三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

格差社会アメリカ(2)

2007年10月14日 | 

不思議なのは、アメリカ人は他の階層の人たちにあまり関心を持たないということ。
小林由美『超・格差社会 アメリカの真実』にこうある。

これがいかにもアメリカらしいのだが―どの階層に属している人も、自分よりも下は無能か怠け者だから貧しく、上は金持ちの家に生まれたから金持ちなのだ、と思っている。


豊かな人の多くは高等教育を受けているのだから、格差拡大の原因が何か、格差を減らすにはどうすべきかに関心を持ってもよさそうなものだが、これまた興味がない。

なぜアメリカの人々はもっと大きな社会の仕組みのあり方に疑問を持たないのか?
おかしな仕組みを直そうとはしないで、毎日奮闘している理由はどこにあるのか?

アメリカ人は自分に関係のないことには本当に無関心で、身のまわりのことだけにしか関心を持たない。
バーバラ・エーレンライクが『ニッケル・アンド・ダイムド』に書いているが、同僚のウエイトレスたちに、実は自分は博士号を持っているんだと告白しても、誰も驚かないことにエーレンライクは驚く。

なぜ他の階層の人に関心を持たないかというと、普段接することがあまりないから。
小林由美は「アメリカ型の競争社会は、階層社会の徹底化と、相互の隔離によって維持され得る」と言う。

アメリカ国内で貧富の差が拡大しても、特権層は隔離された世界に暮らしているから、貧困層の問題は身に迫る深刻な問題とは感じない。

今のアメリカには、階層ごとに地域的な住み分けがある。だから個人は自分の所得水準に合わせて住む場所を選ぶ。明確に住み分けることによって暴力的な犯罪は貧困地域に囲い込み、落ちこぼれそうと接触しなければ、それなりに安全で快適な住環境を作り出せるということだ。


教育や医療などにも格差がある。
たとえば、金持ちは子供を公立学校ではなく、金がかかる私立に行かせる。
低所得家庭に生まれ、低水準の公共教育しか受けられなかった人は、その後の人生を通して衣食住全ての日常生活で大きなハンディキャップを背負うことになる。

笑ったのがこれ。

大学の中には、生徒にダンスを教え、ラスベガスのカジノにストリップ・ダンサーを供給しているところさえある。

自由の根底には、経済的な成功が必要なのである。

アメリカ社会では、いくら自由で何をしてもいいとはいえ、経済的に自立しなければ落ちこぼれる。

落ちこぼれは代々落ちこぼれてしまい、金持ちはますます豊かになるわけである。

ウエイトレスや掃除婦といった定収入の仕事はどういうものなのか。
バーバラ・エーレンライクは「単純労働など楽勝だと思われるかもしれない。だが、それは違っていた」と『ニッケル・アンド・ダイムド』に書いている。

仕事はすべて肉体的に厳しいものばかりで、何ヵ月も続ければ体をこわしそうなものもあった。(略)
仕事を始めるときにはあまり気づかないことだが、自分の時間を切り売りするつもりでいたのに、実際に切り売りするのは、自分の生活であり、人生そのものだったのである。


それだけ働いても、報われることはほとんど、あるいはまったくない。
仕事を完璧にこなしても、誰もほめてくれるわけではないし、給料は上がらない。
だから、貧困から抜け出すことは容易ではない。

私は、「一生懸命働くこと」が成功の秘訣だと、耳にタコができるほど繰り返し聞かされて育った。「一生懸命働けば成功する」「われわれが今日あるのは一生懸命働いたおかげだ」と。一生懸命働いても、そんなに働けると思っていなかったほど頑張って働いても、それでも貧苦と借金の泥沼にますますはまっていくことがあるなどと、誰も言いはしなかった。


「他人の子供の世話をするために、自分の子供の世話をおろそかにする。自分は標準以下の家に住んで、人さまの家を完璧に磨き上げる」ワーキングプアは「ひたすら与えるばかりの人たちなのだ」と、バーバラ・エーレンライクは書く。

賃金の面でも人に認められるという面でも、あれほど報われることの少ない仕事に、みんなが誇りを持っていることに驚かされ、ときには悲しくなるほどだった。


エーレンライクの言葉は実に厳しい。

私たちが持つべき正しい感情は、恥だ。今では私たち自身が、ほかの人の低賃金労働に依存していることを、恥じる心を持つべきなのだ。誰かが生活できないほどの低賃金で働いているとしたら、たとえば、あなたがもっと安くもっと便利に食べることができるためにその人が飢えているとしたら、その人はあなたのために大きな犠牲を払っていることになる。


『ニッケル・アンド・ダイムド』を読んで、鎌田慧が季節工として自動車工場の生産ラインで働いたルポである『自動車絶望工場』(1972年刊)を思いだした。
ベルトコンベアでの作業がこんなにきつい仕事なのかと驚いたものだ。

しかし、この自動車工場で働いていた人たちは、今は苦しくとも、まじめに働いていればいつかは報われると、将来設計を立てることができた。
貯金をし、結婚し、家を買い、子供を大学に行かせるという夢を持っていただろうし、その夢を実現させることができたと思う。

今はどうか。
考えてみれば、鎌田慧と一緒に働いた20代の人は現在50代である。
リストラでクビを切られたかもしれない。
アメリカの状況は他人事ではない。

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4 コメント

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貧富の差の縮小を (尹東柱@月夜の雨)
2007-10-17 13:33:54
 環境問題の点から見ても貧富の差の縮小は大切です。無関心は最大の敵だと思います。無関心は差別も作り上げます。過剰な防衛反応も起こします。
返信する
コメントありがとうございます ()
2007-10-17 17:14:38
コメントありがとうございます。
どうしたら格差が縮小するのでしょうか。
格差を是認する人が政策を決める立場にいますからねえ。
返信する
格差社会は自分の首を絞める (隆蓮房。)
2007-11-02 18:33:12

>金持ちは損になるようなことはしたくないからである。

そうですよね、結局、税金とかそういうのは金持ちが自分たちの都合のいいように決めるわけですから。

企業が正社員を減らしている。
ウチの隣の個人企業も社員の首を全部切り、みんなパートかなんかみたいです。
でもね、給料が減るってことは、その給料の範囲からは消費がしづらくなるってことでしょう?
消費者の懐が寒くなるってことは、当然、その企業の商品も売れなくなるわけですよね。

格差を奨励した社会って、貧乏人(失礼!)が増えて、結局消費が滞るから、どんどん社会が不況に陥っていくんじゃ・・・・・・そしたらまた社員の給料をカットするのでしょうか?

で、消費税をアップする?

悪循環ですね。
返信する
貧乏人の首だけ絞まる ()
2007-11-03 14:00:51
>給料が減るってことは、その給料の範囲からは消費がしづらくなるってことでしょう?消費者の懐が寒くなるってことは、当然、その企業の商品も売れなくなるわけですよね。

会社は誰のためにあるのか。
会社がもうかれば、社員もおこぼれにあずかるというのは、昔の考えなのかもしれませんね。
株の配当が多いかどうか、つまり大株主の利益優先らしいです。
適当なところで会社を売って、それでもうけるというのも多いそうですから。
会社は大株主のためにあるなんておかしいと思いますが、それがアメリカ流グローバリズムなんでしょうね。

毎日新聞のコラムに↓のようなことが書かれていました。
http://mainichi.jp/select/biz/kansoku/
経済のことはまったくわからないので、優遇税制を廃止したら市場が冷え込み、株価が急落すると言われればそうかもしれないですが、大三という人は金持ちしか見ていないような気がします。
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