崔吉城との対話

日々考えていること、感じていることを書きます。

東洋経済日報にエッセイ連載

2009年03月03日 06時01分13秒 | エッセイ
 東洋経済日報にエッセイを連載するようになった。第1信として「黒人大統領」と題して次のように書いた。
                                  
 私は最近『差別を生きる在日朝鮮人』という本を上梓した。私もニューカマーのひとりとして在日の生き方に関心をもって深く考えて書いたものである。差別意識をもって隠れたり抵抗したりするような「差別に生きる」という意味ではない。私が題とした「差別を生きる」というのは差別者に焦点を当てず被差別者、つまり在日の自我egoが差別を越えて超然とし、自然な人間として肯定的、積極的な生き方をすることを意味する。しかし在日からは理解してもらえず反響も良くはなさそうである。
 私は世俗社会を悲観的に見ているが、アメリカのオバマ大統領の出現を見てそこに正義があるという大きなメッセージを受け取っている。アメリカの黒人は奴隷制や悲惨な移民の子孫である。その差別はいまだにきれいに清算されてはいない。西洋人により新大陸の発見、植民地化、奴隷制度、独立戦争の歴史の流れに、リンカーン大統領の奴隷解放、黒人差別に対するキング牧師の非暴力抵抗運動、そして黒人のオバマ氏が大統領になった。その世俗から黒人大統領が雨後の筍のように聳えて出た。私は選挙演説を聞きながら大いに拍手をした。
 私はアメリカの大統領の選挙に関して強く関心をもって演説やスピーチをゲームのように楽しんだ。今度の選挙は特に女性と黒人の候補の対決から始まった。私はそれを政策の次元を超えた大革命のような社会運動として見ていた。最終的に黒人のオバマ氏が勝利した。「私には夢がある。かつて奴隷であった者たちの子孫と、かつて奴隷主であった者たちの子孫が、兄弟として同じテーブルにつく時がくるという夢が。もしアメリカが偉大な国であるのなら、これは実現されなければならない」というキング牧師の夢"I have a dream" が叶えられたのである。私はキング牧師の演説とオバマ氏の演説をオーバーラップしていた。私はこの夢を在日朝鮮人に持たせたい。その夢は過去や祖国ではなく、未来と正義である。
 それは単に「黒人」の勝利と誤解されやすい。それは黒人が白人に勝ったという意味での勝利ではない。黒人自身との戦いの勝利であり、人種や性別を超えたアメリカ国民の勝利であろう。キング牧師は黒人自ら劣等感を問題としたことに注目すべきであろう。彼は黒人自身の意識の変化を訴えたのである。
 オバマは就任演説で次のように語った。「なぜあらゆる人種や信条の男女、子どもたちが、この立派なモールの至る所で祝典のため集えるのか。そして、なぜ60年足らず前には地元の食堂で食事することを許されなかったかもしれない父親を持つ男が今、最も神聖な宣誓を行うためにあなた方の前に立つことができるのか」
 ここで父は差別の象徴的な世俗的な存在、子はそれを乗り越えた聖なる存在としている。父子は単純な対置ではなく、父から子への変化、アメリカ社会の変化、まさにチェンジを意味する。