goo blog サービス終了のお知らせ 

モノ作り・自分作り

東横線 元住吉 にある 絵画教室 アトリエ・ミオス の授業をご紹介します。
美術スタッフが、徒然に日記を書いています。

遊び心を映す4人組

2025-08-08 18:04:59 | 大人 日本画


児島 岩絵具/和紙・パネル

大竹です。今回ご紹介させていただくのは、児島さんの日本画作品です。
画面いっぱいに並んだ、愛らしい張り子のような人形たち。それぞれ色や表情、形(体型?)までが異なり、見比べているだけで物語が浮かんでくるようです。喜怒哀楽…ならぬ「喜・驚・楽・悩」とでも言いましょうか、個性豊かな表情が見る人をクスリと笑わせます。4体それぞれに春夏秋冬の花々が描かれており、夏の人形は首元が浴衣のような襟元になっていたり、冬の人形はマフラーを巻いた姿になっていたり(この子の表情、寒さに参っていそうで可愛らしいですね)と、細部にも作者の遊び心が光ります。

日本画は平面的な表現と相性が良く、このようなイラスト的な作風ともマッチしています。背景にはあえて筆跡を残し、和紙の上に塗り重ねた絵の具の質感が、柔らかくも豊かな奥行きを生み出しています。このざらっとした温かみは、日本画ならではの魅力のひとつですね。今作は茶色で塗られ、和の雰囲気に仕上げられていますが、児島さんの作風でしたらパステルカラーのような柔らかい色でも、ポップに映えて合いそうです。

古来より日本人は、ゆるくて愛嬌のあるキャラクターを生み出すことが得意な民族かもしれません。古墳時代の埴輪や、江戸時代の浮世絵に描かれた擬人化された動物たち、そして現代のご当地ゆるキャラまで——その系譜は脈々と続いています。見ているだけで心がほどけ、ふっと笑みがこぼれる…そんな日本的なかわいらしさと遊び心が、この作品に詰まっているように思います。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日本画特有のフラットな背景

2025-08-04 23:43:26 | 大人 日本画


菊地  岩絵具・和紙・パネル

サトルです!ワークショップや小原先生の展示など、イベント情報が続いていますが、今日は菊地さんの日本画をご紹介します。

黄土で塗られた背景と、緻密に描かれた紫陽花の対比が効いた日本画らしさを感じる作品です。無地の背景に物が描いているという構図も日本画らしいのですが、この作品を見た時に感じる、なんとも言えない懐かしさの様な感覚こそが日本画らしさなのです。

優しい雰囲気でありながら、近くで見るとその力強い描写に驚かされます。花よりも大きく描かれた葉は葉脈だけでなく表面の微妙な凹凸や色の違いまで細かく再現されており、紫陽花は花弁一つ一つのピンクから白へのグラデーション、花弁同士の複雑な重なりを誤魔化すことなくしっかりと描き切っています。

背景をフラットに塗ると難しくなるのが、モチーフが背景に馴染まなくてシールの様になってしまいがちな所です。特に、リアルな描写がしてあると更に背景とのバランスを取るのが難しくなりますが、菊地さんは背景とぶつかる紫陽花の輪郭部分を鈍い色味で描き、葉の先端や茎の輪郭などは背景に近い明るい黄色で溶け込ませる事でバランスをとりました。また、背景を完全にフラットな塗りにするのではなく、パステルなども使い一色の中に豊かな質感を生み出したおかげで紫陽花との相性が良くなったのでしょう。

物をしっかり描く事と画面全体のバランスを取る事を両立する難しさ。この作品からは菊池さんの美しい完成度と高い技術を感じました。紫陽花の季節は初夏。季節に合わせて絵を飾ることは、生活に風情を添える日本人ならではの美しい習慣ではありますが、この絵を見ていると今ほど暑くなかった頃を思い出し、きっと冬になったら夏を思い出して暖かい気持ちになるでしょう。一般的な常識にとらわれず、一年中部屋に飾っていたくなる素敵な作品です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

♬カエルの歌が…

2025-07-25 22:31:02 | 大人 日本画


小川 岩絵具/和紙・パネル

大竹です。今回ご紹介させて頂くのは、小川さんによる日本画です。岩絵具を用いて、夜の水辺に佇むカエルの姿を描いています。

カエルは、古くは鳥獣戯画に登場するユーモラスな姿から、河鍋暁斎のような近代絵師がその魅力に取り憑かれ、墓標にまでカエルを彫ったほど、日本人に長く親しまれてきたモチーフです。現代でも「カエルのうた」や可愛らしいイラストなど、幅広い表現の中に生き続けています。
今まで油彩で生き物や風景を題材に取り組まれてきた小川さんですが、今回はそんなカエルを日本画ならではの繊細な質感と静かな美しさを活かして描かれています。

背景の深い暗さの中には、かすかに青や紫の色味が溶け込み、静寂に包まれた水辺の空気を思わせます。その中で、鮮やかな黄緑のカエルが美しく浮かび上がり、画面に生命感とリズムを与えていますね。特にカエルの喉の袋、鳴嚢(めいのう)のふくらんだ透明感のある質感は見事で、今まさに声が響いてきそうな臨場感があり、自然の息吹を感じさせてくれます。
葉の質感もまた素晴らしく、岩絵具の粒子感と相まって、しっとりと湿った水辺の空気を感じるような味わい深い表現に仕上がっています。

この作品をじっと眺めていると、夜の水辺にひとり佇み、自然の中にひそむ小さな命の息づかいに声に耳を澄ませているような気持ちになります。日々慌ただしく過ぎていく時間の中で、ふと立ち止まりたくなるような、静かな感情を呼び起こす一枚だと思います。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

脇役の役割

2025-07-23 20:33:10 | 大人 日本画


髙橋 岩絵具/和紙・パネル

ナツメです。本日は水曜大人クラスより高橋さんの日本画をご紹介します!
春の庭先に一匹の猫がちょこんと佇む、和やかな風景を描かれました。

まず目に留まるのは、猫の毛並みの丁寧な表現です。黒と白の模様をした猫の柔らかな毛並みが一本一本の流れまで意識されて描かれており、実際に撫でたときの手触りまで想像できるほど。白い毛にはやわらかな光があたったような透明感があり、黒い部分はしっとりとした艶を感じさせます。日本画ならではの岩絵具のマットな質感が、猫の毛の質まで表現でき見応えがあります。

また体の丸みや姿勢のバランスも自然に捉えられており、特に顔まわりの表情にはやさしさや気品が宿っています。くるんと巻いた尻尾やそのからちょこんと覗く前足など、小さな動きの細やかな観察から、モデルとなった猫への愛情や敬意が感じられます。

そして特に注目したいのは、猫を取り囲む環境の描き方と、それをどう画面にまとめているかという構成力の部分です。背景には柵や庭の芝生、雲に桜、そして木の床と、モチーフがとても多く描かれています。制作の過程では各要素の主張の出し方に迷われている様子もありましたが、それでも決して画面がごちゃごちゃとせず、視線は自然と猫に集まっていきます。これは、それぞれの要素の存在感を調整しながら、全体のバランスを丁寧に整えていったからこそ成せること。猫を主役として見せるために、背景は描きすぎず、でも手を抜かず、しっかりと場面を成立させていることが伝わってきます。

静かで穏やかな場面でありながら、そこにあるすべての要素に意味があり、見せる順番や配置もよく練られています。描くものが多いほど画面をまとめるのは難しくなりますが、それぞれが猫という主役を引き立てるように機能しており、技術的にも感覚的にも非常に優れた視点で描かれた一枚です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

薄塗りで墨の線を活かす

2025-07-21 17:53:27 | 大人 日本画


興津  岩絵具・和紙・パネル

サトルです。今回は日曜クラスから興津さんの描かれた日本画の紹介です。

白い孔雀の凛とした佇まい、松の木の力強さ、牡丹の花の色鮮やかさ。それぞれの魅力が呼応し合い、洗礼された画面写し出しています。

興津さんは最初に墨で形を描く『骨描き』を長い時間をかけてじっくりと行っていました。細い筆を使い、孔雀の羽毛や松の葉などを一本一本丁寧に線描されており、「このまま墨絵として、岩絵具を塗らなくても良いのでは?」と思わされる程の完成度でした。特に松の葉の描写の細かさは凄まじいもので、触った時のチクチクとした感覚まで伝わる程。

絵の具を塗る際も墨の仕事を消さない様、絵の具を薄く塗り墨の線が透けて見えてくる様に仕上げられています。孔雀の白い羽毛の表現は美しいですね。地塗りの黄色が下から透けて見え、揺れ動く柔らかい羽毛の雰囲気を感じます。松の木は墨の残し加減が絶妙で、葉の表現はもちろん、うねった幹の形の表現もかっこいいですね。

興津さんは今までデッサンや油絵を描かれていたので、線だけで物を描く事をしていませんでした。今回の作品は興津さんの隠された才能を開花させた一枚だと思います。日本画を経て今後の興津さんの作品がどう変化していくのか、とても楽しみです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

冬の色を描く

2025-07-11 20:21:14 | 大人 日本画


髙橋 岩絵具/和紙・パネル

今回ご紹介するのは、髙橋さんの日本画の作品です。静かな季節の空気を感じさせてくれる冬の日本画ですね。雪の重みでゆったりと枝垂れる姿は、まるで厳しい寒さに耐え忍んでいるかのよう。

画面の左半分に重心を寄せ、右側はほぼ余白にする構図により、絵の中に空間の広がりを生み出しています。あえて全体を埋めず、余白を活かすことで日本画らしい「間」の美しさが引き立ちました。

南天の実の丸みや影を、一粒一粒丁寧に描き分け、自然な立体感が生まれました。葉の枯れ色にはグラデーションが施され、冬の植物のもつ美しさと儚さを繊細に表現されています。
主役の赤を引き立たせるように、背景には緑系の色を選び、複数の岩絵具を何度も重ねて豊かな色面を作り出した事で、奥行きや静けさが見事に演出されました。
最後に置いた降り積もる雪の白は、岩絵具の荒い粒子を活かし浮かび上がって見えます。
しんと冷えた空気が漂う冬の寂寥感を感じさせる、美しいコントラストが見事ですね。

日本画は馴染みのない画材で苦労されたかと思いますが、その分、絵具や構図に工夫を凝らしながら表現された深みのある美しさは、鑑賞者の心を引き寄せるでしょう。冬という、過酷な季節の中にある生命の色とぬくもりを、観る人にそっと手渡してくれるような一枚です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

余白の妙

2025-07-09 23:03:22 | 大人 日本画


鳥光  岩絵具/和紙・パネル

ナツメです。本日は、水曜大人クラスの鳥光さんの作品をご紹介します!画面いっぱいに描かれたアサガオの姿。鮮やかな青、くっきりとした輪郭、そして葉や蔓の伸びやかな動きが印象的です。

まず目を引くのは、中央に咲いた花。深い青の上にわずかに明るい青が重ねられ、中心の白との対比によって力強さと涼やかさが同時に感じられます。花びらのかすかなかすれや濃淡には光の揺らぎや花の柔らかさが自然ににじみ出ており、絵の具の重ね方の工夫がうかがえます。写真では伝え切れませんが、めしべや花びらを中心に岩絵具が使われており、角度を変えるときらめくのも見どころです。

また、背景の明るい黄色は補色関係にある青とのコントラストを際立たせ、画面全体の印象を引き締めています。岩絵具のマットな質感が派手になりすぎることを防ぎながらも、色同士が響き合っていて心地よい仕上がりになっています。

構図も注目ポイントのひとつ。西洋絵画のように陰影をつけて立体感を出さない分、シルエットを丁寧に追っているため余白の形も非常に整っています。この「余白を活かす」感覚は日本画ならではの特長でもありますが、実はデッサンなどの基礎においてもとても重要な考え方です。描かれていない部分も画面の構成要素のひとつと捉え、それが美しく整っているかを見極める力は、絵全体の完成度を左右します。今回の作品では花や蔓と余白とのバランスを繊細に捉えられており、描かれている部分と描かれていない部分の両方が互いに魅力を引き出しています。

花の姿だけでなく、それを取り巻く空気の澄んだ静けさや、朝の光のやわらかさまでが自然と伝わってくるようで、そっとそこにある風景を静かに差し出しているような、そんな優しさとまっすぐさが感じられます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

冬の花の佇まい

2025-07-04 18:46:27 | 大人 日本画


金澤 岩絵具/和紙・パネル

大竹です。今回ご紹介させて頂くのは、金澤さんの日本画です。こちらはクリスマスローズを描いています。

花々が画面いっぱいに広がる構成は、力強くもありながら、上品な佇まいも感じられます。中央にボリュームを集めつつ、葉の広がりでリズムが生まれており、作品全体に生命感と動きが宿っていますね。寒さに強い、冬の花らしい佇まいです。白いクリスマスローズに対して、黒地の背景が花びらを際立たせる大胆なコントラストとなっています。この色の選択により、クリスマスローズの持つ静かな強さがより明確に表現されており、日本画ならではの美しさが際立っています。周りの色をどのようにしていくかで、モチーフの雰囲気がガラリと変わっていくのも面白いところでありますね。

花びらにはわずかに黄みを帯びたクリーム色に点描のような赤が重ねられ、厚みと立体感が生まれています。岩絵具の粒子を上手く活かすことで、手触りを感じるような表現ができており、非常に見応えのある仕上がりですね。ひとつひとつの花が、形も色の入り方も微妙に異なり、それぞれの個性が感じられます。観察力と丁寧な描写力があってこそ成し得る表現ですね。

左下の判子風のサインはなんと手描き!朱色がまた画面の中でアクセントとなって全体を引き締めています。花弁の白、背景の黒、サインの朱が良い色のリズムとなりましたね。日本画は馴染みのない画材だったかと思いますが、だからこそ"描こうとする気持ち"が伝わってきます。これからも、一歩一歩を丁寧に歩むように制作を重ねていって頂ければと思います。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日本画の壁面

2025-06-30 22:38:39 | 大人 日本画

現在のアトリエの壁です。所狭しと飾りながら乾かしていた日本画は、学生クラスと、大人クラスの作品が混じっています。(差は全くありません。)すでに完成して持ち帰られた方もチラホラ…残りの方もだいぶ終わりが見えて来ました。全員分をご紹介するのをスタッフ一同、楽しみにしています!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

岩絵の具を通した、それぞれの個性

2025-06-28 22:45:19 | 大人 日本画

岩田です。本日は大学生の二人の日本画です。上の勘太郎は高校生から、下の桂吾は小学生からアトリエに通ってくれています。進学のタイミングで退会するのかと思いきや、「大学生になっても続けます!」と意欲的な二人。「ミオスが大好き!」とラブコールをもらっているようで、励みになります。


勘太郎 岩絵具/和紙・パネル

最初はこちら、勘太郎の富士山を描いた作品。サトル先生のブログで紹介されていたので、覚えていらっしゃる方も多いかもしれません。
背景に塗った錆白緑が気に入らないと、大胆にも夕焼けに塗り替えてしまいました。高校生の頃から思い切りの良い性格です。塗る前と比べると雰囲気がガラッと変わって、闇が迫りつつ、まだ残る夕焼け空。
富士山自体の色はほとんど手を加えたようには見えないのですが、妙にマッチしているのが不思議です。濃度高めの胡粉で描いた雪の白がはっきりと主張していて、陰影もとても繊細で綺麗です。


桂吾  岩絵具/和紙・パネル

次は桂吾の作品。葛飾北斎、神奈川沖浪裏を自分なりにアレンジし、堂々とした絵に仕上げました。
実際の神奈川沖浪裏も良いけど、夜の神奈川沖浪裏を舞台にでっかい月と鯨を描き入れるなんていうのは、本当にこの人、一味も二味も違うことをやってくれます。あまりにも大胆で、力強く、生命力に満ちたこの絵。
正直、岩絵の具の扱いを見ると、お世辞にも上手いとは言えないものの、もうそんなことはどうでも良いくらい、はっきりと僕はこう描きたいという意志を感じさせてくれるのです。ただ、もう少し月と空が自然なグラデーションになっていたら、もっとカッコよくなったかなーとは思います。

そんなこんなで、二人ともそれぞれ全く違う個性が打ち出されていて、楽しませてもらいました!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

間(ま)に咲く花

2025-06-27 20:55:27 | 大人 日本画


室橋 岩絵具/和紙・パネル


大竹です。今回ご紹介させて頂くのは、室橋さんの日本画です。

花札にも描かれている紫の菖蒲(しょうぶ)。日本の風景や季節感を象徴する花ですが、こちら作品では凛と咲くその姿が実に丁寧に、そして品よく描かれています。岩絵具ならではのマットで深い色合いがピッタリのモチーフですね。

菖蒲の花びら1枚1枚に、生命を宿らせるようなやわらかさが感じられます。紫と黄色という補色関係にある花と背景の色づかいも見事で、辛子色の背景が、画面全体に落ち着いた和の雰囲気を生み出しています。色の対比はありながらも決して騒がしくなく、むしろ花の気品がより引き立つ構成となっています。
花は画面中央よりやや左寄りに配置されており、左側に広がる余白が、まるで風が吹き抜けたあとの静けさのような余韻を感じさせてくれます。この「間」の美しさこそ、日本画ならではの魅力なのでしょう。右方向に向かって葉が自然に流れていることで、構図に動きと調和が生まれ、見る人の視線が心地よく誘導されていきます。背景の縦方向の筆の流れも、菖蒲のすっと伸びた姿と美しく呼応しており、美しい一枚です。所々に白い縦線が入っているのも、雨が降っている様にも見えて面白いですね!

ぜひ、素材の特性と作家のまなざし、その両方に注目して味わっていただきたい作品です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

川のせせらぎ、感じる風

2025-06-26 22:58:09 | 大人 日本画


矢作 岩絵具/和紙・パネル

お久しぶりです、マユカです!今回は矢作さんの日本画をご紹介していきたいと思います。

美しく咲き誇る満開の桜。深く暗い青と薄桃の繊細な花弁とのコントラストが見事です。ミオスの近くに流れている渋川沿いに咲く住吉桜を写真に撮って来られ、制作されました。この川の流れの深さや水面の揺らぎを表現するまでに、何度、何色、下地として水干を重ねたでしょうか?青の奥に覗く翡翠色や、ほんのりと見える暖色が青の調子を変え単調にならないように仕上げられています。矢作さんが毎年見続けたその美しさを、岩絵具でしたためました。

その下地が吸い込まれるような色の重なりを持っているので、手前の凛とした花がはっきりと浮かび上がってきています。一方向へ揃えられた筆跡が細かく描かれた桜を邪魔せず、とても見やすくなっている上、宙を舞う花弁や、所々に散りばめられたまだ開いていないつぼみや葉の緑が絵にランダム性を加えて躍動感を感じる構図になっており自然な様相を写し取って表現されています。また、写真では分かり辛いですが、最後にパールの岩絵具を使い、角度によって上品に輝く美しい絵となりました。

日本画の優しい色の重なりは、こういった自然な風景とよく合いますね。岩絵具の良さを存分に発揮された作品になっていると感じます。角度や日時(日差しなど)によって画面の見え方も変わってくるかと思いますので、是非お部屋の中に飾ってその見え方の変化を確かめてみてくださいね!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

満開の春

2025-06-25 22:13:40 | 大人 日本画


原 岩絵具/和紙・パネル

ナツメです。続々と大人クラスの日本画も仕上がって来ておりますが、その中から本日は原さんの作品をご紹介します!

春のやわらかな光に包まれた桜の木を描かれました。画面を見つめていると、そこに風が吹き、淡い花びらがふわりと舞い上がりそうな気さえしてきます。白、桃色、薄紫、柔らかな黄緑など、淡く控えめな色彩が幾層にも重ねられ、光そのものが絵の中に溶け込んでいるかのようです。まるで夢の中の風景のような、幻想的な空気をまとった一枚になりました。

まず水干絵具で全体の色調を整え、その上から岩絵具を重ねていくという工程で描かれています。水干は絵具として扱いやすく、大きな面での色の設計に適しているのに対し、岩絵具は粒子が粗く、光を受けるとキラキラと反射する独特の存在感を持っています。そのため、色をただ塗るのではなく、「どう見せたいか」によって絵具を選び、重ねる順序を考える必要があります。制作中は色の選び方や塗り重ねの順序に悩む場面も多く、一つの色を塗っては色が変わるまで乾かして離れて眺め、また重ねる……という根気のいる作業の繰り返しでしたが、細やかな観察と試行錯誤を積み重ねた結果、非常に深みのある色合いが生まれました。

花の部分にはほんのりと岩絵具が加えられ、画面全体に春の陽射しが降り注ぐような明るさときらめきが感じられます。また、幹や枝の表現は最小限にとどめつつも、筆の動きには芯があり、木としての構造を自然に感じ取れるようなバランスがお見事。花びらや葉の形を明確に描きすぎず、あえて余白やにじみ、かすれなどを活かすことで、観る人の想像を誘うような柔らかな印象を与えることができました。

日常の中でふと目にする季節の風景も、画材や手法を変えて向き合うことでこんなにも繊細で新鮮な表情を見せてくれるのだと改めて気付かされます。ひとつひとつの色を丁寧に重ねる中で、見慣れた桜の木が、少し特別な景色として立ち上がってきたようでした。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アゲンストをはねのけて

2025-06-14 23:37:25 | 大人 日本画


置田 岩絵具/和紙・パネル

岩田です。小学生のパワフルな日本画紹介が続いていますが、本日は大人クラスの日本画の作品です。期間限定、大人クラス、学生クラスで日本画を描く方々の作品100枚以上が壁を席巻し、実に様々な画風があって、いつも面白く拝見しています。今回は、先陣を切って完成に至った置田さんの日本画をご紹介します。

皆さんもここにきて、アトリエにある日本画の作家達の図録を見て、油絵同様、本当に多種多様なアプローチがあることに驚いているかもしれません。私の作品を所蔵して頂いている信濃町にある佐藤美術館は、国立、私立問わず日本画の学生へ積極的に奨学金の支援をしている国内でも数少ない美術館ですが、しばしば開催される学生達の作品を見ても、日本画界に若い世代が常に新しい息吹を吹き込んでいることが分かります。今回、日本画というジャンルに興味を持った方々も、時々訪れてみると如何でしょう。

さて、置田さんのモチーフは女性像ですが、これまで一貫して人物画を描き続けていらっしゃいます。ぜひこちらの油彩もご覧ください。今回は、和服を着てかんざしに手をやるクラシカルな日本女性の姿を描きました。
鉱物やガラスの粒子を膠に溶き、絵の具として描く日本画。聡先生曰く「日本画で最も難しいのは美人画です。」とのこと。前述したように、水彩や油彩の絵の具のような粉体の顔料と比べ、粒子が荒いので、ムラになり易く、均一に塗ったり、グラデーションを作ることが難しく、きめ細やかな女性の肌を描きずらいというのがその理由のようです。

とはいえ、置田さん、そうしたアゲンストの状況をはねのけ、何度も塗り直しを重ね、何とか頑張ってムラのない美しい肌を描こうと奮闘しました。光を受けているところと影の色を繊細に塗分けるのは、さぞ困難を極めたことでしょう。また細い線で目鼻を描く事も練習を重ねました。線は最終的に黒では強すぎる為こげ茶にするなど工夫を重ねこの繊細な表現に行きつきました。着物の微妙な濃淡も美しく描かれていますね。

岩絵の具や水干絵の具を使って描く独特な技法に慣れない中で、ここまで描き上げたこと、それだけで立派です。今回の貴重な経験が、他の画材を扱う際にも、何かしらのプラスの影響を与えることができたら良いなぁと感じます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日本画講座2【胡粉の使い方】

2025-06-10 13:20:06 | 大人 日本画

サトルです!日本画講座第二弾【胡粉の使い方】今回は胡粉を使った描き方を何種類か紹介します。第一弾【描き出し編】はこちら 

①盛り上げ塗り

その名の通り胡粉を厚く盛り上げる様に塗る方法です。ムラなく綺麗に塗れる事が特徴で、絵具の厚みを出す事が出来ます。
筆にたっぷりと胡粉を染み込ませ、塗りたい部分にドロッと垂らします。この時、筆跡が残らないくらい分厚くなる様に垂らしてください。最後に紙ヤスリで磨いて表面の肌理(きめ)を整えるのがおすすめです。

②混色

胡粉と水干絵具は混ぜる事が出来ます。左・人物の肌の部分のように、同じ皿に粉を出して完全に混色してから使う方法が一つ。
別々に膠と混ぜて置いて、パレットの様に混ぜながら塗ることも出来ます。また、画面上で乾かないうちに様々な色を重ねて複雑な質感を作ることも出来ます。右・桜は両方のやり方を混合しています。

③薄塗り 

盛り上げ塗りと逆で、水で薄めた胡粉で霧の様に淡く塗る方法です。単純に薄く塗るだけですが、左・風景画のように霧の様な空気感が出せるので魅力的です。水を敷いてから胡粉を塗るとキワがぼけて霧の様に出来ます。
右・紫陽花は、下地に塗っておいた暗い色を活かし、胡粉をたっぷり塗った所は上部ハイライト、下部の影の部分は水で薄めた胡粉を使い、白黒でデッサンしたようなボリューム感を出しています。

一つ注意したいのが、膠の量です。薄める時には水を多用します。膠を多く入れ薄めようとすると、光沢が出てしまいますので注意しましょう。

④厚塗り

濃いめの胡粉で筆跡を生かして描くことです。左・富士山の雪の表現や、右・鯉の動きを出すのにぴったりですね。しっかりとした表現が出来ますので、主役のモチーフに最適です。この塗り方は他の画材と使い方が一緒なので、最も馴染みのある方法だと思います。
また、胡粉に限らず濃いめの絵具を、紙パレットなどに大まか・大胆に置き、デカルコマニ―のようにパネルを押し付け偶然の下地を作るスタンピングなども可能です。

 

今回紹介した技法以外にも沢山の胡粉の使い方があります。これらはあくまでもメジャーな使い方ですので、これ以外の描き方をしても全く問題ありません。自分のイメージした雰囲気にならない時に参考にする程度で丁度良いと思います。

日本画も完成に近づいている人が多くなって来ました。作品が完成すると達成感もありますが、同時に少し寂しい気分になります。楽しく描いている作品ほどその気持ちは大きく、いつまでも描いていたくなります。しかし完成させるためにはどこかで区切りを付けなくてはならないのは、辛いことだなぁと、しみじみ思います。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする