駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

独りで歩けない患者を置いていかないで

2014年11月20日 | 診療

                      

 午前十一時を回り、空いてきたので風邪っぴきのTさんとちょっと世間話をしていたら、看護師のAさんが診察室に飛び込んで来て

 「先生来て下さい」と紙切れを見せる。血圧90/62/116、SPO2 90%の走り書きがある。

 「あ、ごめんなさい」と腰を浮かせるTさんをあとに処置室に行くと、青い顔したおじさんがベットでフウフウ言っている。

 見慣れない顔で初診のようだ。四、五日前から急に息切れがするようになり安静にして様子を見ていたが良くならず、今朝から胸が痛くなったので連れてきて貰ったと途切れ途切れに質問に答えた。記録されつつある心電図には、明らかな心筋梗塞の所見はない。心音は小さく雑音はない、肺にラ音も聞こえない。足が少し浮腫んでいる。横になって落ち着いたか、顔色がやや良くなりSPO2も94%まで上がってきた。原因ははっきりしないが急性の心不全のようだ。

 とても医院では手に負えないので、病院に転送の手続きをする。総合病院は中々電話に出ない。二十数回目にお待たせしましたと交換手が出た。救急外来の医師と交渉して受けてもらえることになった。次は119番だ。これはスムースに依頼ができ、手短に救急車要請書と病院への紹介状を書く。この間に受付が家族を捜し回るのだが、中々見付からない。運んできた娘さんは患者さんを置いて買い物に行ってしまったのだ。

 救急車に遅れること二分ほどで娘さんが戻って来た。やれやれ何とか間に合ったと同乗して貰い、病院へ送り出した。夕方、奥さんから「心臓に水が溜まっていて入院になりました。ありがとうございました。」と電話がありましたと帰り際に事務のAさんが伝えてくれた。奥さんには常識があるようだ。

 支えないと歩けないような患者さんを独り置いていかないでほしい。

コメント (2)
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