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モノ作り・自分作り

東横線 元住吉 にある 絵画教室 アトリエ・ミオス の授業をご紹介します。
美術スタッフが、徒然に日記を書いています。

日本画講座2【胡粉の使い方】

2025-06-10 13:20:06 | 大人 日本画

サトルです!日本画講座第二弾【胡粉の使い方】今回は胡粉を使った描き方を何種類か紹介します。第一弾【描き出し編】はこちら 

①盛り上げ塗り

その名の通り胡粉を厚く盛り上げる様に塗る方法です。ムラなく綺麗に塗れる事が特徴で、絵具の厚みを出す事が出来ます。
筆にたっぷりと胡粉を染み込ませ、塗りたい部分にドロッと垂らします。この時、筆跡が残らないくらい分厚くなる様に垂らしてください。最後に紙ヤスリで磨いて表面の肌理(きめ)を整えるのがおすすめです。

②混色

胡粉と水干絵具は混ぜる事が出来ます。左・人物の肌の部分のように、同じ皿に粉を出して完全に混色してから使う方法が一つ。
別々に膠と混ぜて置いて、パレットの様に混ぜながら塗ることも出来ます。また、画面上で乾かないうちに様々な色を重ねて複雑な質感を作ることも出来ます。右・桜は両方のやり方を混合しています。

③薄塗り 

盛り上げ塗りと逆で、水で薄めた胡粉で霧の様に淡く塗る方法です。単純に薄く塗るだけですが、左・風景画のように霧の様な空気感が出せるので魅力的です。水を敷いてから胡粉を塗るとキワがぼけて霧の様に出来ます。
右・紫陽花は、下地に塗っておいた暗い色を活かし、胡粉をたっぷり塗った所は上部ハイライト、下部の影の部分は水で薄めた胡粉を使い、白黒でデッサンしたようなボリューム感を出しています。

一つ注意したいのが、膠の量です。薄める時には水を多用します。膠を多く入れ薄めようとすると、光沢が出てしまいますので注意しましょう。

④厚塗り

濃いめの胡粉で筆跡を生かして描くことです。左・富士山の雪の表現や、右・鯉の動きを出すのにぴったりですね。しっかりとした表現が出来ますので、主役のモチーフに最適です。この塗り方は他の画材と使い方が一緒なので、最も馴染みのある方法だと思います。
また、胡粉に限らず濃いめの絵具を、紙パレットなどに大まか・大胆に置き、デカルコマニ―のようにパネルを押し付け偶然の下地を作るスタンピングなども可能です。

 

今回紹介した技法以外にも沢山の胡粉の使い方があります。これらはあくまでもメジャーな使い方ですので、これ以外の描き方をしても全く問題ありません。自分のイメージした雰囲気にならない時に参考にする程度で丁度良いと思います。

日本画も完成に近づいている人が多くなって来ました。作品が完成すると達成感もありますが、同時に少し寂しい気分になります。楽しく描いている作品ほどその気持ちは大きく、いつまでも描いていたくなります。しかし完成させるためにはどこかで区切りを付けなくてはならないのは、辛いことだなぁと、しみじみ思います。

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日本画講座【描き出し編】

2025-05-30 20:56:10 | 大人 日本画

サトルです。学生・大人クラスは希望者のみ日本画を制作しているのですが、まさかこんなに沢山の方に日本画を描いて頂けるとは思っていませんでした!(壁面に掛けてある描き途中の日本画を数えたら100人程でした!)感激です!ということで今回は日本画講座【描き出し編】です!

まず最初にパネルに和紙を貼りましょう。やり方は普通の水貼り(小原先生の水貼り動画↑はこちら)と基本的には変わらないのですが、日本画では「袋張り」という和紙の張り方をします。水貼りテープを使わず、パネルの側面に糊を塗り、そこに直接和紙を貼り付ける張り方ですね。パネルの側面まで和紙が見える様になって格好いいのと、固着力が強すぎないので絵の具を厚く塗ったりした時に紙が縮むのに合わせて動いてくれます。ミオスでは澱粉糊(でんぷんのり)で貼りましたが、日本画家は生麩糊(しょうふのり)を使います。


墨で骨描き+薄墨濃淡

パネルに和紙が貼れたら、まずは墨でデッサンをしましょう。墨で線を描くことを骨描き(こつがき)と言い、墨でトーンを乗せることを隈取(くまどり)と言います。現代では油絵の様に厚く岩絵具を塗るのが主流なので、骨描きの線は残らないのですが、昭和初期頃までは絵具を薄く塗り墨の濃淡を生かして形や質感を表現していました。


刷毛で地塗り

骨描きと隈取が終わったら次は地塗りです。地塗りで使うのは岩絵具では無く、水干絵具を使います。水干絵具とは胡粉などを染めて作られる絵具で、染めて作られているので色の種類が多く、さらには混色することも出来る便利な絵具です。水干を細かく砕き、膠を数滴入れ、ダマが無くなるまで混ぜます。水を少しずつ加えながらさらに混ぜていき、好みの濃さまで薄めてください。刷毛にたっぷり染み込ませて丁寧に塗り、乾く前に濡れていない乾いた刷毛で軽く撫でるとムラが無くなります。薄く塗って骨描きを透かせたい時は一度画面に水を引いておくと絵具が乾きにくくなって薄く引き伸ばしやすくなります。


背景もしくは下地作り

日本画は伝統的な描き方を重んじますが、時代を重ねる度に「日本画」というジャンルは広がって来ました。地塗りの後、骨描きの線通りに丁寧に塗っていく人もいれば、油絵の様に大胆なベースを塗って描いていく人もいます。ここから先の描き方は皆さんが今まで描いてきた作品の様に自由に描きましょう。

とはいえ岩絵具の使い方は細かい違いはありますがほぼ共通しています。水干絵具の解説で少し書きましたが、岩絵具は膠(動物性の骨などから取れるゼラチン)を混ぜることで粘着性を出し、紙に定着させます。膠は固形のものと液体のものがあり、固形の物は一晩水につけてもどしてから湯煎して溶かして使います。それを水で薄めて使いますが、膠の種類によって適切な濃さが違うため、使う際にいちいち調べないといけないので大変です。また、冷蔵庫に保管しても1週間ほどしかもたず腐ってしまうので、作り置きができません。


ミオスの岩絵具(今回大人・学生100人+小学生130人が制作したので、写真の岩絵具以外の水干をかなり買い足しました)

岩絵具は名前の通り岩を砕いて作られた絵具です。元は天然の素材のみで作られていて、とても少ない種類の色しかありませんでした。戦後、人工的に色付きの石やガラスを作るのとで色の数が大幅に増え、日本画材店にいくと棚一面に絵具が置いてあります。混色する事ができない絵具なので、細かい色の違いを出したい時、いちいち絵具を買い足して使い分けないと行けないので、とてもお金がかかります……涙。

長くなりましたがまだまだ日本画のことは語り尽くせません。沢山書きたいことがありますが今回はここまでです。また次回のブログで続きを解説させて頂きますので是非ご覧ください!

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威風堂々

2023-07-19 23:56:55 | 大人 日本画


坂本 金箔・胡粉ジェッソ・アクリル

ナツメです。本日は月曜大人クラスの坂本さんの作品をご紹介します!狩野永徳の唐獅子図屏風の獅子を金箔画でアクリル絵の具を用い描かれました。

当時獅子は権力の象徴として扱われていたのですが、目の力強さや険し表情からその堂々とした威厳のある様子が伝わってきますね。残念ながら写真では見えませんが毛の部分には銀色の絵の具も使用しており、金箔と同様見る人の角度によって反射が変わって煌めく様子からは架空の生物の神秘的な雰囲気さえ感じます。

実物の屏風は20mを超えるほど大きなものなのですが、こちらの作品はB5にも満たないサイズで制作されたため足や細い毛などの細かい部分の表現がかなり難しかったのではないでしょうか。アクリルガッシュで描画しているため上からの塗り直しがきくとは言え流動的で強弱のある線がこの作品の魅力の一つなので、その勢いが失われないように描くというのもポイントでしたが、試行錯誤の末非常に良く表現されました。まるで屏風に描かれたばかりのように少し模様の彩度が高く描かれていることで、青と黄色の補色対比が際立ち目を引きますね。こちらも水を多く使いやわらかなグラデーションを作った上にさらに絵の具を乗せています。

名画などを元にした作品はどんな風に描かれたのかの追体験ができるだけに留まらず、作品に鑑賞した際のフィルターがかかるため見る側も作者の目線を借りたような感覚が強くなるのが特徴だと思います。逆に言えばその絵のどこに魅力を感じたのか、何が素敵な作品だと思うのかという自分の感覚を分析することが、模写をする上での第一歩と言えるでしょう。

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静かに咲く

2023-06-14 23:02:42 | 大人 日本画


穴田 銀箔・胡粉ジェッソ・不透明水彩/黒ボード

湿気で髪がうねりまくりです、ナツメです。今回は大人クラスの穴田さんの銀箔画をご紹介します!

春先に紹介した小学生&学生の銀箔画では赤い椿やサザンをモチーフにしていましたが、今回は水墨画のように墨汁で描いたような仕上がりにしたいとのことでモノトーンで花を描かれました。銀箔の鈍い反射も相まって落ち着きのある上品な空気感が魅力的ですね!絵の具を水で薄めて濃淡で描いたのではなく不透明水彩で全ての箇所に色を乗せているのですが、花弁の端は明るく塗り、中心に向かって暗さを足すことで墨汁で描いたような淡い透明感や花びらの薄さが現れています。色数を絞った分花びらのグラデーションや葉よりほんの少し明るい色の葉脈など僅かな明度の差を繊細に扱っており、下の板と銀箔を含めても狭い色相の中で単調にならない工夫がされています。

ここまで彩度が落ちると馴染みのない花に見えるからでしょうか、今回は日本の花である椿がモチーフなのにも関わらずどこか西洋チックな雰囲気も感じられるような気もしてきて、色の違いでここまで印象が変わるのかと驚くばかりです。

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開花宣言

2023-02-28 20:05:54 | 大人 日本画


大坪 金箔・アクリル/水貼りしたパネル

いつもよりたった23日短いだけであっという間に2月も最後の日でした、ホノカです。
今回のブログでは大坪さんの金箔画をご紹介します。

作品の中では見ごろの桜が咲きほこり、これからの春を感じさせてくれる暖かみがあります。こちらはパネルに画用紙を水張りした後に、金箔を全面に貼り、その上にアクリルで花を描きました。
空の色が透けているような花びらの色合いがとても綺麗です。一般的に桜からイメージできる薄桃や白といった色だけでなく、紫や水色などの寒色系の色があることで、明度の高い色の中にも影が生まれ花びらの丸い立体感を感じられます。
桜の繊細さがなかなか出ずに何度も描き直されていましたが、その調整の甲斐あって実際に見た時に、花びら一枚一枚がその薄い触り心地を思い出せるくらいでした。

また、中心の花粉部分に濃い赤系の色が入ることで主張の強い金を抑えているように思います。写真からも分かるように、箔は生で見ると光を強く反射して非常に主張が強く感じます。そのため、近づいて描いていても、途中で鑑賞する距離まで離れて見てあげることで、完成した際にせっかく描いたモチーフが埋もれてしまうことを防げます。
大坪さんもこちらを描かれている時はこまめに壁に作品をかけて、全体のバランスを確認されていたことが印象に残っています。この確認があったことで、金が派手な主張をするのでは無く、上品な輝きとして作品を引き立てています。
そして写真では見えづらくなっていますが、サインもご自身でデザインされたもので仕上げています。日本画風な作品に合わせて、はんこの様に四角に納めたサインは大坪さんの丁寧なこだわりを感じます。

この作品はお知り合いの方の新築祝いに、額装してプレゼントされるとのこと。季節もちょうど桜の時期が近づいてきています。飾られた時には素敵な春の息吹が吹き込みそうです。

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水辺に佇むカワセミ

2022-07-07 20:33:13 | 大人 日本画


穴田   岩絵具・胡粉・顔彩・透明水彩/パネルに和紙

ここ最近、アイスを食べる手が止まらないマユカです。今回は穴田さんの日本画をご紹介致します。

カワセミの鮮やかな色合いがとても素敵なこちらの一枚。背景の色数を抑え、淡い色合いにすることでその鮮やかさを一層引き立て、視線が自然とカワセミに向くようになっています。空飛ぶ宝石とも呼ばれるカワセミ特有の羽毛の質感を、ブルーとヒスイ色のグラデーションで表現しており、光が当たってきらきらと光っているようです。枝の先に立って水面をじっと見つめているその姿は、餌になる魚を探しているのでしょうか。小さくてかわいい見た目をしていても、餌を捕らえる時は立派なハンター、こころなしか表情もキリっとして見えてきませんか?

今回、なるべく少ない手数で仕上げられるよう、ベースの下塗りは、和紙の質感を活かした薄塗で、オーカー系(黄土色)の色を全体に塗りました。水干をベースに、胡粉・顔彩・透明水彩を重ねるだけでも、こんなに『日本画』になってしまいます。日本画だからと言って、ガッツリと粗い岩絵具を使わなくても良いのです。敷居が高いと思われがちな日本画にチャレンジする人が増えそうな作品ですね。皆さんも日本画が描きたくなってきたのではないでしょうか。

背景の色彩と構成は、主役を見せるための大切な脇役です。穴田さんが描かれたような美しく整理された背景は、主役をわかりやすくするだけでなく、魅力も引き出してくれます。皆さんも背景の整理整頓に挑戦してみてください!

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きらめき、輝き

2022-07-06 23:11:37 | 大人 日本画


坂本  岩絵具・顔彩・パール/パネルに和紙

毎晩エアコンの稼働具合(?)に悩んでいます、ナツメです。今日は月曜大人クラスの坂本さんの日本画をご紹介します!

ふわっと広がる花びらが幻想的な作品。石の濡れた部分が濃い色になるように、岩絵具は画材の中でも特に乾く前と乾いた後の色の差が激しく扱いが難しく、葉の色のイメージが少し違ったから直します、などと坂本さんもその都度何度も根気強く修正を繰り返し描かれました。その甲斐あって、疎密の関係や花と背景のコントラストなど、構図から色の関係までを隅々までよく考えられて描かれた作品なのが伝わってきます!表現の面では、一枚一枚の花びらの薄さや、特有の柔らかい形が繊細に描かれています。周囲の葉の描写を最低限に留め、花の方で情報量に差をつけているため、白〜ピンクの柔らかい色の変化や質感の書き込みが引き立っています。

パールを花びらの部分に全面的に使っているので、写真の様に真正面から見ると白く見えるのですが少し角度を変えると光が反射して綺麗に輝くようになっています!マットで落ち着きのある岩絵具のテクスチャの中にパールがきらめいている様子が、描画した部分だけでなく質感の面でもさりげなく華やかさを出しています。また、実は葉脈も金色なのですが、パールの光沢と質感が合っているため花が開くような中央から外へと伸びていく流れが作られていて、空気の広がりまで感じさせます。坂本さんご本人は「白だと思って使ってみたら光沢の出る絵の具で意外でした」と仰っていたのですが、画角によって変わる表情を楽しめる醍醐味がありますね!ぜひ通路の壁など、目線が変わるような場所へ飾って下さいね!

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二つの武器の使い方

2022-06-22 23:51:44 | 大人 日本画


馬込  岩絵具・顔彩/パネルに和紙

行きたい展覧会や観たい映画が沢山あるのに肝心の時間がないです、ナツメです。今日は月曜大人クラスの馬込さんの作品をご紹介します!今回は2枚の日本画を制作されました。

まず左の作品。構成が非常に面白く、兎を渦巻く波の下には真上から見た亀甲模様が描かれています。

兎、波、亀と聞くと「因幡の白兎」や「うさぎとかめ」などの物語が連想されますが、まさに物語のように背景が気になってくる一枚です。甲羅の模様や兎の毛並みの線を墨で描くという平面的な描写をされているのですが、間に青色で濃淡をつけた波を挟むことでレイヤーのような階層構造になりました。渦の流れも相まって、観ていると奥へ奥へとまるで海の下に引き込まれていくような気分になります。普段パワフルな油絵を描かれる馬込さんですが、この絵にもそんな力強さが表れているように感じます。

 

そして右の作品。左の作品とは打って変わって、今度は写実的に描かれました。めいいっぱい目を上に伸ばしているカタツムリが可愛らしいですね!こんな風景を丁度梅雨のこの時期に見かけることが出来そうです。

淡い色合いの背景の滲みの使い方が非常に効果的で、境界も曖昧になるほど色が広がり重なり合っているため、雨上がりのような明るく湿度のある印象を受けます。また、全体としては明度の同じパステルカラーなのですが、左下に少し暗く彩度も高い青を置くことで左下から右上への視線誘導までされています、素晴らしい!カタツムリも殻の硬くて凸凹のある質感や体が少し透けている様子など、「リアルすぎて若干気持ち悪い」とまでは行かない一歩手前のところで高い観察力で緻密に描写しています。

本当に同じ人が描いたんだろうか?と思ってしまうほど表現の振り幅が大きい2枚ですが、見事に画面に合わせて強さと繊細さの二つの力を使いこなしているのは、馬込さんの成せる技です。どちらも武器に、今後の作品にも使い分けて下さいね!

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寄り添う2匹

2022-06-01 22:32:34 | 大人 日本画


藤原 岩絵具・墨/パネルに和紙

いつのまにか上半期も終わりに差し掛かっていて驚愕しています、ナツメです。今日は月曜大人クラスの藤原さんの日本画をご紹介します!

どこか遠くを見つめる2匹の虎。仲良く寄り添って、心を許した仲間にしか見せないような寛いでいる表情にほっこりしてしまいますね。藤原さんご本人が寅年の双子ということで、この絵を描かれたそうです!

粒子の荒い岩絵具を使い紙に盛るようにして塗っているため、下の色が粒子の隙間から少し覗き、絵具の厚みも相まって立体的な表現になっています。日本画ならではのマチエールを虎の毛並みに合わせて。素敵な毛並みについ目が行ってしまいますが、しっとりとした鼻の質感や耳の厚みなど、触れてみたくなるほど描き込まれた細部も素晴らしいです。

そしてこの作品に特徴的なのは、手前と奥でほとんど描き方に差をつけていないところです。虎同士の境界となる部分には強めに明度差をつけていますが、色やタッチでの遠近感の表現は最低限に留めてあるため、パッとこの絵を見た時に2匹が同時に目に飛び込んできます。この光景を選ばれた経緯からも、おそらく藤原さんは「虎のいる風景」ではなく、「2匹の虎」に意識を向けて描かれたのでしょう。デッサンを終えられてはじめての制作だとは思えないほど意図に沿った表現の選択ができています!

一枚の写真を元に描くと言っても、何を意識するか、どこに重きを置くのかによって完成する絵は大きく変わってきます。皆さんも何かを描きたい!と思った時にそのモチーフや写真の何が描きたいのかを1度考えてみると、最終的により魅力的な作品になりますよ!

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描いていないのに…

2022-03-22 23:45:42 | 大人 日本画


杉本 岩絵具・銀箔・金箔/パネルに和紙

花粉症マジ最悪です、一平です!本日は水曜クラスの杉本さんの日本画をご紹介します。

猛々しく咆哮する虎の表情を切り取ったこちらの一枚、初日本画とは思えないくらい自在に画材を操っていますね。瞳の金箔と牙の銀箔もいやらしくなく使われているので非常に上品でありながら野生の力強さも感じられて素晴らしいです!普通の黄色い虎ではなく、青い虎として描いているのも中国神話に登場する神獣のような特別感を演出しています。そして画面の中ではほとんど顔だけを描写していますが、絵を見ている人に絵の外側にきちんと虎の身体をイメージさせる確かなデッサン力の高さを感じます。実はこれはかなり難しい事なのです。

動物でも人間でも顔だけ描いて!と言われると意外と皆さん描けたりするものですが身体を描くとなると腕が不自然な長さだったりおかしな方向に関節が曲がっていたり、急に難易度が上がります。なので身体が描きたくないから顔だけ大きく描いて絵力を保たせよう、という人がたまにいますが(勿論それも作戦の一つですので悪いことでも何でもありませんよ!)そういった方は表情は感じられるけれども中々画面外の身体を感じない、という事が多いのです。ですが杉本さんのこちらの虎も大胆に身体をカットしている構図なのに、描いていないはずの身体を感じるのです!僕の勝手なイメージでは、前足で踏ん張って少し低姿勢になっていて今から獲物に飛びかかろうとしているような、身体だけでなくそんな場面まで絵を見ていると感じます。もう一度言いますが、描いていないのに、です。人間の脳とはなんとも不思議ですが、ここまで脳みそに想像させているのは杉本さんのデッサン力の高さがあってこそ!こんなにも繊細に虎の模様や毛の流れを表現しているのに、ちゃんと立体感を感じますよね。瞳もただ金箔を貼っただけでなく、瞼に近くなるにつれて暗くなっている。舌などの口内を暗めにすることでヒゲの明るさと銀色の牙の鋭さがより際立ちます。そういった細かい気遣いが後々絵に大きな影響を与えるのです!そろそろ皆さんも画面外に描いていないはずの身体が見えてきましたか?

最終的にとても縁起が良さそうな作品に仕上がったので、寅年の時だけとは言わず来年以降も是非ご自宅に飾って欲しいですね、家宝確定!

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夜闇の中で

2022-02-02 22:23:59 | 大人 日本画


井口 岩絵具・銀箔・金箔/パネルに和紙

最近静電気に悩まされています、ナツメです。今回は学生クラスの井口さんの作品をご紹介します!

月に照らされる蝶と彼岸花の日本画で月には銀箔を、蝶の鱗粉にも金箔を散らして表現しています。まず目に飛び込んでくるのは眩しい満月ですが、明暗の使い方に技巧が凝らされています。月をとびきり明るく、周りはかなり暗くと画面の明度を大きく2つに分けた上で、暗い側にモチーフを配置してその中で微妙な差を描写しています。また、手前にある蝶と花のみを描き込むことで疎密の関係も取り入れているため暗い中でも見せ場がはっきりしていますね!

日本画はこれが初めてとのことですが、蝶の翅や背景の暗がりなどの濃淡の使い方が繊細で素晴らしいです。強い太陽光とは違って蝶と花に当たっている光は仄暗く、真夜中のひっそりとした空気感と岩絵具特有の滲みや絵の具の重なりとの相性が抜群です。彼岸花も全身は見えず照らされていない部分はぼんやりと闇に溶けていて、全体的に光を意識しているのがわかります。そして右下に書かれたサインですが、日本画で筆記体!?と思われた方も多いのではないでしょうか?もし漢字で書かれていたらもう少し厳かな印象になっていたと思いますが、英語で描くことにより更に上品な雰囲気が伝わりますね。ところで蝶は西洋絵画では魂の象徴として描かれ、仏教でも輪廻転生などのシンボルとされています。偶然かもしれませんが、そんな蝶が夜の闇の中で彼岸花に寄り添っているという見ていてどこか不思議な気分にもさせられる一枚です。

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暖かい日にぴったりな1枚

2021-07-13 22:13:06 | 大人 日本画


古谷 日本画(岩絵具・和紙・顔彩)

通り雨のせいで傘を買いました、一平です!本日は日曜クラスの古谷さんの日本画をご紹介します。

旅先の風景を日本画に収め、非常に味わいのある質感に仕上がっています。草が生い茂っているような立体感の与えづらい部分の描き方から、ピンク色のブーゲンビリア(違ったらすみません)のトーンまでとてもこだわって描かれていました。そういったこだわりのポイント(ここまで描きたいというゴール)をしっかりと定めて、そこに向かって着実に歩みを進めていく古谷さんの丁寧さは絵からとても感じるのですが、僕がいつも思うのは古谷さんの質問のレベルの高さです。例えば陰影の付け方を質問される方はいらっしゃるのですが古谷さんの場合、「ここの花の影は形を観察しながら付けていったのですが、なんだか違和感があるのでどこが変か言ってください!」と一旦ご自身で考え実行しそれでも掴みきれなかった部分を先生に聞いてみる、という質問の仕方なので我々としても遠慮なく言えますし、古谷さん的にも違和感の正体が分かるという非常にwin winの関係が築ける質問の仕方なのです。

また、絵に関して手前奥の演出はもちろん素晴らしいのですが、影が特に素晴らしいです。絵のレイアウトとして茂みがかなり大きく入っていて、普通ならここで空間が潰れてしまいそうなものですが、地面に落ちる影のおかげでどのくらいの質量感なのか、どのくらい強い光が当たっているのかという所を推測でき、それにより結果的に絵の中で奥行きが生まれています。絵の定石として地面に光と影を順番に何本も配置する事で奥行きになっていきますが、この絵の中では手前の影と奥の光の2つだけでこんなにも自然にスーッと奥に行っていますすごい。素晴らしいのですがなんだかどこか悔しい気持ちです

今回ブログで書いたことは普段絵を描かない人からしたら細かい部分で、もしかしたら気づかないところかもしれません。ですが絵はもちろん、僕が専攻しているデザインを含めた「美術」とはそういった人の目には触れづらい水面下のこだわりの積み重ねだと思います。そういった意味でも「美は細部に宿る」という言葉がとても似合う一枚です。

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暖かい景色の中で

2021-07-06 22:24:35 | 大人 日本画


加藤 日本画(岩絵具・顔彩・金泥・和紙・パネル)

雨が止まらないですね、一平です!本日は日曜クラスの加藤さんの日本画をご紹介します。

暖かい空気感の中に広がる花畑がとても美しいこちら。麦わら帽子を被った少年が虫カゴを持って通りかかりそうですね。これだけ沢山の花を描いていながら花びら一枚一枚の薄さ、独特の透け感まで感じるような繊細なタッチに目を惹かれます。花は基本的に上向きに咲くものが多いので、慣れていないと描くときに全てひまわりのように正面を向いて平面的になり絵に奥行きを出しづらくなってしまいがちですが、そんな気配を1ミリも感じさせず爽やかな夏の雰囲気を描き切りました。よーく見ると蜂が花にとまっています。この場合、蜂を主人公にして絵を構成していきそうなものですが本当に花畑の中を歩いている時に偶然蜂を見かけて、そーっと歩いていく様な情景が浮かぶくらいとても自然でありながら生命感も感じる気配感です。

また、素晴らしい描写力のリアルな花畑と蜂だけでは終わらず、絵全体が暖かい色彩だけだと画面が緩く見えてしまうためキュッと引き締める爽やかなブルーも挿しています。色彩の構成、どのくらいの塩梅で色を入れるのかの判断も本当に素晴らしいです。花びらや背景に少し使われている金も上品で良いですね。

日本画1枚目とは思えない加藤さんの勘の鋭さと確かなデッサン力を感じる表現に僕は毎回「めっちゃいいっすね!」「最高っす!」しか言えなくなってしまい本当に不甲斐ない限り、お恥ずかしい!

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猫ファンの皆様へ

2021-06-01 23:02:58 | 大人 日本画


渥美 岩絵具・和紙(日本画)

半ズボンを解禁しました、一平です!本日は日曜クラスの渥美さんの日本画をご紹介します。

初めての日本画はご実家の猫を描かれました。縁側に佇む姿が可愛らしくもあり、凛々しくも見えます。ちなみに初めてとは思えない描写力に、我々講師陣はタジタジでした。
実際には『
猫の身体は細く、毛のボリュームがある』という特徴を感じさせるような毛並み。また、その毛並みがあるにも関わらず、なんとなく身体がどう丸まっているのかが分かるのも素晴らしい箇所の一つ。いざ描こうと思うと毛に埋もれた関節が分からなくなってしまいがちなのですが、そんな事もなく自然に体勢が見えてきます。
背景を寒色、猫を暖色でまとめているのも絵として非常にわかりやすく見やすいですね。背景のブルー系でのまとめ方も立体感が破綻せず描写されており、涼しげでとても良い感じです。
渥美さんのデッサンを見ているとモノの立体感、またそれがどうそこに置かれているのかを捉える、空間の感覚が非常に鋭いと感じます。今回の背景の青い空間のように実際のモノ、空間と色味は変えていても、絵の中で立体感が自然に見えて来る、というのは実は凄く難しいのです。

自分が気に入った風景を探してきてそれを描くのももちろん良いのですが、渥美さんの場合は経験、記憶を描いているので、猫を飼っていない僕でも絵から愛を感じますね。今までデッサンを沢山されていた分、ここからは好きなモノや場所をどんどん描いていただきたいです!ちなみに現在渥美さんは油彩に挑戦中。またまたご実家の猫を描かれています。ミオスの猫ファンの皆様、乞うご期待!

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季節の変わり目です

2021-04-06 23:47:35 | 大人 日本画


古谷  左 アクリル  /  右 日本画(岩絵具・パネル貼り和紙)

三つ編みが快適な事に気付きました、一平です!本日は日曜クラスの古谷さんの作品をご紹介します!

左がアクリル、右が岩絵具で描かれています。画材は違いますが季節の変化を作品の流れから感じますね。寒い冬を耐え忍び、ようやく暖かい春が来て蝶が飛び立っていくようなストーリーを連想してしまいます(古谷さんはその気は無いかもしれませんが

左の風景画はご自身で撮ってきた写真を参考に描かれています。日本らしい少し重たい雰囲気の雪景色の描写が非常に素晴らしいです。自然の中の雪景色ではなく、住宅街という人工物の中の雪景色を描いているという点が意外と新鮮で見ていて面白いですね。そんな一見すると冬眠中のような静かな絵ですが、よーく見てみると雪の中に足跡があり、ここで生活、もっと言えば生命を感じられます。このように一枚の中に時間の経過を感じさせる物、現象を配置するのは見ている人の想像をかき立てさせますね!

次はこれからの季節にぴったりの爽やかな作品。一枚目とは打って変わって暖かい雰囲気が素敵です。岩絵具は初めて使ったとの事でしたが、疑ってしまいたくなるほど要領を掴むのが早く、日本画初回とは思えなかったですね。飛んでいるアゲハ蝶の羽根の色分けや重なり合っている部分の、微妙な明暗の差が丁寧に描かれています。アゲハ蝶という小さい生き物をここまで大きく入れた事もダイナミックで気持ちのいい構図を作るのに一役買っていて、一枚目でここまで伸び伸びとした物が出来上がった事が凄い。古谷さんはキチンと物事を理解してから進めるタイプだと絵を見て思っていたので、こういった思い切りが見えて新しい一面が見えた気がして嬉しいです!

筆が早く、ご自身で考えられた事をどんどん実践していく古谷さん、現在はまた新しい日本画を制作しています。次の作品が既に楽しみです!

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