「同朋新聞」7月号と8月号に森達也氏のインタビューが載っている。
その中で森達也氏は、昨年の殺人の認知件数が戦後最低なのに報道されていない理由をこう語っている。
「たぶんその理由は、ずっとここ二十年、危機管理が強化されてきて、政府としてもセキュリティ関連の人員をどんどん増やしていますから、その予算獲得の必要があります。あとは警察の天下り事情です。監視カメラひとつとっても協会がいくつもあるし、関連団体もあるし、それをつくっているメーカーもある。あとは自警団や保安協会とか、セキュリティ業界が花盛りなんです。
もし「治安がよくなった」と公にすると、その経済が一気に冷え込んでしまいますよね。、治安が悪いと思ってくれていたほうが都合がいい」
「政治家にとって実は、不安や恐怖は管理や統治をするうえでとても好都合な潤滑油です」
では、メディアはなぜ伝えないのか。
「不安を煽ったほうが視聴率は上がるし部数は伸びる。だからメディアでは死刑判決をもっと増やせ、これだけ犯罪が増えている、明日はわが身だと、不安や恐怖を煽ります」
つまり、儲かるか儲からないか、損か得かの論理だというわけである。
では、「交通事故では年間八千人が亡くなっている。殺人事件で亡くなる人は年間千人以下です。実質的には六百人くらい。交通事故の十分の一以下です。でも車をなくせとは誰も言わない」のはなぜか、森達也氏はその理由としてこう言っている。
「なぜなら交通事故の場合は、憎むべき加害者が基本的には存在していないからです。つまり今のこの世相の本音は、被害者遺族への共感というよりも、犯罪者への恐怖や加害者への憎悪のほうが大きいと僕は考えます」
これは違うと思う。
交通事故で死ぬ人を減らすために車をなくせ、という声が出ないのは、これまた儲かるか儲からないか、すなわち車が売れなくなれば困るからではないだろうか。
幕張メッセで行われた9条世界会議の「9条の危機と未来」というシンポジウムで、コーディネーターの湯川れい子氏が「誰がなぜ憲法9条を変えようとしていると思うか」という質問をしたら、香山リカ氏だけが「なぜ」という問いに答え、「日本の国力に自信が持てなくなった政治、資本家たちが失いつつある力を補強するための「精力剤」のようなものだ」と答えたそうだ。
誰がなぜ9条を変えようとしているのかという問題も、儲かるか儲からないかで考えたらいい。
前に高岩仁『戦争案内』を紹介したが、戦争で儲ける人が戦争で儲けるために9条を変え、日本を戦争のできる国にしようしているんだと思う。
改革とかなんとかいうのは、日本をよくするためというよりも、誰かが儲けるから行うのだとしか思えない。
そして、改革で儲けることのできる人が政策を決定するわけで、そうなると儲かるか儲からないかが判断基準となってしまう。
規制緩和がそのいい例で、儲けにあずからない人は規制緩和によって泣いている人たちである。
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