三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

永沢光雄の本

2009年02月06日 | 

永沢光雄『風俗の人たち』にこんなことが書いてある。
「永沢さんの文章って実用的じゃないですよね。あれを読んで風俗に行きたいなんて絶対思いませんもん。第一、ピンサロの店長の生い立ちなんか読んで喜ぶ人なんているんですか」
たしかに「××ちゃんの濃厚プレイにあえなく昇天」なんてことは全然書かれていないし、池袋の立ち飲み屋の話なんて風俗とはまったく関係ない。
インタビューしている永沢光雄氏自身がぼやき、インタビューされてる店長がぼやく。
実用性はないからこそ、筑摩書房というお堅い出版社から本が出たわけでもある。
この本は90~96年に雑誌に連載されたもので、バブルの崩壊とエイズ騒動で風俗の客がごそっと減った時期である。

永沢光雄氏のぼやきの絶妙さ、風俗の店長の愚痴、これを小説化したら直木賞ぐらい簡単に取れそうだと思った。
で、『すべて世は事もなし』という短編集を読む。
ぼやき小説もあるが、泣かせるちょっといい話が多い。
登場人物がいい人すぎて現実感がない話もある。
男二人、女一人の聖三角関係の話など。
でも、これは永沢光雄氏の願望という気がする。
というのが、永沢光雄氏は風俗やAV女優のことを書いているんだから軽いのかと思っていたからである。
ところが、『声をなくして』を読んで、永沢光雄氏は重たいものを抱えていたんだなと知った


永沢光雄氏は2002年、下咽頭がんの手術で声帯を除去したために声を失う。
2005年、闘病生活を綴った『声をなくして』を出版した。
そして、2006年にアルコールによる肝機能障害のため死去、47歳。
この人はもうじき死ぬんだとわかって読む『声をなくして』は重たい。
ガン患者の闘病記だから重たいのではなく、永沢光雄氏はウツ病でアル中。
とにかく飲んでばかりいる。
一種の自殺ではないかというぐらい飲む。
「いずれ、何かの形で書くつもりだが、私の家も相当なものだった。血、涙、叫び。血、涙、叫び」
あとがきがまた重たい。
夫を気づかいながらも、夫の好きにさせている妻の思いも伝えている本である。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする