三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

堀川恵子『裁かれた命』4

2012年06月28日 | 死刑

死刑を求刑する検察官、死刑判決を下す裁判官は、死刑についてどう考えているのか。
堀川恵子『裁かれた命』によると、やっぱり嫌なものらしい。

検察庁には長谷川武の裁判資料が残っていた。
堀川恵子氏は資料を閲覧しようとして、法律では資料の閲覧を認められているにもかかわらず、拒否される。
土本武司氏は当事者なのでコピーできた。

資料をもとに堀川恵子氏は、東京地裁で長谷川武に死刑判決を下した裁判官の一人である泉山禎治氏に電話をして尋ねる。

泉山禎治「覚えていますとも。あの事件は私は主任裁判官でしたから。彼が死刑判決を言い渡されたその瞬間の顔も、今でもずっと覚えています」

堀川恵子氏は泉山禎治氏に会って話を聞く。
泉山禎治「長谷川被告人のことは実を言うと、あなたにお電話いただいて初めて刑の執行が終わったということを知ったんです。極刑の裁判をやりますと、ずっと心のどこかにいつまでも引っ掛かっているんです。一人で決めたわけじゃない、合議をして議論をして、これでやむなしという結論になったので裁判としてはそれで良かったのかなと思いながらも割り切れないものが残るんですよ。(略)
極刑ですからね、どんな極悪非道の被告人であったとしても一人の人間がこの世から抹殺されるわけですから、処刑というものは、それが良かったかどうかは別にして、やっぱり自分がやったことに対しては責任があります。それは終生、消えません。
これから本格的に裁判員制度が始まって極刑も扱うことになりますが、裁判員の方にはかなりの負担をかけることになると思います」

二審の裁判長も小林健治弁護人に「何とか、ならないものでしょうか」と語りかけている。
長谷川武の弁護人である小林健治氏は元裁判官で、死刑判決を何度も出している。
小林健治氏が裁判官退官後に新聞記者に語ったところによると、「当時、死刑判決を下した裁判官には、裁判所から慰労の意味を込めて多少の手当てが支給された。死刑判決を下した日は必ず新橋に立ち寄り、その金でまずい酒を飲んで気を紛らわせたという」

というわけで、堀川恵子氏によると、「死刑判決を下すとき、裁判官は悩みに悩んだ末にこれで間違いないと確信をもって判決を下す。しかし、心のどこかでは「本当にあれでよかったのか」という疼きを抱え続ける。だからこそ、死刑判決が自分の裁きの段階で決まることを畏れる。被告人が高裁、そして最高裁へと上訴するよう願う。上級審で他の裁判官のお墨付きを得て死刑が確定すれば、自分の判断は正しかったのだと自分に言い聞かせることもできるだろうし、もし結果が覆れば、一人の人間の命が救われたとも思える」ということである。

では、裁判員はどうなのだろうか。
毎日新聞の裁判員経験者へのアンケート。
死刑を求刑されるような事件について、50%が「関わった方がいい」とし、「関わった方がいいが判決は全員一致とすべきだ」との回答も14%。約3人に2人は死刑求刑事件への国民の関与を肯定的にとらえていた。(5月18日)
死刑判決を出した裁判員がどう考えているか、これだけではわからないが、裁判員は自分が出した判決に疑問を感じたり、悩んだりしていないように思われる。

法務大臣はどうか。
毎日新聞の「<死刑執行>決裁は2ルート 手続きの詳細判明」という記事に、小川敏夫法相の談話が載っている。
基本的に開示に賛成だが、それに伴い生じる弊害は考慮すべきだ。執行された方や遺族の名誉、プライバシーに配慮しなければならない面がある。また、刑の執行に関して具体的なことがあまりにも明らかになった場合、未執行者の心情を不安定にする。ことさら残酷なことをしているわけではないので、(不開示部分は)都合の悪いことを隠しているわけではない。毎日新聞6月1日

「ことさら残酷なことをしているわけではない」のだったら、「未執行者の心情」を気にすることもないと思うが。
小川前法相は死刑を執行される死刑囚や執行する刑務官について何も考えていない。

堀川恵子氏は『裁かれた命』の最後にこのように書いている。
「人が苦境に追い込まれたとき、運や出会いに恵まれて救われる人もいれば、自らの力で苦境を打開していくことの出来る人もいます。人一倍の努力で苦難を乗り越えてきた人ほど、それが出来ない人の不甲斐なさを責めることがあります。努力することの必要性は否定しませんが、同時に、努力が報われる人と報われない人がいることも忘れてはなりません。
この世に生を受けたときから体格や容姿がほぼ決まっているように、心の防波堤が高い人もいれば低い人もいます。頑張って成果を出す人もいるし、同じように頑張っても成果を出せない人もいます。克服できる欠点もあれば、それを抱えたまま歩まざるをえないハンディを生まれながらに負っている人もいます。絶望に追い込まれたとき、踏みとどまることが出来る者もいれば一線を越えてしまう者もいるでしょう。
罪を犯すような事態に、自分だけは陥らないと考える人は多いかもしれません。しかし、人生の明暗を分けるその境界線は非常に脆いものです。私たちはいつ被害者になるか分からないし、それと同じようにいつ加害者になるかも分かりません。被害者や加害者の家族にもなりえます。たとえ人の命を奪わないまでも、相手の心に生涯消えない傷を負わせることもあるでしょうし、たとえ自ら手を下さなくても、傍観や無知を通して加害の側に立っていることも少なくありません。
死刑という問題に向き合うとき、いったいどれほどの人間が、同じ人間に対してその命を奪う宣告をすることが出来るほどに正しく、間違いなく生きているのかと思うことがあります。そして、その執行の現場に立ち会う人間の苦しみも想像を超えるものがあります」

堀川恵子氏の言ってることに全面的に賛成である。
アメリカの研究によると、親から虐待を受けた子ども千人のうち、20歳までに2人に1人が軽犯罪で捕まっており、5人に1人が傷害や殺人を犯しているという。

イエスは「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい」と言ったそうだが、小川前法相も含め、石を投げる資格のある人はあまりいないように思う。

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12 コメント

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日記つけている方と同じ意見です (解語の花)
2012-06-28 18:56:28
死刑問題について、今までいろいろな角度から書いてあるご本見つけて、日記を書いてくださっています。連載やその他の執筆でお忙しいのに、ありがとうございます。この日記、ぜひ、たくさんの方に読んでいただきたいですね。

今、現在、親から虐待を受けている子さん方の未来が心配です。同時代に生きている私たちはどうしたら、よいのでしょう?そのことも同時に考えなくては。

と本気で言いつつ、自分の楽しみも考える私。

ここから、汗。天下無敵のコロラトゥーラで有名なエディタ・グルベローヴァの「アンナ・ボレーナ」のオペラのチケット予約しました。このお話もすごいです。どこの国でも、すぐ死刑・死刑と騒いでいた歴史があるものですね。
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ヒマですけど ()
2012-06-29 17:59:43
連載や執筆などありませんので、ご心配なく。
虐待は連鎖するし、貧困も連鎖します。
どうしたらいいのか、難しいですね。

死刑廃止をヨーロッパで初めて訴えたのはイタリアのチェーザレ・ベッカリーア(1738~1794)という人。
エリザベス一世の百年後です。
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冥土の旅の半里塚 (解語の花)
2012-06-29 18:57:46
もうすぐ、夏休みが来ますわね。おヒマな方の夏休みのご予定は?

私は来週末、早々と、夫と山に行きます。
実は普段は離れ離れが多いんです。二人とも一人残った親を介護しておりますもので。老いた親はなんといっても、自分の家で過ごしたいようですね。みんなで一緒に住めれば、いいのかもしれませんが、話し合いの結果私たち夫婦がそれぞれの実家を守りながら、行ったり来たりするという選択を取りました。義理の母は常住の施設を確保しておりまして、連れて帰るときには、夫の家で二人でお世話します。
一泊しか予約しておりませんが、お天気次第ではもう少し滞在するかもしれません。夫婦水入らずで普段は出来ない話を、と言いたいところですが、アッシー君も一緒です。

まぁ、どうしてこんな内輪話、お伝えしておりますのかしら?いやーね、長いお付き合いになるかもしれませんので、そうしたい気持ちになったとご理解ください。

虐待・貧困の連鎖、これを断ち切るのは、当然一人の力では無理です。わかりきった意見ですが、自分のできるところから始めましょう、というのが正解かもしれません。では何ができるのか?ということになりますが、まずは一人一人が差別意識をなくすこと、つまり、偏見を持たないで人と接すること、このことが案外大切なのでは?と考えております。
あまり本を読まない私ですので、この日記はいろいろなことを考えるうえで、とても参考になります。

今日・明日は半年の総括です。
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山歩き、それとも別荘に? ()
2012-06-30 17:29:49
知人が家庭に問題のある子どもたちに関わっています。
すごいな、でも私にはできない、と思います。
できないというのは正直ではなく、面倒なことはしたくないというのが本音です。
自分の生活はちゃんと確保して、というのがありますしね。
映画を見る時間がなくなったら困りますから。
知れば差別がなくなるかというと、どうもそう単純にはいかないように思います。
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温泉+山歩き+秘密 (解語の花)
2012-06-30 18:33:33
夫が言いました。別荘持つのは、愚の骨頂だと。庶民は、毎回、宿泊費を支払い好きなところに泊まりに行くのが、一番懸命で経済的なようです。少し小金がたまりますと別荘を購入する、そんな時代はもうとっくに過ぎているみたいです。

差別…知らないよりは、まし?知らぬが花?

面倒なことしたくないって、おっしゃっていますが、認知気味のお父様、いらっしゃるのでしょう?どなたがお世話していらっしゃるの?
気になるところです。

さて明日から7月。けじめでなのでお伝えします。今まで円さんに質問されて答えてない場面。それは
①気が乗らないから
②わからないから
のどちらかです。あらっ、こんなの当たり前ですわね…

寝耳に蚯蚓
これが現れるのが初夏の証拠らしいです。これ、鳴くんですってね。私、これはダメです。

今年、上半期、どのご本が一番印象的でした?日記の中で。
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秘密のあっこちゃんが実写化されるとか ()
2012-07-01 19:51:11
軽井沢ならともかく、どうでもいいような山の中に別荘村があるでしょ。
こんなところに家を建ててどうするのかと不思議に思います。
別荘を手に入れるのはお金の問題ですけど、維持するのは手間暇かかりますからね。
今読んでるのがトム・ロブ・スミス『エージェント6』です。
これはおもしろい。
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誰が (わたし、アホ)
2012-07-01 22:15:32
あっこちゃん?テクマクマヤコン。これ、あってる?

お母さんにコンパクト買ってもらった。
弟は仮面ライダーの変身セット。

二人ともうまく変身できたよ、おもちゃといっても、あなどれない!
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ドーナツの穴 ()
2012-07-02 20:25:24
何とか戦隊○○レンジャーとかあるでしょ。
「水戸黄門」を超えるマンネリ人気番組。
みんな、変身が好きなんですね。

「あなどれない」という言葉、面白いと思いませんか。
穴は取れませんからね。
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使用注意! (解語の花)
2012-07-02 20:59:50
変身の仕方が進化しているんですよね。うちの子、久しぶりに見たとき「おっ、携帯で変身してる」ってびっくりしていました。

小さいお子さんお持ちの親御さん、要注意です。幼い子は、変身セットで、ややもすると本当に自分が空を飛べたりすると思ってしまうんですよ。あわやの事故を目撃したことがあります。これで遊ぶときは、親御さんんも一緒の遊んであげてください。
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妄想依存 ()
2012-07-03 17:20:20
大人だって「こうなったら」という妄想を抱きますよね。
私が映画が好きなのは、映画を見ている間だけは別人になった気がするからかもしれません。
この手の妄想は現実を受け入れにくくしますから、あんまりいいことではないですよね。
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