水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

楽しいユーモア短編集 (98)ゆとり

2020年01月02日 00時00分00秒 | #小説

 どれほど楽しいことでも、ソワソワしなければならないほど時間のゆとりがなければ、ちっとも楽しくない。急(せ)かされる次の予定が脳裏(のうり)を掠(かす)めて楽しめない訳だ。要は、その楽しいひとときに、ゆとりがないと楽しくならないということになる。
 とある列車の座席である。二人の老人が何やら話をしている。
「いや、こうしてゆったり座らせていただいておるのは誠に楽しいのですがな…」
「なら、いいではありませんか。他になにか?」
「そこなんです! 実は、駅に着いたあと、財界の食事会がありまして…」
「ほう! それはそれは…。お楽しみですな?」
「いや、それが、ちっともお楽しみではないのです。また、あの気むずかしい連中と駆け引き問答をせねばならんのか…と思いますとな」
「楽しくないですかな?」
「ははは…左様で。こうして、ボケェ~~と列車に揺られておる方が、どれだけ楽しいことか」
「なるほど…要するに、ゆとり・・ですかなっ!?」
「そう、ゆとりです! これが至福なんですなっ!」
「ははは…私ら貧乏人には分からん感覚です」
「いや、そんなことはないと思いますが…」
 そう言いながら、二人はゆったりと駅弁を食べ始めた。
 楽しい気分に浸(ひた)れるゆとりは、人それぞれ・・ということになる。^^

                                


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする