H氏は三年ばかり後輩で今は総合病院の院長をしている。院長になってからは殆ど手術をしていないようだが、非常に手術の上手い優れた外科医だったので、先日会合で顔を合わせた時、問題になっている腹腔鏡手術のことを聞いてみた。「あれはおかしい」の一言だった。言外に自分の病院ではああしたことは起こさないという響きがあった。症例の選び方に問題があること、そして開腹手術のきちんと出来ない腹腔鏡術医の出現に危機感を持っているようだった。彼には不具合があれば即開腹手術に切り替え回復する自信と腕があるらしい。
手術のことは皆目分からないので自分では判断が難しいのだが、練達の外科医であった彼の言うことには説得力を感じた。もとより、専門的な問題点は第三者によって予断なく客観的に明らかにされるべきで、情報の足りない者が軽々しく断ずる事ではない。調査委員会の結論を待ちたい。
有り体に言えば医者には個性と能力がある。一見平凡な町中の臨床医の私が、どこか優れているとすればそれはこの病気はあの先生この人には彼がという、紹介リストを脳内に持っていることだろうと思う。