「体感治安の悪化」が言われている。
治安が悪化していると感じるということだが、実際には治安は悪くなっていないし、犯罪も増えていない。
体感治安の悪化にはマスメディアの責任が大きい。
平川宗信中京大教授がこういうことを話している。
以前だったら新聞の第一面に事件報道が載ることはまずなかった。
一面トップは政治記事、その次は経済、そして犯罪報道は三面記事だった。
ところが、いつの間にか、第一面に犯罪事件が載り、場合によっては事件の捜査経過までがトップ記事となっている。
治安は悪化していないのに、犯罪に対する漠然とした不安や怖れを感じているということ、これは、小さいころ夜中に一人で便所に行くのが恐くて、何か出るんじゃないかと恐がったのと同じことである。
実際にはないもの(おばけ、治安の悪化)を自分で作り上げておびえる。
広島女児殺害事件から1年たったということもあり、11月23日の毎日新聞に事件に関連する記事があった。
女児が通っていた小学校では、事件後から地域住民が通学路に立ち、保護者らが付き添っての集団登下校を今でも続けている。
小学校に通う子どもたちの母親は、
「最近は日が暮れるのが早いので、あまり外で遊ばせないようにしている」
「不審者情報が絶えないので、不安は今も残っている」
などと語っている。
子供の帰りが遅いと、何かあったのではと心配になる気持ちはわかる。
しかし神経質すぎるのではないか。
これから犯罪をしようと考えている人が、いかにも怪しい格好をし、不審な行動をとるとは思えない。
不審者情報にどれだけの信頼性があるのか。
浜井浩一龍谷大教授の話だと、知的障害者や自閉症、あるいは外国人が不審者と勘違いされることが多いそうだ。
不審者情報はことさら不安感を煽り立てるだけだと思う。
小学校では防犯ブザーを買うよう指導している。
何かあった時にそのブザーを鳴らしなさいということである。
無駄金だとしか思う。
防犯ブザーを何人の生徒が持っているか、防犯ブザーが使える状態かといった調査を小学校はしている。
防犯ブザーを買わない親は子供のことを気にかけていないと怒られているようだ。
女児が通っていた小学校の校長は、「子どもにも危険を回避する力が必要。この1年は、みんなで地域安全マップを作るなど、安全についてしっかり考えた1年だった」と振り返った、とある。
浜井浩一氏によると、地域安全マップの旗振り役である小宮信夫立正大教授は「地域安全マップは無害だ」と言っていたとか。
小宮信夫氏自身も本音では地域安全マップに効果があると思っていないのではないか。
地域安全マップ作りは町探検みたいな感じで結構面白いそうだが、下手をすると差別を植えつけ、危機意識を煽ることになりかねないから、無害かどうか疑問である。
こうした不安、危機感という感情のところだけで物事が論じられるのはおかしい。
弱い犬はよく吠えるように、恐れや不安によって他者に対して攻撃的になることがある。
体感治安の悪化は、治安の回復のためには凶悪な犯罪を防がないといけない、そのためにはより厳罰化しないと、という攻撃的なヒステリー状態を生む。
この困った風潮のためか、死刑判決が増えている。
12月29日の毎日新聞によると、今年、死刑を言い渡された被告は44人に上り、最高裁が集計をまとめた1980年以降、最も多いそうだ。
1980年以降、死刑判決を受けた被告の数は年間5~23人で推移してきたが、2001年に30人に達し」、年々増えてきている。
死刑判決が確定して拘置所に収容されている死刑囚94人と、戦後最多となった」。
死刑判決の増加は凶悪な事件が続発しているからではなく、「厳罰化の流れの反映」である。
以前なら有期刑か無期懲役だった事件でも死刑の判決が下っているわけである。
2001年に道交法改正で厳罰化が図られ、その効果で飲酒事故件数は2000年の2万6280件から年々減少し、昨年は1万3875件と大幅に減った。
厳罰化の効果があったようだが、ひき逃げ事件は目に見えた効果はなかった。
2000年の1万4050件から毎年増加を続け、昨年は1万9660件起きた。
なぜかというと、ひき逃げで検挙した5469人に対する調査で、全体の22・8%が「飲酒運転の発覚を恐れた」と回答している。
今年上半期は飲酒死亡事故に限ると、364件発生し、前年同期に比べ13件(3・7%)増加するなど、厳罰効果に陰りが見えてきた。
厳罰化によって、逆にひき逃げというマイナス効果を生んでいるわけである。