「3歳に満たない子を養育する場合の標準報酬月額の特例」ができたのは、平成16年の改正の際でした。これは3歳未満の子を育てることにより短時間勤務等をすることで標準報酬月額が下がった場合であっても、年金額の計算においては子を育てる前の標準報酬月額を保障するという趣旨の規定です。
先日のBBクラブの勉強会の際に質問を受けて、条文を再度読み返してみました。質問の内容は概ね次の通りです。
1)第1子の養育特例を受けている期間中に第2子の養育特例を受けることになる場合、第1子の出産後短時間勤務をしていたりして標準報酬月額が下がっているため、第2子を養育することとなる前月の標準報酬月額を従前標準報酬月額とすると、第1子のときより保障される標準報酬月額が下がってしまうのではないか。
2)第2子を出産するとそこで第1子の養育特例は終了するので必ず第2子の養育特例の申出をし直さなければならないと言われたのだが前より厳しくなったのではないか。
これは平成26年4月からスタートした産前産後の保険料免除に伴う扱いの違いだろうと見当は付きました。条文を紐解くと良く考えられていたことが分かりますがあまりにマニアックになりますのでまずポイントだけ以下にあげておきます。その後に続く条文についての解説は興味のある方だけ読んで頂ければ幸いです。
【ポイント】(ここでは女性を前提として記しておきます)
1)第1子の養育特例期間中に第2子の養育特例を開始しても第1子で保障されていた標準報酬月額が適用され、保障が下がってしまうことはない。
2)第1子の養育特例期間中に第2子の産前産後の保険料免除が始まると第1子の養育特例は終了する。
3)第2子の産前産後の保険料免除期間に引き続き育児休業の保険料免除期間も養育特例は適用されず、次の養育特例は第2子の育休復帰後再度申出をすることで適用になり、第1子のときに保障されていた従前標準報酬月額が保障される。
昨年4月に、産前産後の保険料免除が開始すると養育特例は終了すると規定され、第2子の産休中には第1子の養育特例が適用されていない状態になりました。つまり第2子の養育開始の前月の標準報酬月額は特例の対象となっていないため低くなってしまう可能性があり、第1子の際の標準報酬月額を復活させるには第2子の養育特例の申出をしっかりする必要があり、年金事務所が前よりきちんと申し出ることを求めるようになったのではないかと思います。
【条文解説】
都合2回厚生労働省に問い合わせて確認してやっと紐解けたものですのでかなりマニアックです。
条文を改正前後で比べてみると厚生年金保険法第26条第1項第6号と第3項が加わっていました。この2つの条文は何を言っているかというと以下の通りです。
①第1項6号では、(第2子の)産前産後の保険料免除が開始すると現に受けている(第1子の)養育特例は終了すること。
②第3項では、該当の子(第2子)以外の子(第1子)について養育特例を受けていた場合については、産前産後の免除による(第1子の)養育特例の終了がなかったとすることができ、以前から受けていた第1子の従前標準報酬月額を保障させることができる。
産前産後の保険料免除が昨年スタートするまでは、第1子の養育特例期間中に第2子を出産することになった場合、第2子の育児休業が開始するまでは養育特例が終了することはありませんでした(第26条1項5号)。つまり第2子の特例開始月である「養育することとなった月」には第1子の養育特例を受けていた=第1子の特例である従前標準報酬月額が適用されていた、ということになります。第2子の養育特例においても従前標準報酬月額がそのまま使えるという状況でした。
そこで、条文の第1項(アンダーライン①)の規定により第2子の育児休業が開始した場合の従前標準報酬月額は不利にならないように第1子の従前標準報酬月額をみなす扱いができるようになっています。
しかし、産前産後の保険料免除が開始されたことにより、その時点で第1子の養育特例は終了することになり、第2子の「養育することとなった月」の標準報酬月額は特例を受けていない低い標準報酬月額である可能性が高いということになりました。
その場合のために第3項の、産前の保険料免除期間による養育特例終了がなかったとみなして(アンダーライン②)第1子の従前標準報酬月額の保障を第2子の養育開始時から再度受けられる、というために規定する必要があったということになります。
(三歳に満たない子を養育する被保険者等の標準報酬月額の特例)
第二十六条 三歳に満たない子を養育し、又は養育していた被保険者又は被保険者であつた者が、厚生労働省令で定めるところにより厚生労働大臣に申出(被保険者にあつては、その使用される事業所の事業主を経由して行うものとする。)をしたときは、当該子を養育することとなつた日(厚生労働省令で定める事実が生じた日にあつては、その日)の属する月から次の各号のいずれかに該当するに至つた日の翌日の属する月の前月までの各月のうち、その標準報酬月額が当該子を養育することとなつた日の属する月の前月(当該月において被保険者でない場合にあつては、当該月前一年以内における被保険者であつた月のうち直近の月。以下この条において「基準月」という。)の
①標準報酬月額(この項の規定により当該子以外の子に係る基準月の標準報酬月額が標準報酬月額とみなされている場合にあつては、当該みなされた基準月の標準報酬月額。以下この項において「従前標準報酬月額」という。)を下回る月(当該申出が行われた日の属する月前の月にあつては、当該申出が行われた日の属する月の前月までの二年間のうちにあるものに限る。)については、従前標準報酬月額を当該下回る月の第四十三条第一項に規定する平均標準報酬額の計算の基礎となる標準報酬月額とみなす。
二 第十四条各号のいずれかに該当するに至つたとき。
三 当該子以外の子についてこの条の規定の適用を受ける場合における当該子以外の子を養育することとなつたときその他これに準ずる事実として厚生労働省令で定めるものが生じたとき。
四 当該子が死亡したときその他当該被保険者が当該子を養育しないこととなつたとき。
五 当該被保険者に係る第八十一条の二の規定の適用を受ける育児休業等を開始したとき。
六 当該被保険者に係る第八十一条の二の二の規定の適用を受ける産前産後休業を開始したとき。
2 前項の規定の適用による年金たる保険給付の額の改定その他前項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。
3 第一項第六号の規定に該当した者(同項の規定により当該子以外の子に係る基準月の標準報酬月額が基準月の標準報酬月額とみなされている場合を除く。)に対する同項の規定の適用については、同項中「この項の規定により当該子以外の子に係る基準月の標準報酬月額が標準報酬月額とみなされている場合にあつては、
②当該みなされた基準月の標準報酬月額」とあるのは、「第六号の規定の適用がなかつたとしたならば、この項の規定により当該子以外の子に係る基準月の標準報酬月額が標準報酬月額とみなされる場合にあつては、当該みなされることとなる基準月の標準報酬月額」とする。
今回のこのあまりにもしつこい追求により、2012.7.15の「子の養育特例」の内容に誤りがあることが分かりました(一部削除しました)。申し訳ありません。でもやっとスッキリしました。2週間がかりでした。