水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

楽しいユーモア短編集 (97)手順

2020年01月01日 00時00分00秒 | #小説

 囲碁や将棋のプロ棋士がよく気にする手順という言葉がある。意味は言葉通り、物事をする順序が後先(あとさき)になることだ。手順前後の結果、上手(うま)くいくはずの物事が上手くいかなくなったりする。要するに、手順前後は手順が間違って悪い場合に使われることが多いのだ。上手くいかなければ当然、楽しい気分にはなれない。食事前にお菓子を食べて怒られたとしても、食事の後ならよかっのか? といえば、これは、どちらもよくないように思える。子供達よ! お菓子は小腹が空(す)いたときに食べよう。^^
 とある家庭の一場面である。ご隠居が朝から竹刀(しない)を手に、エイ、ヤア! と剣道の稽古に余念がない。そこへ孫の正也が現れた。
「じいちゃん、母さんがご飯だって!」
「ほう、そうか…。エイッ! 未知子さんがな。すぐ行くと言っといてくれ。コレは食べる前にやっておかんと意味がないんだ。ヤァ~!」
「そうなの? 食べてからじゃダメなんだ」
「そうだ。食べてからの運動はダメだ。食べる前だからいいんだ」
「要するに手順なんだね。…なぜなの?」
「なぜも、へったくれもない。ダメなもんはダメなんだ、トリャ~~!」
「ふ~~ん。健康によくないんだね」
「そう! それそれっ! トウリャ~~ッ!」
 ご隠居は誤魔化(ごまか)すかのように身構えた竹刀を鋭く振り下ろした。
「じゃあ、そう言っとく!」
「ああ…。正也も少しやらんか? 楽しいぞっ!」
「今はいいよ。母さんに叱(しか)られるから…」
「ははは…ミイラ取りがミイラになるか」
「ミイラ? ミイラは怖(こわ)いよ」
「確かに…アレは怖いな。ははは…トゥ~~!!」
 ご隠居の大声に正也は稽古か笑うかどっちかにして欲しい…と、単純に思った。
 手順などどうでもよかった、古きよき楽しい時代の一場面である。

                                

  ※ 風景シリーズに登場した湧水家のお二人の特別出演でした。^^


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