三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

『安部英医師「薬害エイズ」事件の真実』4

2011年10月29日 | 厳罰化

『安部英医師「薬害エイズ」事件の真実』の冒頭には、出版した目的が書かれている。
第一は、安部医師が無罪であることの理由を知ってもらいたい。
第二は、「悲惨な結果をもたらした災害が発生した場合、十分な根拠もないのに、誰かを責任者として仕立て上げたがる無責任なマスメディアとそれに押されて起訴までする無定見な検察の姿勢を強く批判し、無実なのに刑事被告人とされるという甚だしい人権侵害が二度と繰り返されることのないように、声を大にして訴えることにあります」

証拠も根拠もないのに、処罰感情を煽るマスメディア。
マスメディアに煽られた世論。
世論に迎合して誰かに無理に責任を負わせようとする検察。
これは毎度お馴染みのパターンである。

菅直人氏は血友病患者らに対して、国の責任を認めて謝罪した。
この謝罪によって菅直人氏の評価はぐっと上がったのだが、『安部英医師「薬害エイズ」事件の真実』によると、「人気取り」にすぎない。
「この謝罪のためにエイズ問題の本質は、悲劇から事件へと捻じ曲げられました。櫻井氏は繰り返して産官学の癒着の事件として報道しました。人気取りだけの政治家とことの本質を理解せずワンパターンでしか考えられないジャーナリストが国民を誤解に導いたため、日本はエイズ問題から科学や医療の本質を学ぶ良い機会を失ったのです」

「薬害エイズ」事件は政治を巻き込んだ。
「厚生大臣が菅直人氏に交代するや、科学的な判断を振り捨てて、いわば「犯人探し」とでもいえるような政治的な動き」が始まった。
「血友病患者に対してエイズのウイルスに汚染された血液製剤を投与したためにこれだけの被害が出たのだから、責任者がいないはずはない、安部医師は、血友病治療の第一人者であるから、責任を負うのは当然だ」

しかし、輸血によって大勢が肝炎に感染しているが、安部英医師のようにバッシングを受けた人はいない。
「血液製剤における肝炎ウイルス汚染の可能性と危険性は、エイズウイルス汚染の場合に比べて、医師の間では、かなり古くから知られておりました。また、肝炎に罹った方の数は非常に多く、エイズに罹った方の何倍にもなります。しかし、これまでのところ、マスメディアや検察を含めて、誰からも、医師の責任を問う声は全く聞こえてきておりません」
なるほど、考えてみればなぜ安部英医師だけがあれだけ非難され、逮捕、起訴されたのか不思議である。

「安部医師を「極悪人」とする報道は、メディア・バッシングとして、安部医師に対する一方的・制裁的報道として、ほとんど例外を許すことなく、ますます、増大していきました。当時の報道において、安部医師には「人権」「人格」は全くありませんでした。安部医師の言い分をきちんと聞いて、報道しようとする記者がほとんどいなかったことは、大変恐ろしいことです」
「被害者と検察官とマスメディアが一本の線でつながることほど人権にとって危険なことはない」と言われてるそうだ。
安部英医師は地位も名誉を失い、経済的にも大きな支出を余儀なくされた。
また、安部英医師の家族は加害者家族とされたのだから、つらい思いをしただろうと思う。

なぜこのような報道が行われたのか、『安部英医師「薬害エイズ」事件の真実』は三点をあげている。
1 事実を正確に見ようとしない。
「安部医師に関して言えば、「悪人」に決まっている。つまり、安部医師のやってことは、すべて「悪いこと」に決まっている、という先入観、思い込みです」
2 科学的視点、歴史的視点、世界的視点をもって事実を見ることをしない。
3 複雑なものごとを単純に割り切って、わかりやすさだけで理解しようとする。
「誰の責任でもない悲劇が存在することもまた事実です。しかし、わが国のマスメディアには、悲惨な被害者が現実に存在するにもかかわらず、誰の責任も問えないという苦しい現実を受け入れられない弱さがあるのではないでしょうか。だから、悲劇がある以上その犯人が居るはずだ、という感情的な反応に終始し、事態を冷静に判断しようともしないのです。そのようなマスメディアのあり方に便乗して、若しくは迎合して、検察官は、スケープゴートを作り上げ、思考停止による一件落着という結末を選んだとも言えるのです」

今もあまり変わらない状況にあるらしい。
「今回の出版での最大の苦労は、本書の出版を引き受けてくれるところを見つけることであった。無罪判決が下されても、なお、マスメディアの作り出した安部医師悪者イメージは強く残っていた。被害者側からの攻撃のおそれを口にして尻込みをする出版者も少なくなかった。言論の自由の敵は権力者とは限らないということを痛感した」
冤罪事件の映画は『真昼の暗黒』『松川事件』などあり、薬害エイズ事件をもとに映画を作ったら面白いのではと思うが、無理なようです。

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