三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

ガス・ヴァン・サント『ミルク』と創造論者

2009年04月28日 | キリスト教

ガス・ヴァン・サント『ミルク』を見る。
今年のベストテン候補である。
ハーヴェイ・ミルクは1977年にサンフランシスコ市の市会議員に当選した。
ゲイであることを公表して当選したアメリカで初めての公職者である。
しかし、1978年に同僚議員によって市長とともに射殺された。
70年代には同性愛は病気であるとされ、同性愛を理由に職業を解雇されることも珍しくなかった。
カリフォルニア州議会議員ジョン・ブリッグスは、カリフォルニア州内の公立学校から同性愛の教師および同性愛者人権を擁護する職員を排除するという提案をする。
ハーヴェイ・ミルクたちはそれに反対し、提案は住民投票によって否決された。
ブリッグス議員は「同性愛は違法にすべきだ」とも言っている。
同性愛者には公民権を認めないという動きはアメリカ各地で行われていて、その運動の広告塔が歌手のアニタ・ブライアントである。
なぜそんなに同性愛者を嫌うのかというと、神が認めていないからという理由。

で連想したのが、マイクル・シャーマー『なぜ人はニセ科学を信じるのか』に詳しく書かれている、創造論者が創造科学を公立学校でも教えるべきだという運動である。
これはアニタ・ブライアントたちが同性愛者の人権を奪おうとする動きと軌を一にしている。

創造論者とは?
「一般的に、創造論者というのは、聖書の記述をそのまま受け取っているキリスト教原理主義者を指す―たとえば創世記に天地創造が六日間の出来事だったと書かれていれば、それは24時間の六日分を意味する。当然ながら、さまざまな種類の創造論者にわけることができる。「若い地球」派は、創造の一日は24時間だったと解釈しているが、「老いた地球」派は、聖書の時間の流れは地質学的な時代のたとえだという説をすんなり受けいれている。また隔絶派ともなると、最初の天地創造と、人類や文明の発生のあいだには時間的な隔絶があると認めている」

そういう人がいるんだなという話ではない。
「1991年のギャラップ調査によれば、アメリカ人の47パーセントが、「過去一万年以内に、神がいまとそっくりの人類をつくった」と信じているという。また、「人類は原始的なレベルから数百万年以上の時間をかけて進化してきたが、その創造を含めて、すべての流れは神によって導かれたものだ」とする中道的な意見は、40パーセントを占めていた。わずか9パーセントの人々だけが、「人類は原始的なレベルから数百万年以上の時間をかけて進化してきた。神はそこになんら関与してはいない」と信じている。そして残りの4パーセントは「わからない」と答えている」

1996年、ヨハネ・パウロ二世でさえ、進化論を動かしがたい自然界の理法だと認め、科学と宗教には争いなどないことを示している。
なのに、アメリカ人の87%が創造論者とはとてもじゃないけど信じられない話である。
こんなことをまともに信じているのはエホバの証人だけではないわけだ。
アメリカでは、イエスを救世主として認める者のみが救われ、あとは永遠に地獄で苦しむと信じているキリスト教徒がほとんどだということになる。

なぜ進化論を嫌うのか?
「アメリカの道徳観と文化をおとしめるあらゆるものの根源であり、ゆえに子供に悪影響をおよぼす」
さらには
「科学的事実の進化論的解釈が結果として、法と秩序の大規模な退廃をまねいたことを明らかにしている。その因果関係は、進化論的な思考様式をもった人々の一部に生じる、健全な精神にやどる道徳観の崩壊と幸福感の喪失が源となっている。すなわち、離婚であり、妊娠中絶であり、氾濫する性病などがそうだ」

「進化論は、人間至上主義の悪の部分、つまりアルコール、妊娠中絶、カルト、性教育、共産主義、同性愛、自殺、人種差別、猥褻な書籍、相対主義、麻薬、道徳教育、テロ、社会主義、犯罪、インフレ、非宗教主義、そのうえいちばんの悪徳であるハードロック、そしてじつにけしからん子供と女性の権利の容認といったものとともに滅びるべきだ」
アニタ・ブライアントたちが同性愛者の人権を認めないのは別に驚くことでもないのである。

1923年、オクラホマ州は教師や教科書が進化論にふれないという条件のもと、無料の教科書を学校へ配布する法案を可決し、フロリダ州は進化論教育禁止令を可決した。
1925年、テネシー州は州内のあらゆる大学、公立学校で教師が神による人類創造を否定するいかなる説を教えることも違法とする法律が可決された。
「創造論者の言い分によれば、進化論に基準をおく生物学を認めないだけでなく、初期の人類の歴史にほとんど触れることもせず、宇宙論や物理学、古生物学、考古学、地質学、動物学、植物学、生物物理学の大半を否定しているのだ」

こんなことでは科学教育の水準が低下してしまう。
1957年、ソ連の人工衛星打ち上げがきっかけとなり、アメリカでは科学教育振興の動きが起こり、進化論も学校教育の場に復活した。
原理主義者たちは公立学校から進化論を排除しようとしたが、進化論を教室から閉めだせなかった。
1960年代末から70年代初頭にかけて、原理主義者は創世記の記述と進化論に同等の授業時間をさくことを要求し、進化論は事実ではなく単なる仮説にすぎないと記載されるべきだと主張した。
宗教上の教義を教えることが憲法違反となれば、公立学校に入り込むために創造論は科学であると主張され、創造科学は「宗教色のない科学的証拠にもとづいている」から進化論と同じように授業で取りあげらるべきだと圧力をかけつづけた。
1981年アーカンソー州で、1982年ルイジアナ州で、「創造科学と進化論は学校教育の場では平等なあつかいを受ける」ことが法律で定められたが、どちらも憲法違反であるという判決が出ている。
1986年、ルイジアナ州の「創造科学と進化論の均等教育法」の合憲性の判断が最高裁で行われ、違憲判決が出た。
アメリカの驚くべきところは、こういうトンデモを信じる人がいかに多くても、また差別や迫害を善意でする人が多くても、『ミルク』のような映画がハリウッドで作られ、アカデミー主演男優賞をとるということである。

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