三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

『息子がなぜ 名古屋五千万円恐喝事件』1

2012年07月12日 | 厳罰化

一読し、ぞっとしました。
2000年4月に発覚した、中学生3年生が同級生や先輩から総額5千万円を恐喝された事件の主犯とされる少年(白石康介・仮名)の両親へのインタビューをまとめたのが、『息子がなぜ』である。
被害者のつらさは言うまでもないが、加害者の家族になるもの大変である。

父は会社員、母は看護師、5歳上の姉と本人の4人家族。
両親が仕事で忙しい、父方の祖父母と同居していたが折り合いが悪くなって別居など、本人がぐれた理由はいろいろある。
しかし、たとえば子どもが悪い仲間とつき合い、学校をサボり、恐喝し、警察に補導されたとして、親はどの時点で、どう対処したらいいのか。
私にはさっぱりわからない。

中学校にも問題があったらしい。
母親によると、中1のころは先輩からいじめられていた。
「お金も取られていたようです。のちに、康介は警察の取調べのなかで、「中学一年生の頃から上級生に恐喝され、殴られていた」ということを語っています。数回で十万円ほどと、康介が松井君(被害者)から取った金額には遙かに及びませんが、扇台中学では伝統的に、上級生が下級生を恐喝し続けてきたのでした」
しかし、扇台中学校校長が事件を振り返った文書にはこうある。
「不登校生とも少なく、いわゆる「荒れた学校」ではないため、管理職を含めた教職員全体の危機意識が乏しくなっていた」
どっちが本当なのか。

家族が事件を起こすといかに大変か、『息子がなぜ』を読むとよくわかる。
姉の手紙「私がこの事件で思ったことは、心ない大人の人が多すぎるということです。自分の地位やお金のことばっかりで、人の心を何とも思わないような、人の人生を壊しても奪っても何とも思わないような人をいっぱい見ました。そんな人たちに弟をどうこう言う権利はないです。人間のふりして人間じゃないような人に私の弟を攻撃するようなこと、私の親を傷つけることを言ってほしくない。
そんな人たちに何にも何にも知らないくせに知ってるみたいに言ってほしくない。みんな「知る権利」とか言うけど、人の興味をそそるための知る権利と一人の人間の人生とどっちが大切か考えてみてほしい。そういうことをしたら、その人がどうなるか、その家族がどうなるか、考えてほしいです」

たとえばマスコミ。
姉の手紙「マスコミの人は勝手に家に入ってくるし、家の前で待ち伏せしてるから家入れないし、いろんなことをいっぱい言います。(略)
加害者の家族は、人権もプライバシーもぜんぶなくなってあたり前みたいで、みんなが死ねって言ってるみたいでした。実際、いっぱい言われたし、いっぱい脅迫された。(略)
毎日毎日マスコミの人と普通の人が怖かったです。
車をパンクさせられたり、男の人に追いかけられたり、そんな中で普通に生きていけるわけがありません」

4月5日に逮捕、4月6日に事件が報道されると、早速マスコミの一団が自宅を訪れ、電話もひっきりなしに鳴る。
近所の人は大迷惑である。
母親「私は今回の事件のこと、取材陣のことで迷惑をかけ続けていることが本当に申し訳なくて、近所の家を一軒一軒訪ねて歩き、お詫びしました」
母親のその様子をテレビ局が撮影し、放映している。

両親が中日新聞の執拗な取材要請を断りつづけると、中日新聞の記者はこう言った。
「取材を受けてもらえないと、一方的な情報ばかりになって、どういう記事になるか責任は持てません」

中日新聞は事件発覚から一年後に、事件の連載記事を掲載している。
両親は取材の申し込みを断ったのだが、記事にはこんな文章がある。
「時には電話で近況を聞いた。昨年秋、自宅の玄関先で会った母親は、思いのほか表情が明るくなっていて、ほっとした」
「「こんな手紙が来たんですよ」加害少年を励ます文面がつづられた匿名のはがきを、母親は笑顔で見せてくれた」(中日新聞2001年4月5日)
両親によると、記者と電話で近況を話したことも、手紙を見せたこともないそうだ。
「そもそも息子を励ます文面の手紙も、来たことがないのだという」
まるっきりの嘘なわけである。
マスコミ不信に陥るのも仕方ないと思う。

コメント (26)
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