意識すればするほど、思っていたことが思い通りにならないのには疑問が湧(わ)く。実力があるにもかかわらず、いざ本番で意識する余り失敗してしまうことになる。もっと分かりやすい例だと、ホの字、要は惚(ほ)れてしまうことだが、^^ 意識して、相手に思いの丈(たけ)を伝えられず、ぼ、僕は…などと噛(か)むのが、それだ。^^
とある下町の定食屋である。看板娘の美代ちゃんに、すっかり絆(ほだ)されたサラリ-マンの奈島は日参するように食べ通うようになっていた。ベタ惚れ状態である。^^ 美代ちゃんも少なからず分かっていて悪い気はしなかったが、自分から言い出すことはなかった。
「おいっ! まだ11;30だぞっ! もう昼飯かよっ!」
奈島の課では、同僚が飛び出ていく奈島を冷やかした。それもそのはずで、会社から定食屋までは30分以上かかったのである。
「困った奴(やつ)だ…」
課長も奈島の情報は得ていて、定食屋へ日参していることは分かっていたから、遠回しにニヤけた顔で嫌味を言った。課長にも同じような過去の意識した出来事があった・・ということもある。
そんなことが繰り返され、一年が過ぎていったある日のことである。ついに、意識する奈島に奇跡が起きた。意識しない別の奈島が姿を現したのである。
『今日は、俺が行ってやるよ。お前のダサさは見ちゃいられねえからなっ!』
「はあっ? あ、ああ頼みます…」
そして一時間後である。
『話はつけてやったぜ。OKだとよ。あとはお前がやりなっ!』
そう告げると、意識しない奈島は意識する奈島の前から忽然(こつぜん)と消え失せた。
二年が過ぎ、奈島は美代ちゃんはパンパカパ~~ンと、めでたい曲が流れることになった。
どうしてそうなったかは疑問だが、ともかく、意識する人にも意識しない反面の心が潜(ひそ)んでいるようだ。^^
完