三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

松永和紀『食の安全と環境』1

2012年12月21日 | 

食の安全を守ることは環境の保全につながると思っていたが、そう簡単にはいかないことを松永和紀『食の安全と環境』を読んで知った。

トレードオフという言葉がある。
「一つの事柄だけに注目して解決を目指すと、知らないうちに別の問題が発生していることが世間にはよくある。こうした現象をトレードオフと呼ぶ。(略)
食料生産においては、トレードオフがひんぱんに発生している」

たとえば地産地消。
地産地消の売りの一つは「環境を守る」ということで、輸送距離が短くてエコロジーだということになっている。
だが、現実はそう単純ではない。
「輸送といっても、大量の化石燃料を消費する航空機で運ぶのと、燃料効率のよい大型船で時間をかけて輸送するのでは、環境負荷の大きさはまったく異なる」

1トンの貨物を1km運ぶために必要なエネルギーは、
航空 5291キロカロリー
トラック 699キロカロリー
鉄道 116キロカロリー
内航貨物船 67キロカロリー
外航コンテナ船 23キロカロリー

「数万トン級の大型船に何万トンもの穀物を乗せ大海原を運び日本に輸入し港の近くにある工場で加工して食品にする場合と、国内で古く小さなトラックに数十キログラムの農産物を乗せ数十キロメートル離れた加工場に届ける場合」とでは、どちらが温室効果ガス排出量が多いか。

生鮮トマトの多くは、温室栽培か雨よけ栽培(ビニールの屋根の下で栽培する)である。
地産地消と大型トラックで移出、温室栽培と雨よけ栽培、この4通りでのCO2の排出量を調べると、「輸送距離の違いはCO2排出量の大きな差にはつながっていない。それよりも、温室栽培によるCO2排出量がはるかに多かった」
温室栽培では冷暖房をするので石油を使うからである。

冬季に地元産の温室栽培トマトを食べるよりも、暖かい地域で加温せずに栽培されて長距離を運ばれてきたトマトのほうが環境にはよい。
「露地で栽培される旬の農作物はエネルギー効率が非常によいが、市場流通量が多く価格が低下し、生産者にとっては儲けが少ない。それどころか、流通量が多すぎて出荷調整しなければならなくなり、(略)そのために、生産者はなるべく旬の時期を外して出荷しようとし、ビニールハウスを建てて加温したり逆に冷房したりして栽培する」

国産小麦と北米産小麦でCO2の排出量を比較すると、食パン一斤あたりの原料小麦のCO2排出量は
北米産小麦 102グラム
国産小麦 103グラム
北米から約7900kmの距離を運んできたのに、なぜ国産小麦のほうが多いのか。

小麦は水分含有率が高いと加工しづらく、カビ毒の増加など安全面でも問題が大きい。
北海道は北米に比べて降水量が多く、小麦の水分含有率が高いので、化石燃料を使って乾燥させなければならないからである。

というわけで、各国の石油換算量1トンあたりの農業生産額を見ると、日本は先進国のワースト3位。
エネルギー効率はアメリカの5分の1、イギリスの7分の1である。

地産地消にはこういう問題もある。
畝山智香子・国立医薬品食品衛生研究所主任研究官の指摘。
「農産物は、その土地のミネラル分を吸収して育つので、特定の土地のものばかり摂取していると、必須ミネラルの不足や有害重金属の過剰摂取も起こりうる」

日本は土壌中のカドミウム量が比較的多く、農産物のカドミウム含有割合も外国に比べると全般に高い。
日本のコメのカドミウムの平均濃度は0.06ppmだが、アメリカは0.01ppm、タイは0.02ppm。
FAO/WHO合同食品規格委員会では1998年、コメの上限許容量を0.2ppmに強化する案が浮上したが、これでは国産米の数%が食べられなくなる。
日本国内で行っている0.4ppm未満を食用とするよう主張して、2006年、それが認められた。

「皮肉なことに、コメのカドミウム濃度が高くても、日本人が健康影響を心配せずにすむのは、コメを食べる量が減ったからだ。(略)日本人が再びコメを大量に食べるようになれば、カドミウムの摂取量は増え健康影響をもたらす可能性もあり、規制をより厳しくする必要が出てくるかもしれない」

私は食糧自給率を上げるためにはコメを食べればいいと思っていたが、間違いのようです。

畝山智香子「安全性の視点からは、世界中からあらゆる食品を輸入している現在の日本の状況の方が、リスクの分散ができているという意味で「より安全」と言えます」

こんな笑い話みたいな地産地消もある。
「中国地方の団体が地産地消活動の一環として、地元産のコメをレトルトパックのご飯にして売ることにした。だが、ご飯のレトルトパックは地元企業では作れないため、関東地方の企業にわざわざ地元のコメを持ってゆき加工したそうだ」

都会から地方の直売所に車で行って野菜などを買うことはエコの感覚を味わえる。
しかし、近所のスーパーに歩いて買い物するほうが環境にはやさしい。
「消費者の「気分のエコ」の対象となっているのは、地産地消ばかりでない。減農薬や有機農業、食品リサイクルなど、褒めそやされるさまざまな事柄をじっくりと検討していくと、多くの問題が隠されていることに気付く」

コメント (17)
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