駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

なんでも嫌で困るのは

2016年05月20日 | 診療

               

 少し認知が始まった患者さんの中には,理解できなくてもハイと言われる患者さんが結構多い。そうした場合はある程度こちらで類推勘案できるので問題は起きにくい。ところが少数ではあるが、どんな提案にも嫌、やらないと拒否される患者さんもいる。こうした態度は振り込み詐欺対策には良いかもしれないが、医者に診てもらう時には困ったことになることがある。

 Tさん男性77歳は十年ほど前から高血圧症で通院している。運動能力などには問題はないのだが数年前から認知が始まり、これは神経内科で診てもらっている。そこは遠いので当院でも診られますと言っても、嫌だということで併診していた。採血や画像検査などは神経内科でやっているので、当院ではほとんど検査をしていなかったのだが、ちょっと青白くなってきた感じがしたので、たまにはここでも採血検査をやらせてと説得したところ、どういうわけかまあいいかと拒否しなかった。軽い正球性の貧血があった。消化管出血があるかもしれないと、便を検査しようとするのだが、これにはとにかく嫌の一点張りでできない。容器を渡しても、毎回取れなかったと戻ってくる。看護師に、付き添ってこない妻に電話させたのだが、うちの人は惚けていますから無理ですと相手にしてくれない。困ったなあと手をこまねくうち、つい二か月半経ってしまった。先日、便秘がひどくなったというので、これはまずいと総合病院へ紹介した。さすがに便秘という症状があるせいか嫌とは言わず受診したのだが、結腸癌で手術が必要と返事が来た。

 十年間で一度だけ顔を見せた妻から怒りの電話が入り、「なんでももっと早く」と罵倒された。最後に腹の虫が収まったか「先生に言ってもしょうないか」と電話は切れた。二か月半というのは大きな遅れとは思わないが、確かに貧血を見つけた時点で消化管の悪性腫瘍の可能性は頭に浮かんだのだから、もっと強く動くべきだったかもしれない。どうも嫌だできないの一点張りについ根負けしたのがまずかった。元気そうで会話のできる認知拒否症には、特別対策が必要だと痛感した。

 スタッフは感謝されてもいいくらいなのにと味方してくれたが、なんとも後味の悪い一日を過ごした。

コメント (2)
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