三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

管賀江留郎『戦前の少年犯罪』 1

2008年08月18日 | 厳罰化

去年の11月に図書館に予約していた管賀江留郎『戦前の少年犯罪』をやっと借りることができた。

近ごろは親が子を殺し、子が親を殺すような、以前だったら考えられない事件が次々に起こる、どうなっているんだ、とよく言われている。
しかしながら、「戦前は数も質も遙かにひどい少年犯罪があふれていた」ことを実例をあげて説明する本書を読めば、それは誤解だということがわかる。
「(戦前には)貧困ゆえの犯罪などほとんどなく、むしろ金持ちの子どもが異様な動機から快楽殺人を犯したり、ささいなことでキレて頭が真っ白になってめった突きにするような事件が多かったり、親殺しや兄弟殺し、おじいさんおばあさん殺しなんてのも次々起こっていたことが理解していただけたのではないでしょうか」

『戦前の少年犯罪』は戦前における未成年の犯罪を数多く紹介しているだけではない。
表紙の惹句に
「なぜ、あの時代に教育勅語と修身が必要だったのか?
発掘された膨大な実証データによって
戦前の道徳崩壊の凄まじさがいま明らかにされる!
学者もジャーナリストも政治家も、真実を知らずに
妄想の教育論、でたらめな日本論を語っていた!」

とあるように、「昔に比べて今は」という教育論、社会論に異議を申し立てている。
本書を読んだ人は戦前のイメージが変わると思う。

『戦前の少年犯罪』の一番最初に紹介されているこの事件を読むと、まず、あれっと思う。
「(昭和4年)男子(9)が隣家の男の子(6)を射殺。母親が三時のおやつにモチを出してくれたが、焼き方が悪いとわがままを云って食べなかった。そこへ遊びに来た六歳が「おまえが食べねば、わしが食べてやろう」と食べ出したので怒って、「毒が入っているのだから死ぬぞ」「撃ち殺すぞ」などと脅したが、「撃ってもよい」と六歳が云い返したので、父親の猟銃で頭を狙い撃ちしたもの」

9歳が6歳を射殺したということもさることながら、「モチが焼き方が悪い」とわがままを言って食べなかったことに驚く。
昔は躾が厳しかったし、貧しかったので食べ物を粗末にするようなことはなかったなどと言われているが、実際はそうでもなかったらしい。
「昔の親はこういう具合に、子どもが食べ物を粗末にしてもケンカしてもほったらかしでした。放任主義が普通のことで、躾だとかうるさく云うようになったのはつい最近の話です」

で、躾から見ていくと、「銀座の一流レストランのなかを四人の子どもがサルのように走り回ってナイフで壁を叩いているのに立派な身なりをした両親はやめさせようともせずにやりたい放題やらせている」というの文章を読むと、「最近の親は子どもを叱らない」と言われそうであるが、ところがこれは昭和8年の話である。
永井荷風はこのことを日記に書いているそうだ。

躾というと、体罰を肯定する意見を耳にするが、日本ではもともと体罰をしなかったという。
「江戸時代は藩校や寺子屋などの学校でも体罰はほとんどなかった」
「子どもを厳しく躾ける西洋や中国とは違って、自由にのびのびと育てるのが日本の伝統です」

そういえば、幕末から明治にかけて日本に来た西洋人の旅行記を読むと、日本人が子どもを甘やかし、叱らないことに驚いている。
「体罰を加えたりするのは教え方が下手だ」というような意識もあったそうだ。

でも、年配の人から、小学校のころは先生が生徒を殴るのは当たり前で、生徒も親も当然のこととして何も言わなかった、とよく聞いているので、ほんまかいなとは思う。
その点について、本書では、「体罰禁止令は戦前の学校では一貫していましたから、教師が体罰事件を起こすと訴訟だなんだと大騒ぎになっていました」として、実例をいくつも紹介している。
さらには、生徒は教師をなめているので学級崩壊もあったとか、逆に教師が生徒に殴られることもしばしばとなると、どういうことなのかと頭をひねってしまう。
とは言っても、教師の暴行によって死んだ子どもたちもいる。
うーん、実際のところはどうだったのだろうか。

そして、子どもたちはすぐキレるので、小学校での殺人も珍しくない。
「とにかく、戦前の小学生はキレやすく、簡単に人を殺していた」
親殺しも多く、「何紙か読むだけで年に30件や40件の親殺し記事を見つけることができます」
今の子どもはキレやすい、テレビゲームの影響だとか、環境ホルモンのせいだとか言う人がいる。
ところが、戦前はそんなものはなかったのにキレる子どもが多かったわけだ。
ということは、子どもというものは本来、感情を抑えて行動することができず、キレやすいということだろう。

だから、いじめもすごい。
昔は殴ったりいじめたりするにしても程度をわきまえてやっていた、と言よくわれる。
ところが、いじめで殺される子が珍しくない。
いじめっ子に対して復讐殺人をする子もいる。
「戦前のいじめは壮絶でした。女の子に対しても集団で情け容赦なく存分に暴力を振るいます。昔の子どもは限度というものを知りません」

「こういうことをやっていた世代が、自分たちの時代は集団でいじめなんかしなかったし限度を知っていたとか云い出すんですから」
殴られた者は殴られたことをいつまでも忘れないが、殴ったほうはすぐに忘れてしまうという。
昔は程度をわきまえていた、と言ってる人は殴った側なのかもしれない。

さらに驚くのが、援助交際もあったし(裕福な家の子がしている)、教師が生徒と関係することも日常茶飯だったし、未成年者による幼女レイプ殺人も決して珍しくないこと。
戦前は躾が厳しかったとすると、躾はあまり効果がないことになってしまう。
というふうに、『戦前の少年犯罪』は教育論にも関わってくる本である。

著者は「少年犯罪データベース」というサイトの管理人である。
こちらには戦後についても書かれてある。
『戦後の少年犯罪』という続編を期待したい。

         
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