私達、日本人には世間体(せけんてい)を気にする人が多い。それがどういう訳かは疑問だが、ともかく外国の人々に比べると多いのは確かだ。その辺(あた)りが外国から移住した外国の人々には不思議に思えるらしい。外国では周りの人々がどう思おうと、自分が納得できればそれでいい…的な発想らしい。独自性[アイデンティティ]が世の中で許されている訳である。そこへいくと、日本では世間に馴染(なじ)まないと変な人として白眼視されがちだ。実は、その白眼視する人達が変な人達なのである。そのことに当の本人達は、まったく気づいていないのだから困(こま)る。^^
とある町の歳末風景である。雪が舞っている。別に舞わなくてもいいのに舞っている。^^
「このクソ忙(いそが)しいときにっ!」
小忙(こぜわ)しそうに街路を歩く一人の男が、ボソッ! と愚痴った。どう見ても、クソ忙しそうには見えない男だったが、その男の脳裏(のうり)には歳末は忙しいもの・・という世間体独特の思い込みがあったのである。そのとき対向から別の一人の男が歩いてきた。
「やあ! これはお隣の湯屋(ゆや)さんっ!」
「ああ! 禿山(はげやま)さんでしたか…」
湯屋は禿山に声をかけられ、小忙しさを瞬間、忘れた。
「どこぞへ?」
「いや、まあ…。正月ものでも・・と思いまして…。それにしても小忙しいですなっ!」
「ええ、まあ…。年の瀬ですから」
「お宅は?」
「いや、夜勤の帰りです」
「それはそれは…。お疲れのところを」
「いえいえ。それじゃ!」
歩き去る禿山の後ろ姿を見ながら、湯屋は小忙しくする世間体に、ふと疑問が湧いた。
※ 禿山氏は、私小説[あんたはすごい!]に登場した人物で、本作はスピンオフ作品です。^^
完