三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

今枝由郎『ブータン仏教から見た日本仏教』(1)

2006年05月01日 | 仏教

今枝由郎さんはゼミの先輩です。
『ブータン仏教から見た日本仏教』に、稲葉正就先生のこんなエピソードが書かれています。

稲葉先生は、こちらが質問をすると、じっと考えてから「わからん」と答えられることがよくあった。(略)いま思い返してみると、先生の態度はまさに科学的・学問的で、立派であったと思う。

講読の時間、院生の発表を一生懸命ノートにとり、そして質問をしては、またノートにとっておられた稲葉先生の学問に対する熱心さ、謙虚さに、私も感銘を受けました。

と、今枝さんとはいかにも親しいようなことを書いていますが、私は今枝さんが卒業された年に入学したので、話をしたことはありません。
大学在学中にフランスへ留学し、研究員となり、ブータンの国立図書館に勤めている先輩がいると耳にし、すごい人がいるもんだとあこがれました。

『ブータン仏教から見た日本仏教』は、辛口の日本仏教批判の書物です。

するどい指摘になるほどと思う一方で、ブータンやチベットを美化しすぎのようも感じました。

今枝さんは「日本仏教の特異性」と「日本の僧侶の質」という二点から批判されています。

日本仏教の特異性とは、日本仏教は宗派意識が強く、自分の宗派の開祖は崇めるけど、釈尊は崇めない。
そのうえ、自宗だけで事足れり主義であるから、宗派間に交流が成立せず、視野が狭くなり、偏狭になる。
さらに大きな問題は戒律、僧伽がないということで、このことは僧侶の質とつながってくる。
たとえば、僧侶の妻帯、そして寺院の世襲制、私有物化など。

仏教として超えてはならない、逸脱が許されない一線があり、その枠のなかで取捨選択するのであって、自分勝手に、自分の好みのものを、自分の食欲の赴くままに食していいというのではない。

その枠とは何か。
仏教は、無常という理を正しく認識し、それに直面するすべを教える宗教であり、その教えを実践に移すのが、仏教徒の本来の姿である。
仏教は、妄信的な信仰を前提としない、「理」のそして理性の宗教である。

ところが、今枝さんは金剛乗(密教)に高い評価をされています。

インド仏教の伝統を正しく継承している、たとえばスリランカのテーラヴァーダ仏教の、あるいはチベット・ブータンの金剛乗

 

金剛乗と大乗の間には、上座部仏教と大乗仏教の間に見られたような、見解の相違、対立はなく、金剛乗は、大乗の一部とみなしたほうが適切

宗派的偏見かもしれないですが、密教は仏教のヒンズー教化だと某先生も言ってることだし、神秘主義的な密教はインド仏教の正統とは言えるか疑問だと思います。
それと、梅原猛や中沢新一に共感を示していることにも賛成できません。

そして、今枝さんが評価するチベット仏教の活仏制度、これは本来の仏教から逸脱したものではないでしょうか。

チベットで活仏が制度化したのは14世紀であり、活仏制度はインド仏教の伝統にはなかったはずです。

チベットというと、ダライラマがまず頭に浮かびます。

ダライラマは観音の化身であり、死んでもすぐに生まれ変わってくる活仏です。
チベットではダライラマ以外にも大勢の活仏がいますが、これは高僧が死んでも衆生済度のため涅槃に入らず、再びこの世に生まれてくることを期待するわけです。
仏菩薩が衆生済度のために生まれ変わってくるわけですから、迷いの衆生が生まれ変わる輪廻とは違います。

それにしても、活仏制度というのはかなり変な習慣です。

日本でも、聖徳太子は南岳慧思の生まれ変わりだとされましたし、法然の本地は道綽や善導であり、勢至や阿弥陀の化身だと親鸞も言ってます。
だからといって、法然が死んでから法然の生まれ変わりを探し出すなんてこと、日本ではしません。

ところがチベット仏教の場合、活仏が死ぬとすぐ転生者を探し出し、その子供を寺院でエリート教育する、というように制度化していています。

田中公明『活仏たちのチベット』は活仏の歴史、社会的意味などが書かれた本です。
チベットには、ダライラマやパンチェンラマのような有名な活仏以外にもたくさん活仏がいて、各地に散在する末寺の活仏は数えきれないほどだそうです。

私は、転生ラマ制度は、わが国の歌舞伎や相撲の名跡のようなものだと説明することにしている。

ダライラマたち活仏は政治的な存在ですから、家元というよりは天皇や皇族と似ているように思います。
もっとも、天皇は活仏ではなくて活神ですが。

転生ラマは教団を発展させるために、できるだけ神格化し、カリスマ性を高めておかねばならない。

活仏制度のような生き仏、生き神信仰は「妄信的な信仰」であって、「理性の宗教」とは言いがたいと思います。

コメント
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