三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

子どもの貧困 5

2011年06月17日 | 

高校中退者や、教師、保育士らから聞き取りから、高校中退は、本人の努力不足、根気のなさといった個人の資質にだけ問題があるのではなく、福祉の切り捨て、教育の市場化という政策が大きな原因だ、と青砥恭『ドキュメント高校中退』は指摘する。

以前、荒れた高校を1年で変えて、退学者を減らし、入試倍率が高くした、という校長先生のお話を聞いた。
『ドキュメント高校中退』を読んでいたので、そんなにうまくいくものだろうかと思った。
知人の話だと、退学者を減らすためには定時制高校への転校という形にすればいいし、入試倍率を高くするためには推薦入学の枠を増やせばいいそうだ。
その校長先生がそういうやり方をしたとは思わないが、『ドキュメント高校中退』によると、底辺校の教師はとにかく大変である。
授業の前に、まず生活指導をしなければいけない。
「廊下に座り込んでいる生徒を教室に入れる。次に、教室で化粧している生徒に教科書をださせる」
授業を始める前にエネルギーを使ってしまうのである。
そもそも教師は忙しくて、少人数のクラス編成になっても教師は増えず、会議や研修の時間が放課後になる。
「「一人の生徒に一人の教師が必要」と思えるほど生徒たちは様々な困難を抱えて生きている。そのような生徒を数十名抱えて教師たちは孤立した闘いを強いられているように思える」
小学校の事務をパートでしている人が「先生の帰る時間は8時、9時で、女の先生でも遅い。小さい子どもがいる先生はどうしているんだろう」と言ってた。

大変なのは教師だけではなく、福祉予算の削減されたため、保健師や児童福祉司、保育士などは人員が減り、一人あたりが担当するケースが多すぎるそうだ。

国としては、貧困の連鎖という悪循環を断つためには、貧困を克服して学力向上する政策が必要になる。
ところが阿部彩『子どもの貧困』によると、国の支出が少ない。
日本の家族関連の社会支出は国内総生産の0.75%で、スウェーデン3.54%、イギリス2.93%などと比べると低い。
教育関連の公的支出も国内総生産の3.4%であり、北欧諸国は5~7%を教育につぎ込んでいて、アメリカさえ4.5%である。
そもそも日本の教育費は高いうえに、入学費、授業料の他にも、制服、教科書代、教材費、修学旅行などがいる。
「OECDの調査でも、日本は世界で教育費がもっとも高額な国である」
義務教育レベルで「貧困の不利」を表面化しないようにするためには、
「教育費や修学旅行費といった、学校生活に必要な諸経費の無料化、または支援が不可欠であろう」と青砥恭氏は言う。

大阪府は授業料の減免の認定のハードルが高くなっているそうだ。
大阪府のある高校では、経済的な理由で授業料を全額免除を166人が申請し、131人が認定され、9人が半免と認定された。
落とされた26人の家庭には授業料を支払う経済力はない。
おまけに、2004年度からはクーラー使用料を年間5400円徴収しているが、クーラー使用料は減免措置がなく、未納者は授業料未納と同じ扱いになる。
「日本の教育行政には、全国学力テストにかかる60数億円の経費を、教育から排除される子どもたちを救うために使おうという発想はない」

もちろん、国がお金を出せばそれで問題が解決するというようなわけにはいかない。
阿部彩氏は「貧困世帯の子どもが抱える学力問題は、教育費の少なさだけから発生しているわけではない」と言う。
「子どもの学力が、家庭環境に影響されているのであれば、無償教育だけでは、貧困の子どもの不利は改善されない。たとえ政府が高校・大学を全額無料としたとしても、家では両親がいつも不在であり、誰も「宿題をしなさい」という人がいない状況で子どもが育っているのであれば、進学するだけの学力が身につかないかもしれないのである」
学習する意欲や能力を引き伸ばし、家庭の経済問題から派生する諸問題を解決するにはどうすればいいのか。
十分な所得保障と機会の平等の確保(教育費の無料化など)、親や養育者に対する仕事と育児の両立支援が必要だと、阿部彩氏は提案する。
なんにせよ、やっかいな問題だということは、私の見聞した範囲でも感じることです。

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