小川 岩絵具/和紙・パネル
大竹です。今回ご紹介させて頂くのは、小川さんによる日本画です。岩絵具を用いて、夜の水辺に佇むカエルの姿を描いています。
カエルは、古くは鳥獣戯画に登場するユーモラスな姿から、河鍋暁斎のような近代絵師がその魅力に取り憑かれ、墓標にまでカエルを彫ったほど、日本人に長く親しまれてきたモチーフです。現代でも「カエルのうた」や可愛らしいイラストなど、幅広い表現の中に生き続けています。
今まで油彩で生き物や風景を題材に取り組まれてきた小川さんですが、今回はそんなカエルを日本画ならではの繊細な質感と静かな美しさを活かして描かれています。
背景の深い暗さの中には、かすかに青や紫の色味が溶け込み、静寂に包まれた水辺の空気を思わせます。その中で、鮮やかな黄緑のカエルが美しく浮かび上がり、画面に生命感とリズムを与えていますね。特にカエルの喉の袋、鳴嚢(めいのう)のふくらんだ透明感のある質感は見事で、今まさに声が響いてきそうな臨場感があり、自然の息吹を感じさせてくれます。
葉の質感もまた素晴らしく、岩絵具の粒子感と相まって、しっとりと湿った水辺の空気を感じるような味わい深い表現に仕上がっています。
この作品をじっと眺めていると、夜の水辺にひとり佇み、自然の中にひそむ小さな命の息づかいに声に耳を澄ませているような気持ちになります。日々慌ただしく過ぎていく時間の中で、ふと立ち止まりたくなるような、静かな感情を呼び起こす一枚だと思います。