十年くらい前だったか、どうも飯が不味いという爺さんを診察したら、上腹部に小さいステーキのようなしこりが触れた。これは胃に何かあると総合病院に紹介状を書いた。数日して爺さんが返事を持ってやってきた。胃癌で手術が必要と書いてある。「何度も本当に触っただけかと聞かれました」。触っただけで分かるはずがないと信じられなかったようである。
私を教育してくれた先輩達は腹部触診のコツをそっと教えてくれた。それぞれ先輩の先輩から教わったコツに自分の経験を合わせて編み出した簡単ではあるが独特の方法だった。たぶん、私が耳を傾ける良い生徒だったこともあると思う。最近の研修医は腹部を触る時はこうやってと教えても興味を示さない奴が多い。確かにエコーやCTのある時代に、腹の触り方など何を勿体を付けてと思う気持ちも分からぬではないが。
一昨日も高血圧でいつも来ているT婆さんが腹が痛いとやってきた。触診すると急性虫垂炎の所見なので、入院手術が必要と思いますと紹介したら、CTで急性虫垂炎の所見がありましたので、手術させて頂きましたと返事が来た。ああそうした時代なんだと改めて思った。問診や触診に依る診断はその正確度では画像診断に敵わないが、私の年代の医者には問診と診察が診断の根幹で画像診断はそれを確認補佐するものという印象がある。勿論、症状や所見のない初期の病変は画像診断の独壇場であるのだが。
それともう一つ、日本人の悪い性向だが、診察所見での診断が画像診断で覆された時、何となく馬鹿にしたり恥ずかしいと思ったりする習性があるので、余計に診察の腕を磨く努力がおざなりになってきているのだろうと思う。
引退したりもう居ない先輩達はお前程度でと言うだろうが、なんだか絶滅危惧種になっていくようだ。
私を教育してくれた先輩達は腹部触診のコツをそっと教えてくれた。それぞれ先輩の先輩から教わったコツに自分の経験を合わせて編み出した簡単ではあるが独特の方法だった。たぶん、私が耳を傾ける良い生徒だったこともあると思う。最近の研修医は腹部を触る時はこうやってと教えても興味を示さない奴が多い。確かにエコーやCTのある時代に、腹の触り方など何を勿体を付けてと思う気持ちも分からぬではないが。
一昨日も高血圧でいつも来ているT婆さんが腹が痛いとやってきた。触診すると急性虫垂炎の所見なので、入院手術が必要と思いますと紹介したら、CTで急性虫垂炎の所見がありましたので、手術させて頂きましたと返事が来た。ああそうした時代なんだと改めて思った。問診や触診に依る診断はその正確度では画像診断に敵わないが、私の年代の医者には問診と診察が診断の根幹で画像診断はそれを確認補佐するものという印象がある。勿論、症状や所見のない初期の病変は画像診断の独壇場であるのだが。
それともう一つ、日本人の悪い性向だが、診察所見での診断が画像診断で覆された時、何となく馬鹿にしたり恥ずかしいと思ったりする習性があるので、余計に診察の腕を磨く努力がおざなりになってきているのだろうと思う。
引退したりもう居ない先輩達はお前程度でと言うだろうが、なんだか絶滅危惧種になっていくようだ。