三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

被害者の救いへの道は

2006年05月13日 | 死刑

高橋哲哉『靖国問題』第一章「感情の問題」に、夫が戦死した方の陳述書が引用されています。
そこにはこういうことが書かれています。

私にとって夫が生前、戦死すれば必ずそこに祀られると信じて死地に赴いたその靖国神社を汚されることは、私自身を汚されることの何億倍の屈辱です。愛する夫のためにも絶対に許すことの出来ない出来事です。

靖国国家護持に反対する人たちが、戦死者の家族の素朴な感情を政治家は利用していることを批判することに対して、戦死者を侮蔑しているように感じる遺族がいるのでしょう。

死刑問題でもまず被害者感情が言われます。
被害者感情とは、怒り・恨み・鬱、そして復讐心だろうと我々は考えます。
テレビの討論番組で、「被害者は厳罰を求めている」とわめいたタレントがいました。
こういった感情が起こるのは当然のことです。

まわりの人はこうした感情をどのように受け止めていくべきか。
怒りや怨みは自分自身をも傷つけます。
ですから、怒りや怨みが別のものに変えられるような、そうした支援が必要だと思います。

坂上香『癒しと和解への旅』は、殺人事件の被害者と死刑囚の家族が一緒になって行っている死刑廃止運動のルポルタージュです。
娘が殺された(犯人は捕まっていない)女性アンはこう語っています。

ダニエル(アンの息子)も私と同様に復讐心で煮えたぎっていました。しかし、そういう感情は時とともに乗り越えていくべきものです。

ダニエルは復讐心を乗り越えることができず、鬱状態が続き、ついには自殺します。

子供二人を亡くしたアンはこう言います。

ダニエルはやり場のない憎悪を自分自身に向け、自殺するに至ったのです。彼を死に追いやったのは、まぎれもなく、復讐心です。

それではアンはどうやって復讐心を乗り越えたのかというと、子供を殺された親たちによるサポートグループに参加することが、復讐心から抜け出せるきっかけになったそうです。

坂上香さんは中2の時、学校でリンチを受けています。
憎しみ、恨み、自己嫌悪、屈辱感、自責の念、人への不信感、あきらめ、などなどが鬱積していったそうです。
その後、さまざまな出会い(リンチをした不良や見ぬふりをした中学の教師など)の中で、

十八年たった今ようやく、中学時代に受けたリンチを私なりにとらえ直すことができたのかもしれない。

と書いています。

『癒しと和解への旅』を読んで、仏の慈悲とは、そういう意志を持った超越者がいるのではなく、人との出会い、関わりの中で生まれてくるもののではないかと思いました。
家族が戦死した人のすべてが「靖国でなくてはいけない」とは思っていないように、犯罪の被害者が全員、いつまでも復讐心を抱いているわけでしょう。

コメント (2)
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