松家仁之『火山のふもとで』は、設計事務所に就職したばかりの「ぼく」の、浅間山の北麓にある「夏の家」でのひと夏の出来事が中心の物語。
最初の数ページで、小説の心地よいリズムに浸った。
ユートピア小説である。
ユートピアの特徴は、狭く、少人数の、選ばれた人の集まりである。
誰にでも開かれた世界ではない。
設計事務所の人たちは、画家になりたかった人とか、才能あふれる人たちばかり。
「ぼく」にしても芸大の美術学部で建築を学んでいるが、どの大学か想像できる。
ユートピアの内部では時間は流れない。
しかし、言うまでもなく現実は時間が過ぎていく。
だから、ユートピアは必ず崩壊する。
どういう結末かは想像できたが、やはり悲しい。
建築小説である。
読んでいて、辞典小説である『舟を編む』みたいだと思った。
建築設計競技というそうだが、コンペに参加するとなると、設計図だけでなく、模型も作ったり、とにかく大変。
採用されるかどうかわからないのに、これだけのことをしなければならないのかとはじめて知った。
成長小説である。
先生はぼくの人生の師である。
先生の手紙には泣けた。
私もこのように終わりたい。
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