水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

疑問ユーモア短編集 (20)豊かさ

2020年01月24日 00時00分00秒 | #小説

 豊かさ・・とは何か? という疑問を少し考えてみよう。考えたくない人は、正月残りの餅(もち)でも焼いて食べていて下さればそれでいい。ただ、食べ急いで喉(のど)につめないよう、お願いいたします。^^
 豊かな暮らし・・これはもう、豊かさを感じるそのものっ! と誰もが思うことだろう。だがその豊かさを感じるには数多くの条件が満たされねばならない・・ということになる。その数多くの条件には、物や社会環境といった様々な条件が含まれる。物の場合は暮らしに不自由しない設備、家、生活物資などといった物質面に恵まれ、不足がない状態だ。社会環境だと、周囲の暖かい人々に恵まれ、戦争や紛争がない生活環境となるに違いない。孰(いず)れにしろ、心身ともに豊かさを実感できることが必須条件となる。何か一つでも欠ければ、豊かさの実感は薄れたり消え去ったりするのだ。
 正月開けの餅を古風な練炭火鉢(れんたんひばち)で焼きながら、二人のご隠居が語らっている。
「私ゃ、この安い餅を、こうやって焼きながら食べておるときが一番の幸せでしてな。しみじみ、豊かさを感じるんでございますよ」
「ほう! 偉(えら)く安い豊かさですなっ、ホッホッホッ…」
「はい! あなたの場合は?」
「私ですか? 私の場合は、やはり俳句ですかな。一句、捻(ひね)りますとな、そのゆとりの時間に豊かさを感じます」
「ほう! 偉く古風(こふう)な豊かさですなっ、ホッホッホッ…」
 それを少し離れたところで立ち聞きしていた息子の嫁が呟(つぶや)いた。
「練炭火鉢でお餅を食べてるお二人の時間、これが一番の豊かさ…」
 豊かさとは何なのか? は疑問だが、実体がないから人それぞれで違うことだけは確かなようだ。^^

                               完


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