西尾治子 のブログ Blog Haruko Nishio:ジョルジュ・サンド George Sand

日本G・サンド研究会・仏文学/女性文学/ジェンダー研究
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東京大学コレクション『マザリナード集成』

2016年10月12日 | サンド・ビオグラフィ
東京大学コレクション『マザリナード集成』
十七世紀フランスのフロンドの乱とメディア(予告)


東京大学コレクション『マザリナード集成』は約2700点のマザリナード文書です。これは絶対王政確立の前夜、ルイ14世の未成年時代にフランスを混乱に陥れたフロンドの乱(1648-1653)の際に出版された印刷物です。「マザリナード」mazarinadeという呼称は、時の宰相マザランに由来し、初めは反マザラン文書を指していました。しかし現存する約5000種類の内容は高等法院裁決のような公文書から、国王の手紙、政治的誹謗中傷、戦況報告、パリの食糧難を嘆く詩、張り紙、建白書、果ては料理のレシピまで…。言い換えるなら、フロンドの乱のありとあらゆる発言の集合です。

マザリナード文書はフランスの歴史において貴重な第一次資料ですが、扱いの難しい資料体でもあります。なぜなら、これらの文書は敵方をあざむき、陥れるために「嘘をつく」こともあるからです。けれどもマザリナード文書の面白さはじつはそこにあるのです。歴史的証言として「内容を鵜呑みにはできない」が、これらの文書は「何を」「どのように」伝えようとしているのか…。「誰に」「どんな影響を」与えようとしているのか…。そして人々はどのように反応したのか…。フランスの内乱のさなかに「石つぶて」として飛び交った言葉――マザリナード文書――は、それ自体が行為としてフロンドの乱の一部を形成するものです。

パリのポン・ヌフを中心に本屋や行商人を介して流通したマザリナード文書は、一方で同時代人のコレクターを数多く生みました。東京大学コレクションもフロンドの乱の同時代人を含む複数のコレクターに由来します。コレクションはフランスだけでなく、イギリス、ドイツ、アメリカ、ロシア、バチカン等、世界中に見いだされますが、東京大学『マザリナード集成』のように2000点を超すものは大型コレクションに分類されます。

2008年からこのコレクションのデジタル化に着手した「マザリナード・プロジェクト」では、2011年に電子コーパス化した『マザリナード集成』をWebで公開しています。このサイトは古文書を閲覧による劣化から保護すると同時に、マザリナード文書に関する知識の集積と共有のための学術研究用プラットフォームとしても設計されており、すべての人に開かれています。
http://mazarinades.org/ (仏語・一部日本語)
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