清河の船長として遠洋船に乗りアメリカオークランド近海で早朝4時半頃漁業中トイレへ行く途中失踪したという朴俊良氏と26才で亡くなった全賢淑氏の死後結婚の映像である。彼は真面目で、心優しい人であり、死体も探せず、会社の責任を問うこともできず、家族が認めるほどの根拠もなく、会社や船員たちの話も信用できず、大変困った状況でクツを行うことになった。したがって死者の口寄せがどうかと注目されながら進行したのである。この海岸地域では海上水死した人、特に未婚(チョンガ)の死者の魂を慰める民間信仰が強い。花嫁は1973生まれの全賢淑氏、寺の仏堂の中には位牌と写真が祀られているが、その霊を未婚で水死した船長の朴氏(1966年生)と死後結婚をさせ、極楽世界で幸せに暮らして生まれ変わるように祈る儀礼であった。
 東海岸地域にはこのような死後結婚が行われ、私は以前にも調査報告したことがある。最近は信仰より伝統文化として強く伝授されていると思ったが、東海岸別神祭の事務次長の鄭氏のFBによれば蔚山市文化財2号の別神祭が予算がなく、旧暦10月に行われる予定の物も中止になったという。彼はいう。社会が産業化され村がなくなり、別神祭が委縮されていると残念がっている。信仰を文化財として指定することに私は懸念してきた。その信仰の祭りが文化財として形骸化して変質するのは当然であろう。国粋主義的文化政策の問題かもしれない。