水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

疑問ユーモア短編集 (3)におい

2020年01月07日 00時00分00秒 | #小説

 においには嗅(か)げば気分がよくなる、いい匂(にお)いと、悪くなる臭(にお)いがある。悪い臭いはやめるとして、^^ いい匂いは人によって違うが、香水や香道のお香なんかだろう。その中で、なんといっても鰻(うなぎ)専門店前のいい匂いは鰻好きには堪(たま)らない。^^ この辺(あた)りは落語にも登場し、匂いを嗅いで料金を請求された男が、一文銭(いちもんせん)をチャラチャラさせ、支払った! と粋(いき)がる面白い噺(はなし)もあるくらいだ。^^ まあ、それは兎(と)も角(かく)として、いい匂いを店前で嗅ぎながら、おにぎりを食べれば無料なのか? という気になる疑問が、ふと湧(わ)いた次第である。『あんたも暇(ひま)だな!』と言われれば、それまでなのだが…。^^;
 とある家庭の一コマである。昼前となり、離れのご隠居がソワソワしている。今日の料理はなんだ? …と、心待ちしているのである。それが分かったかのように、母屋(おもや)の方角からいい匂いが漂ってきた。
「… おお! 今日はカレーか…」
 ご隠居は、ヨイショ! と畳から立ち上がるとイソイソと
屋へと向った。その頃、母屋のキッチンでは、孫の小学生が残り物のカレーを美味(うま)そうに平らげていた。そこへ現れたのがご隠居である。だが、腹立たしいことに自分のカレー皿が出ていない。ふと疑問が芽生えたご隠居は、ここは訊(き)かねばっ! と思った。

「ははは…カレーですかな、昼は?」
「あら! お父さま。違いますの。これは残り物で…。お父さまには鯥(むつ)の味噌(みそ)焼きがご準備してありますわ」
 鯥の味噌焼きは、ご隠居の大好物だったから堪(たま)らない。ご隠居の疑問はたちまち解け、気分は上々になった。
 その後、しばらく経った二人の会話である。
「じいちゃん、カレー美味(おい)しかったよっ! カレーは煮込んだ最後の方が美味しいねっ!」
「ははは…じっくりと漬けられた鯥の味噌焼きも、どうしてどうして、なかなかの味わいでござるよっ!」
 二人の目に見えない勝負は、両者引き分けで幕を下ろした。ただ、ご隠居には、どうして味噌焼きの匂いが離れまで届かなかったか? という素朴(そぼく)な疑問が残り続けた。
 においは姿がないから、良(い)いにしろ悪いにしろ、疑問が湧きやすいのである。^^

 ※ 言わずと知れた、風景シリーズ・湧水家の方々の特別出演でした。^^

                                完


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする