水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

疑問ユーモア短編集 (2)感化

2020年01月06日 00時00分00秒 | #小説

 クリスマスが近づいている。クリスマスは言わずと知れたイエス・キリスト様の生誕(せいたん)をお祝いするキリスト教の儀式の一つである。クリスマス・イヴと呼ばれる前夜祭ともなれば、それはそれは厳(おごそ)かな聖歌が教会に流れ、教徒の人々は燭台(しょくだい)に灯(あか)りを灯(とも)し、静かにキリストの生誕をお祝いする訳だ。ところが、さほど信仰もしていない一般人が感化され、飲めや歌えと浮かれ狂うのは、悪いとは言わないが、よくよく考えれば疑問に思える。まあ、私も浮かれ狂いまではしないその一人である。^^ 真偽(しんぎ)のほどは分からないが、聞くところによれば、キリスト様は馬小屋でお生まれになったそうだ。別に馬小屋でなくても、ニワトリ小屋でもよい訳だが、コケコッコォ~!! クックドゥドゥドゥ~!! は、流石(さすが)に喧(やかま)しかったか…と思え、疑問はスゥ~っと消える。^^
 とある町のクリスマス・イヴの夜である。いつものように犬を連れて散歩する老人の目前に鮮やかな光を放つ色とりどりのイルミネーションが現れる。老人は一瞬、立ち止まり、その電飾に見惚れながら深い溜息(ためいき)を一つ吐く。感化されたのである。愛犬は感化されていないから、ワンワン! と吠(ほ)える。^^
「これ、これっ!」
 老人は手にしたリールを手繰(たぐ)り寄せ、愛犬を宥(なだ)める。見れば、愛犬は尻尾(しっぽ)を振って喜んでいるのである。要は、愛犬もクリスマスの電飾に感化されているのである。
「まっ、犬だからなっ。お前には分からんか、ははは…」
 老人には愛犬が感化されていることが分からないから、ふたたび歩を進めようとする。ところが、見惚れた愛犬は動きたくないから歩かずに吠え続ける。
「困ったやつだ。そんなにコレが怪(あや)しいか?」
「ワンワンッ!!」
 愛犬は、『怪しかないですよっ、美しいですねっ!』と言っているのである。
 このように感化されたかどうか・・までは傍目(はため)には分からず、疑問が生まれることになる。^^

                                完


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