玉川上水の辺りでハナミズキと共に

春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえてすずしかりけり (道元)

*作家・平野啓一郎

2017年02月20日 | 捨て猫の独り言

  昨年の私の手帳に平野啓一郎(1975年生)の言葉が残っている。手帳には「取り返しのつかないものをどうするか、それが人間にとって大事なテーマだと思う。相手といる時の自分が好きだという自己肯定感がないと関係は持続しない。恋は自然に高ぶる感情だけど、愛は人工的だという三島由紀夫。関係性を持続する愛を重視する谷崎純一郎。」などと箇条書きしている。中央公論社から出た「かたちだけの愛」に関する記事の中にあった。(写真は小平ふるさと村にて)

   

 「マチネの終わりに」は15年の3月から16年の1月まで毎日新聞に連載された。連載が始まって2か月後に我が家では購読を朝日新聞に変更した。そのため熱心な読者である家人は連載を読めなくなった。そのことを私が知ったのは単行本が最近我が家に持ち込まれた時だった。マチネロスという言葉が生まれるほど好評を博した小説の単行本は16年の4月に刊行された。図書館に貸し出しを申し込んだけれども、予約待ちが続いたようだ。最近図書館から連絡があり、やっと家人は小説を読み終えることができた。

 私は平野啓一郎という作家の存在を気にはしていたものの、これまで彼の本を読んだことはなかった。返却期限が迫っていた「マチネの終わりに」を開いてみた。中年に差しかかった天才的なクラシックギタリストの男性と、理知的な国際ジャーナリストの女性の物語だ。作品に引き込まれ、かすんでくる目をしょぼつかせながら二日で読み終えた。主人公の二人が魅かれ合うことになる状況の描写がとても自然な感じがした。これまであまり読むことのなかった恋愛小説を読んでしまった。

 「変えられるのは未来だけではない。今この瞬間が過去を変えてくれる。未来は常に過去を変えている」という小説の中の言葉を多くの読者が新鮮に感じたようだ。「付随する出来事によって現在と過去と未来のエピソードの意味が変わる、なんてこれまでに考えたこともなかった。なんかすごいものを読んでしまった」というのが代表的な感想だ。書き終えて、作家はつぎのような抱負を述べている。「ページをめくる手が止まらない小説ではなく、ページをめくりたいけどめくりたくない、ずっとその世界に浸りきっていたい小説というのを追求したいと思っています」

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