三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

湯浅誠『貧困襲来』『反貧困』 1

2009年02月21日 | 

湯浅誠氏の講演を聴いて大変おもしろかったので、湯浅誠氏の著作『貧困襲来』『反貧困』を読む。

湯浅誠氏は「働いているのに食べていけない」という相談が増えたと言う。
ワーキング・プアとは、憲法25条で保障されている最低生活費(生活保護基準)以下の収入しか得られない人たちのことである。
最低生活費は、東京二三区に住む20代、30代の単身世帯だと月額13万7400円、夫33歳、妻29歳、子4歳の一般標準世帯だと22万9980円。
大都市圏で年収300万円を切る一般標準世帯がワーキング・プアということになる。
年間を通して働いているのに年収200万円未満という人が1000万人を超えていて、総世帯数の18.9%。
貯蓄なし世帯は23.8%である。
ちなみに、平均所得金額は563万8000円。
国民健康保険料の長期滞納者34万世帯のうち、年収200万円未満が67%。
過去一年間で、具合が悪いところがあるのに医療機関に行かなかったことがある低所得者(年収300万円未満、貯蓄30万円未満)は40%、深刻な病気にかかった時に医療費が払えないと不安をもつ人は84%。
600万人から800万人が生活保護制度から漏れている。
雇用保険に加入していない労働者が増え、1982年には59.5%が失業給付を受け取っていたが、2006年には21.6%。
厚生年金、雇用保険、健康保険、労災保険といった社会保険のセーフティネットに穴が空いてしまっていて、一度貧困に落ちると元にはなかなか戻れない。
もっとも、『貧困襲来』の発行が2007年7月、『反貧困』は2008年4月発行だから、現在の状況はいっそうひどくなっているはずだ。

ワーキング・プアという言葉を使いたくない、「働く貧困層」と言うべきだと湯浅誠氏は言う。
ニート、フリーター、ホームレスなどにしてもそうだが、カタカナだときれい事になって、生活保護を受けながらパチンコをしている人、昼間から酒を飲んでいるホームレス、まともに働かずに気楽に生きているフリーターetc、そういうふうに見てしまいがちである。
実態が見えなくなってしまう。

「〈貧困〉というのは、お金だけの問題じゃない」
がんばれなくなっている人に「自分たちもがんばってきたんだから、お前もがんばれ」という言い方をし、自己責任論によって切り捨ててしまう。
しかし、今までは国が守ってくれない分、企業と家族が守ってくれたわけで、一人でがんばってきたわけではない。
「企業と家族に助けられてきた人たちは、立派に日本型福祉を受けてきた。けっして「一人でがんばって」きたわけではない。十分に支えられ、守られてきた」

現在は企業や家族からも排除されている人が増えている。
企業は社宅などの福利厚生を大幅に削っているし、家族も支えきれなくなっている。
いざとなると頼れる人がいる、たとえば家族と暮らしている人と、自分のアパートさえなくて寮やネットカフェを転々としている人とでは、月収10万円でも、その生活は違う。
ネットカフェ難民調査によると、「困ったことや悩み事を相談できる人はいますか」という問いに対して、「親」と答えたのは2.7%、「相談できる人はいない」が42.2%。
「多くの場合、自分の想定する範囲での「客観的状況の大変さ」や「頑張り」に限定されている」「得てして自他の〝溜め〟の大きさの違いは見落とされる。それはときに抑圧となり、暴力となる」
国、社会、企業、家族が支えてくれなくなって、最後のセーフティネットが刑務所というのが現況である。

貧困はその人だけの問題ではない。
貧困かどうかを公式に決めるのは、日本では生活保護が基準となる。
生活保護以下の収入で生活している人がいる、本当に必要ではない人まで生活保護を受けている、生活保護を受けているのにパチンコばかりしている人がいる、だから生活保護費を引き下げるべきだという意見がある。
これは間違い。
「最低生活費の切下げは、生活保護受給者の所得を減らすだけには止まらない。生活保護基準と連動する諸制度の利用資格要件をも同時に引き下げるため、生活保護を受けていない人たちにも多大の影響を及ぼす」

最低生活費としての生活保護基準を基点として低所得者向けサービスが定められている。
たとえば公立小中学生の13%が受けている就学援助は、多くの自治体で収入が生活保護基準の1.3倍までと設定している。
地方税の非課税基準も生活保護基準を下回らないように設定されている。
「低所得者向けサービスを受けられなくなった世帯にとって、それは実質的な負担増を意味する」
生活保護費を引き下げることは、150万人の生活保護受給者だけの問題ではないのである。

貧困と児童虐待・進学・自殺・自己破産などとは関係がある。
児童虐待であるが、3都県の児童相談所で一時保護された510件の中、生活保護世帯・市町村民税非課税・所得税非課税の家庭は44.8%。
リーロイ・H・ベルトン氏はこう断言している。
「20年以上にわたる調査や研究を経ても、児童虐待やネグレクトが強く貧困や定収入に結びついているという事実を超える、児童虐待やネグレクトに関する真実はひとつもない」
「児童虐待やネグレクトを減らすためには、少なくとも貧困ラインの上まで家族の収入を増やす」
ことだ。

生まれ育った家庭の貧困は子どもの学歴にも影を落としている。
大学卒業までの子育て費用は1人あたり平均2370万円かかる。
生活保護世帯の高校進学率は約70%。
「貧困家庭の子どもは、低学歴で社会に出て」「低学歴者に不利益が集中し、そのまま次世代に引き継がれてしまっている」、つまり貧困が親から子へと連鎖しているわけである。

自殺も貧困と無関係ではない。
遺書を残した自殺者1万446人の中で「経済・生活」を自殺の理由としている人が3010人いることから、3割の約1万人が生活苦を理由として自殺していると推計されている。

多重債務者も同じ。
 自己破産した人の借入れの要因
生活苦・低所得24.47%
病気・医療費  9.06%
失業・転職    7.17%
給料の減少   4.65%

 破産申立者の月収
5万円未満   33%
5万円以上10万円未満14%

つまり、貧困が原因でサラ金から借り、自己破産した人が半数なのである。
サラ金から借りなくても生活が成り立つなら、サラ金に手を出さない。
「結局「借りた金は返さなきゃいけない」という律儀な人たちが、高すぎる違法金利を支払っていることを知らないまま、少ない所得の中からお金を返しつづけて、〈貧困〉に陥っている」
「その人たちは、自己破産しても、またどこかからお金を調達しないと生活できない。でも一度自己破産したら、もうサラ金はお金を貸してくれない。お金を貸してくれるのは、はるかに高い金利をむさぼるヤミ金だけだ」

というため息状態はどんどん加速しているわけです。

コメント (13)
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