三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

松本仁一『アフリカ・レポート』と映画

2009年04月09日 | 

ロス・カウフマン、ザナ・ブリスキー『未来を写した子どもたち』は、女性カメラマンがコルカタの売春窟で生まれた子どもたちに写真を教え、学校に入れることで、親たちとは違う人生を歩ませようとするドキュメンタリー。
女性カメラマンの熱意には頭が下がるが、しかし残酷な映画である。
子どもたちに未来はないし、未来がないことを子どもたちは知っているからである。

松本仁一『アフリカ・レポート』に、
「この大陸の多くの国では政府指導者が腐敗し、そのため国民が犠牲になっているのである。そんな国に生まれてしまった国民は不運としかいいようがない」
とあるが、インドの売春窟に生まれてしまった子どもたちも不運としか言いようがない。
単に親の責任とは言えない。
いくらインドが経済発展しようとも、インドの貧しい人たちは貧しいままだろうし、これから100年たってもアフリカの国々の政治の腐敗、先進国の搾取、国民の困窮は変わらないのかとため息が出る。

米川正子氏によると
「1998年のコンゴ紛争以降暴力、病気、飢えなどに襲われ命を失った人の数は実に540万人にのぼります」(国連UNHCR協会ニュースレター)
ナチス政権下で虐殺されたユダヤ人は約600万人である。
ユダヤ人虐殺を知っていても何もしなかったように、
コンゴで行われていることを何とかしなければと本気で思っている国があるのだろうか。

サハラ以南のアフリカには48の国があり、大きく分けて四つのタイプがあると松本氏は言う。
①政府が順調に国づくりを進めている国家
②政府に国づくりの意欲はあるが、運営手腕が未熟なため進度が遅い国家
③政府幹部が利権を追いもとめ、国づくりが遅れている国家
④指導者が利権にしか関心を持たず、国づくりなど初めから考えていない国家
①に該当するのはボツワナぐらい、②がガーナ、ウガンダ、マラウイなど10ヵ国程度、③がアフリカでは一般的でケニア、南アなど、④はジンバブエ、アンゴラ、スーダン、ナイジェリアなど。

ジンバブエでは農業生産が安定し、輸出するほどだったが、政府は90年代半ばから農業に無関心になり、農業は荒廃した。
これはジンバブエだけではない。
アフリカの国の多くはかつては農業輸出国だったのに、今は輸入国となってしまった。
なぜこれらの国では農業に関心を払わなくなったかというと、農業は大きな利権につながらないからだという。
つまり、腐敗した指導者は利権にしか興味がないのである。

指導者がなぜ腐敗するのだろうか、松本氏はこう指摘する。
一つは部族の問題、部族の対立。
アフリカでは多民族国家がほとんどで、選挙は出身部族の人口比で決まってしまう。
「その結果、国益より部族益が優先されるケースが多い」
「アフリカのほとんどの国で、指導者は、自分の部族に属するもの―地縁・血縁者―に国家利益を分配し、それによって自分の地位の安定を図っている。その結果、国づくりが放置される」
「国民が部族への帰属感を強く持ち、国家との一体感が薄い状態があると、権力者の腐敗をとがめる者がいなくなる」

そうして、「利権を握る指導者のグループと、利権から排除されたグループとの対立は激化する」ことになり、これが内戦と結びつく。

二つは、指導者に外部からの攻撃に対する強い危機感がなかった。
だから利害を超えてまとまることができない。
経済不振などの問題が生じれば、指導者は「敵」をつくり出すことで不満をすりかえる。
ジンバブエだと、「生活が苦しいのは白人のせいだ」ということにし、ルアンダでは「ツチ族のせいだ」というので虐殺が行われた。

そうしてお金は政府幹部のふところと融資をする旧宗主国や先進国に流れ、国民は貧困にあえぐことになる。
旧宗主国や先進国が融資してダムや道路などを作る、あるいは資源を開発し、その工事は自分たちが請け負い、自国民が働くので、外国から融資を受けても金が自国にまわらないし、地域住民に還元されないという新植民地主義。

トム・ティクヴァ『ザ・バンク 堕ちた巨像』は、IBBCという反政府ゲリラに融資して紛争を起こし、その国を支配しようとする、なんてことをするあくどい銀行が悪役。
IBBCは経営破綻した国際商業信用銀行(BCCI)がモデルなんだそうだ。
内戦でもうけている国や会社があることは事実である。

2004年、中国はアンゴラにODA名目で20億ドルを融資し(住宅建設、道路、鉄道の補修)、アンゴラは石油で17年かけて返済するという契約が結ばれた。
そのプロジェクトのほとんどすべてを中国の国益企業が受注し、労働者を中国から連れてき、設備や資材も中国から運んだ。
アンゴラ人は雇われず、アンゴラに金は落ちず、20億ドルは中国に還流した。
スーダンで生産している原油の86%が中国向け。
スーダンに住む中国人は3万人いて、そのうち2万人は石油採掘施設や製油所など中国政府系の石油プロジェクトで働いている。
なるほど、アフリカで中国が影響力を持っているのはこういうことなのかと納得。

日本人だって他人事ではないわけで、米川正子氏は
「資源を狙い、多数の国と企業がうごめき、国内外の武装勢力が莫大な利権をめぐり争いに明け暮れているのです。住民たちは邪魔者として追い払われ、あるいは人質に取られ、子どもまでも兵士として教育され、女性はレイプされています。こうした暴挙に日本も無関係とはいえません。私たちの使う携帯電話やノートパソコンに不可欠な希少メタルは、武装勢力の下で奴隷のように働かされている、この国の貧しい人々が掘り出したものなのですから」
と書いている。

アフリカでは警官や教師といった国の根幹を守る人たちは低賃金の給料すら払ってもらえないことが多い。
となると、治安は悪くなるし、仕事の効率は悪いし、次世代が育たない。
で、ますます国が不安定になるという悪循環。
子どもが教育を受けられないということは未来が作られないということでもある。
「アフリカの多くの国がいま、独立の意義を失っている。治安が守れないだけでなく、兵士や警官、教師など国の基本となる公務員の給料さえ遅配・欠配が続く。その結果、国づくりの中核となるべき中産階級や、教育を受けた医師や法律家などの専門職までが国外に流出していく」

自国で仕事がなく働けないとなると、外国に行くしかない。
フランスに住む外国人は1990年には約360万人、その45%がアフリカ人だったが、1999年には外国人が約431万人でアフリカ人は50%を超える。
ロンドンの病院では看護師の多くがケニア人女性。
「ケニアは、せっかく育てた看護師をイギリスに奪われているのだ」

このことについても日本だって同じことをしている。
ニートの自立支援に関わっている人からこういう話を聞いた。
日本は少子高齢化だから、これから労働人口が減って日本経済の活力が減退する。
そこで外国から日本に働きにきてもらうという動きがある。
インドネシアから看護師や介護士がすでに来ているし、生産現場にブラジルなどから大勢来ている。
経済産業省では「アジア人財資金構想」という事業をやっていて、アジアの国から日本に留学している大学生、大学院生に、卒業したら自国に帰らずに日本で就職してもらおうというはたらきかけをしている。
この話を聞いた時にはいいことだと思ったのだが、『アフリカ・レポート』を読み、「アジア人財資金構想」は途上国から人材という材料を輸入するようなもので、日本のことしか考えていない自分勝手な発想だと思う。

アフリカでも、国に期待するのではなくて、やる気をうながし、自力で生活の向上をめざす動きが民間から生まれはじめたという。
ジンバブエのORAPはジンバブエ人によるNGO。
ORAPの特徴は「ただで物を配る援助は絶対にやらない」という点にある。
農民自身が運動の主体となって自立することを目的とする。
「私たちがやっているのは、人々がやる気を起こすように仕向けることなんだ」
「ただの援助はだめだ。苦労して手に入れた物なら誰だって大切にする」

ソマリアから独立したソマリランド(もっともどの国からも承認されていない)では、部族の長老たちの呼びかけで、民兵が武装解除している。

アフリカで活躍する日本人もいて、ケニアで「アウト・オフ・アフリカ」というブランドを作った佐藤芳之氏。
すぐれた人材を採用しているわけではないし、とりたててエリート教育をしているわけでもない。
「がんばって働けばいい暮らしができるという励み、働く励みになるものを、目に見える形で示すことが大切だ」
と佐藤氏は言っている。
給料はきちんと払うし、真面目に働けば昇給、昇進する。
ウガンダの柏田雄一氏は衣料メイカーで、1964年からウガンダで働いている。
アミン大統領の暴政から逃れ、新政府の国有化策で出国し、いずれも新規からやり直している。

柏田氏が何度も一からやり直し、ORAPがジンバブエ政府からの嫌がらせを受けているように、民間からこうした動きが生まれても、政府が気に入らなければつぶされてしまう。
政治が変わらないといけないと思うのだが、やっぱり無理なんだろうか。

コメント
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