水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

疑問ユーモア短編集 (27)事件もの

2020年01月31日 00時00分00秒 | #小説

 テレビを観ていると、よく事件もののドラマが映る。この手の番組がお好きな人もあるだろうから、別に異論を挟む積もりはないが、どういう訳かハラハラして脈拍が速くなる。このドキドキ感やシリアスな感じが、たぶんファンには堪(たま)らないのだろう。個人差があるから一概(いちがい)には言えないのだが、お酒を飲んだあとの余韻(よいん)? いやいや、そんな感じとは違うのだろうが、私としては、なぜ? と、ふと疑問が湧くところだ。^^
 とある事件?現場である。と、いっても、遠い過去に起きた事件? である。裁判官立会いの下(もと)、実況見分が行われている。新しく赴任した裁判官、当時の弁護人、当時の検察官が何やら話している。
「どうなんです?」 
「なにが?」
 不意に当時の弁護人が当時の検察官に訊(たず)ねた。
「こういうの、事件なんですかねぇ~?」
「いや、私に言われても…。裁判所が呼んだんだから、そうなんでしょ」
 検察官は、『このクソ忙(いそが)しいのにっ!!』と怒れる気分をグッ! と我慢して穏(おだ)やかに返した。
「被害届が出て捜査に入ったのはいいが、結局のところ、裁判の途中で取り下げられたやつでしょ? しかも十数年も前だっ!」
 当時の弁護人はブツブツと不平を言う。
「私に言われても…。なんでも、当時の裁判官の趣味らしいですよっ」
「趣味!!」
 当時の弁護人は怒りを越えて呆(あき)れた。
「ええ、趣味で書類を申し送ったとか、なんとか…」
 気分は弁護人と同じく、検察官も裁判官も同じだった。というのも、当時の担当裁判官はすでに退任しており、裁判所から派遣された裁判官とは、なんら関係なかったからである。
『嫌だな…こういうのっ! 前の担当判事の趣味を、なぜ私がっ?』
 これが、この日、実況見分を依頼された裁判官の偽(いつわ)らざる疑問の湧く本音(ほんね)だったのである。
 世の中、こういう事件にもならない出来事ばかりだと平和なのだが、現実は事件報道が事件もののドラマを生み、その事件もののドラマが報道され、さらにまた事件ものがドラマ化される・・という現象が起きるのは、甚(はなは)だ疑問が湧くところだ。 負のスパイラルはやめよう!^^

                                完


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